第1話 くまちゃんのだいどころ
親子でよむものがたり
くまちゃんの台所で、かいぎはおどる
第1話 くまちゃんの台所
くまちゃんの台所では、
みんな、よくしゃべる。
「みんな」というのは、
ちょっと、いいすぎかもしれない。
おとなしいやつも、いる。
けれど、とにかく、
それぞれが考えて、
意見を出しあって、
くまちゃんのかわりに、
毎日のメニューを決めている。
「いまさら、ダメって言うなんて。」
「ねえ、その“ダメ”って、なに?」
「もう決まったことでも、
えらい五人は、
『いやだ』って言えるんだよ。」
「それって……ずるくない?」
「しーっ。
大きな声を出すと、
にらまれるよ。」
「えー、こわいんだけど。」
――これは、
台所から聞こえてくる声だ。
その「五人」というのは、
冷蔵庫、
電子レンジ、
食器棚、
ガスコンロ、
そして、どんぐり蒸し器。
べつに、家電に
AIがついて、
もう何年もたつから、
この、くまちゃんの台所で、
台所のものたち――
(かれらは、自分のことを
「道具」だとは
思っていない)――
しゃべったり、
意見を言ったりするのは、
めずらしいことではない。
めずらしいとしたら、
この、どんぐり蒸し器ぐらいだろう。
でも、きっと、
説明はいらない。
文字どおり、
どんぐりを蒸す機械だ。
これで蒸すと、
どんぐりが、
ふわーっとして、
くまちゃんの
だいすきな味になるのだ。
「どんぐりっていったって、
いろんな、どんぐりがあるんだ。
みずなら……」
どんぐり蒸し器の
話しかたは、
ちょっとだけ、
理屈っぽい。
しゃべれるのは、
もちろん、
この五人だけではない。
お皿も、
おわんも、
おたまも、
へらも、
電気ポットも、
やかんも、
みんな、しゃべる。
むかしは、
仲よく、
メニューを決めていたことも、
あった。
けれど、さいきん、
ちょっと、
おかしい。
そう。
食材まで、
話しだすように、
なったのだ。
冷蔵庫は、
前よりも、
たくさん、
電気を使うようになった。
それが原因かどうかは、
わからない。
けれど――
この夜、
なにかが起こりそうな、
そんな気配が、
台所に、
そっと、
ただよっていた。
(つづく)




