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魔法少女のマスコットは百合が見たい!  作者: ぬのきれタ
01.一人目の魔法少女
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第6話 一人目の魔法少女

「な、何これ……」


 ダークモンスターが街で暴れているのを見て日和が震える。俺は日和に向き直って日和の両手を掴んだ。


「日和、お願いだ。魔法少女になってあいつと戦ってほしい」


 日和が首を傾げる。


「魔法少女ですか……?」

「ああ。頼む、今は日和にしか頼れないんだ」

「で、でも私……」


 ≪あぁぁああぁああああ!≫


 突然ダークモンスターが唸り声をあげた。驚いてそちらを見ると、ダークモンスターが俺たちに向かって尻尾を振り下ろしてきた。


 ≪日和に近寄るなあぁぁああああ!≫


 ダークモンスターの手はまっすぐ俺たちを狙う。

 まずい。このままでは潰されてしまう。


「日和、こっちだ!」

「わあっ!」


 日和の手を引っ張り、走ってその場を離れる。攻撃が地面に当たって衝撃が生じた。俺と日和が吹き飛ばされる。


「日和!」


 俺は日和の手を掴んで引き寄せて抱きしめる。そして俺の背中がコンクリートの壁にぶつかった。


「ぐあっ……」

「守里さん!」

「っ、……俺は大丈夫だ」


 さっきまで俺たちがいたところの地面は粉々である。日和に危険が及ばなくて良かった。


「日和、詳しく説明する時間がなくてすまない。でも見てくれ。あのモンスターの紫色の宝石のところを」

「宝石……? ……っ、怜奈!?」

「怜奈を助けられるのは今、君だけなんだ」


 日和が俯く。拳がきつく締められる。俺は力を振り絞って拳を作る日和の手を掴んだ。


「……日和、頼む。みんなを救ってくれ……!」


 日和が顔をあげて俺を見た。


「分かりました。私、魔法少女になります!」

「……! その言葉を待っていた!」


 俺は変身を解いて日和の元へ向かう。日和が俺の姿を見て目をまん丸にした。


「え、守里さん!? 妖精!?」

「話は後だ! これを日和に渡す」


 俺は手を叩き、魔法少女の変身アイテムであるステッキを渡す。


「そのステッキに日和の願いを叫んでくれ!」

「ええ! 私の願いって、何を言ったらいいんですか!?」

「俺に話してくれたことを言えばいい」

「! ……分かりました」


 日和は大きく息を吸うと、ステッキに向かって叫んだ。


「私は、怜奈を助けたい!」


 日和が叫ぶとステッキが虹色に輝いた。ステッキから放たれた虹色の光が日和を包み込んでいく。魔法少女が変身するところを見たのはこれが初めてだ。俺はつい釘付けになった。

 少しして日和の全身を包み込む光が消え、魔法少女となった日和が現れる。


「勇気を心に咲かせましょう! 魔法少女、マジカル☆チェルア!」


 変身前よりも長くなりピンク色に変化した髪は二つ結びに結われている。タレ目で困り顔、メカクレなのは相変わらずだが、背筋が伸びているからか変身前より大人っぽく見える。

 髪と同じくピンク色のワンピースは胸元にリボン、スカートにはフリルがあしらわれており、側面にはハートの刺繍がいくつも散りばめられていていてとても可愛らしい衣装だ。


「私、かわいい格好になってる……!?」


 日和がピンクのワンピースや髪を触りながら目を丸くする。微笑ましい様子に口角があがる。しかし悠長にしている時間はない。

 ダークモンスターが魔法少女に変身した日和、チェルアに向かってビームを打って攻撃をしてくる。


「チェルア! そこから離れろ!」


 俺の声にチェルアが顔をあげた。頭上からやってくる攻撃を見て、チェルアが空へ大きく飛び跳ねた。


「わ、私……すごくジャンプしてる!?」

「魔法少女になると身体能力が何倍にも増す。そしてチェルアが持っているそのステッキに思いを込めると、攻撃ができる!」

「分かった!」


 チェルアがステッキを胸に当てる。そして、大きな声で叫んだ。


「怜奈、目を覚まして!」


 チェルアの声に反応したようにステッキが光を放った。ステッキから桜の花びらが現れてすぐ、花びらは鋭い刃となりダークモンスターを切りつける。

 俺はその光景に釘付けになった。妖精として魔法少女のことを学んでいたとはいえ、実際に攻撃する様子を見るのは初めてだ。これが魔法少女の力か。


 ≪あぁああぁぁああああ‼ いたい、いたい!≫


 ダークモンスターが苦しそうに唸り声をあげ、手足や尻尾をじたばたさせて暴れだす。


 ≪私のことが嫌いなんだぁあぁぁああ!≫


「っ、怜奈……! ごめん、私……そんなつもりじゃ……!」


 チェルアが攻撃を止めた瞬間、ダークモンスターがチェルアに向かって尻尾を振った。避けられなかったチェルアは吹き飛ばされ、そのままビルの壁にめり込んだ。


「チェルア!」


 ≪いや、嫌、いやぁああぁああああ‼≫


 俺の声にチェルアは反応しない。俺は駆け寄ろうと力を振り絞って立ち上がるが、背中がずきずきと痛んで思ったように動けない。その間にもダークモンスターは暴走したようにビームをあちこちに放った。

