1-3 任せてっス
「もしかしてパソコン壊れた?」
画面は真っ黒だった。
電源ランプだけが、呼吸みたいに明滅している。
「よし、ポチ呼ぶか」
くりが当然みたいに言う。
「誰やねん」
「俺と一緒で、話せる友達」
「ウーバーのノリで喋れる犬呼ぶな」
前足で器用にスマホを操作するくり。
発信音が鳴る
プルルル。
「もしもしっス?」
礼儀正しい声がスマホから流れる。
「ポチ、来てほしい!」
「了解っス」
「画面落ちた。多分パソコン壊れた」
「すぐ向かうっス!」
ピンポーン。
数分後、インターホンが狭いマンションに鳴る。
ドアを開けると、胸を張った茶色い柴犬が立っていた。
赤い年季の入った工具箱を持っている。
「遅れてすみませんっス」
「大丈夫やで」
ポチがパソコン前に座って画面を確認し、直ぐに作業を始める。
キーボードを叩く速度が異様に速い。
画面が一瞬、青く光る。
──CRI
文字が、ほんの一瞬だけ浮かんだ。
ポチの耳がぴくぴくと動く。
動きが止まった。
「どうした?」
くりが聞く。
「……いや」
視線が画面の奥を読む。
「外部アクセスの痕跡があるっス」
「は?」
「この端末、ずっとどこかと同期してるっス」
部屋が静かになる。
「で、直るん?」
リツキがわざと軽く言う。
「直すっス」
ポチが自信満々に答えた。
数分後、画面は正常起動。
フォルダは空になっていた。
CRIのファイル、
Dr.Cobaltのメールまで、
全部、消えている。
「……便利やな。証拠隠滅まで標準装備か」
リツキが笑うが、ポチは答えない。
画面の端に小さくログが残っている。
《CRI-01 同期完了》
ポチが素早くウィンドウを閉じた。
「何今の」
「ゴミファイルっス消したほうがいいっスよ」
即答。
早すぎる。
くりだけが、ポチを見ている。
「ポチ」
「はい」
「お前、どこでそんなん覚えた?」
沈黙。
「独学っス」
夜。
ポチは帰った。
「泊まらんの?」
「……用があるっス」
玄関で振り向かずに言う。
「外部回線は、切っておいたほうがいいっス」
ドアが閉まる。
部屋は静か。
リツキはベッドに倒れ込む。
「犬がネットの心配する時代か」
くりがパソコンを見つめている。
「リツキ」
「なに」
「Wi-Fiおかしい」
「一回切ってこい」
「わかった……」
その瞬間。
スマホが震えた。
通知。
《PC、Wi-Fiのバックアップ完了》
保存先:kngw.pc
所有者:Dominion
喉が、からっからに乾く。
「……なあ」
リツキは笑う。
「おかしいのは、パソコンだけやんな?」
くりは答えない。
画面の電源ランプが、ゆっくり明滅する。
呼吸みたいに。
外部回線は、確かに切ったはずだった。