 ビームの一つが、俺の頭上にとんだ。俺のすぐそばにある建物にビームがあたり、がれきが落ちてくる。

 まずい、避けられない。

 俺はなすすべもなくがれきの下敷きになり、意識を手放した。



 ***



 どうしてこうなったんだろう。何度考えても答えなんか出るわけないって分かっているのに、私はついそんなことを考えてしまっていた。

 守里さんに会ってくれた時、怜奈の味方をすればよかったのかな。

 怜奈に守里さんの話をしたことが間違いだったのかな。

 そもそも、私が守里さんに出会わなければよかったのかな。


「……私、何かのせいにしようとしてばっかりだな」


 体中が痛い。魔法少女になって、いつもより体が軽くて、魔法が使えて、これなら怜奈を助けられるかもって思ったのに。現実はどうだろう。私は立ち上がることすらできないでいる。今、怜奈を助けてあげられるのは私だけなのに。


 ≪なんで、私ばっかり苦しいのよ‼≫


 怜奈を紫色の宝石に閉じ込めたモンスターが叫ぶ。もしかしたら怜奈の心の叫びなのかもしれない。うすうすそんな気がしてた。怜奈の心がモンスターになって現れたのかも、と何の根拠もないけど、戦っててそんな気がしたのだ。

 だからこそ腹が立つ。どうして怜奈が苦しい思いをしているの? 何でもできる怜奈は、苦しいって思うことなんかないのにって、僻みにも似た思いが頭から離れない。

 だけど同時に安心した。怜奈でも苦しいって思うことがあるんだなって。

 そういえば、怜奈は昔から何でもできたわけじゃなかった。


「もう! どうやったらうまくできるのよ!」

「怜奈、落ち着いて?」

「落ち着けないわ! 全然うまくできないの! もうちょっとで逆上がりできそうなのに~!」


 怜奈はできないことが悔しくて何度も練習してた。それが逆上がりだったり、勉強だったり、家事だったり、……。


「そっか、怜奈はずっと努力していたんだ」


 私が嫌で逃げていたことも、怜奈はちゃんと向き合って頑張っていた。そんなことも忘れて怜奈を羨ましがっていたなんて。


 ――日和の気持ち、怜奈に伝えてみたらどうだ?


 守里さんに言われたことを思い出す。


「私、怜奈に謝らなきゃ」


 表面のことばかり見て、怜奈自身のことを見ていなかった。だからいつの間にか私は怜奈の気持ちが分からなくなっていたんだ。

 不思議と力がみなぎってくる。鉛のように重たかった体は、風船にでもなったみたいに軽くなってすっと立ち上がることができた。


「怜奈、今行くから……!」


 私は足に力を入れて、さっきみたいに空に向かって高く飛ぶ。いつもよりも雲が近くて、なんだかいつもの私じゃないみたいだ。

 今の私ならきっと大丈夫。そんな予感がしながら、私は怜奈の元へ向かった。

 近づいてきた私にモンスターが気づいたようで、ビームを打ってくる。


 ≪邪魔しないでぇえぇぇええええ!≫


「怜奈! 私、あなたに話したいことがあるの!」


 ≪聞きたくない!≫


 モンスターは暴れ続ける。私の声なんか届きそうにない。


 ――チェルアが持っているそのステッキに思いを込めると、攻撃ができる!


 妖精になった守里さんの言葉を思い出す。怜奈を攻撃したくない。だけどそれ以外怜奈を元に戻す方法はなさそうだ。

 やるしかない。私はステッキを胸に当てる。


「お願い、力を貸して。怜奈を助けたいの……!」


 ステッキがきらきらと光り始める。ステッキはだんだんと姿を変えて大きなハンマーに変わった。

 力がみなぎってくる。今ならなんだってできる気がした。

 モンスターの姿をしっかり見据える。モンスターは苦しそうに唸り声をあげて暴れている。


「怜奈、今度は私が助ける番だよ」


 私は精一杯の力を込めて、ハンマーをモンスターに振り下ろした。


「あなたの心の壁を壊す! いくよ、マジカルハンマー!」


 ≪ああ、あ、あぁぁあああぁぁああああああ!≫


 モンスターが悲鳴をあげた。紫色の宝石にひびが入る。

 あの宝石が割れたら、怜奈を助けられるかも……! 私はハンマーに込める力を強めた。モンスターの体が塵になって溶けていく。そしてついに紫色の宝石が割れた。


「怜奈!」


 私はハンマーをステッキに戻して怜奈の元へ向かう。紫色の宝石は割れていて、手を伸ばすと怜奈に触れることができた。私はそっと怜奈の頬に触れる。


「怜奈、無事だよね……?」


 頬をむにむにしても目が覚める様子はなかった。目を瞑り、手足に力が入っているはない。怜奈は気を失っているみたいだ。

 モンスターの体は既に半分が塵と化している。ここに留まるのは危険だ。

 仕方ない。私は怜奈を背に乗せてその場を離れた。

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