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魔法少女のマスコットは百合が見たい!  作者: ぬのきれタ
06.四人目の魔法少女
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第42話 オタク同士の語り合い

 ピンポンとインターホンを鳴らす。ぱたぱたと足音が近づいてきて八雲が中から出てきた。


「守里さん! ちゃんと酒井小百合の格好で来てくれたんですね」


 八雲がくるくると俺の周りを回る。


「漫画でしか見れないと思ってたからテンションぶちあがる……」


 見たこともないほど八雲が目をキラキラさせている。いつものおどおどした様子はない。微笑ましくて頬が緩む。


「はう……! 微笑みの威力半端ない!」

「大丈夫か?」

「やめて、近づかないで! 顔面が良すぎて死んじゃう!」


 わちゃわちゃしながら八雲の家に上がらせてもらう。

 八雲の部屋に入ると、本棚からたくさんの本を持ってきた。


「守里さんならきっとハマると思うんですよね」


 俺の前に本を広げる。よく見ると、どれも百合の漫画本だった。本を前にして、八雲の目が光る。


「それじゃあ、たくさん読んでたくさん一緒に語りましょう、守里さん」




「この関係性いいな……」

「ね! 守里さん、いいでしょ! これは百合の花園のスピンオフ作品なんだけど、うちはこっち激推し! 元作品が女子高で、こっちのスピンオフに出てくる高校も女子高だけど王子様系女子が多いから、うちはこっちの高校の夢女してるんだよね!」


 夢女。または夢女子。先程その概念を八雲から教えてもらった。確か、キャラクターと自分が付き合っている妄想をする人のことだったはず。

 俺はキャラクター同士が絡み合う姿を妄想することはあっても、自分とキャラクターが仲睦まじく一緒にいる想像はしたことがない。試しに想像しようとして見るが、そもそも自分がこの世界にいる想像ができない。


「守里さんはどこのカプに一番萌える?」

「俺はこの二人だな」

「あっ、いい! うちもその二人好き! 自分たちだけの世界がある感じが最高だよね!」

「ああ。他の人たちが困った時に手を貸す程度で見守っている感じもいい」

「うちはねー、このカプが好き」


 床に散らばっている本から一冊を取り出して俺に見せる。八雲が一番目におすすめだと勧められて読んだ本だ。

 ヤンキー漫画で、ヤンキーに間違えて転校してきたお嬢様系主人公の心の清らかさに惚れたヤンキーの女の子が、主人公を守りながら楽しい高校生活を送ろうとする話だ。

 基本的にヤンキー要素がある割にはほのぼのしていて楽しいのだが……。


「八雲が好きなカプ、業が深いな……」

「だって、業が深いところが好きなんだもん。相手の初恋の相手が自分だと知らずに嫉妬するところはいいけど、それを全部分かった上で構われたいからあえて黙っているところとか策士過ぎて良くない? 軽率に沼るでしょ、こんなん」


 理解できなくもない。だがしかし、俺は何も考えず愛でられるカップルのほうが好きだ。


「俺はなるべく平和なのがいいな」

「守里さん、もしかして三角関係のものは苦手なタイプ?」

「うーん……あまり好きではないな。振られてしまう子がかわいそうになる」

「マジか。ピュアじゃん。うち、病み系好きだからこういう歪んでんの好きなんだよね」


 八雲が興奮した様子で語る。いつの間にか敬語が外れていた。そっちのほうが俺としても話しやすくていい。


「守里さん、楽しんでる?」


 八雲が急に不安そうに俺の顔を覗き込んできた。


「楽しんでるけど、どうして?」

「いや、遠い目をしていたから面白くなかったのかと思って……。うち、誰かと語り合うの初めてだから、うまくできてるか分からなくて……」


 いつものおどおどした八雲に戻ってしまった。俺は安心させるように落ち着いた声で話しかける。


「大丈夫だ、八雲。俺はとても楽しいよ。今月から百合本を買っていいと解禁されたとはいえ、どのくらい買っていいのか加減が分からない俺は、怒られるのが怖くて今月はまだ変えていないからな。新鮮な百合を摂取できるだけで満足だ」

「……それ、うちのこと利用してるってこと?」


 呆れたように目を細める。確かに今の言い方では利用されていると思われてもおかしくない。俺は慌てて首を振った。


「そうじゃない。俺はただ、一緒にいるのが楽しいと言いたくてだな。えっと……」

「……最初っからそう言ってくれればいいのに」


 そう呟く八雲は、柔らかく微笑んでいた。俺が次の言葉を見つける前に、八雲が口を開く。


「守里さん。うちの名前、八雲唯香って言うんだ。だから、……草加部さんや雨宮さんのことを呼ぶみたいに、うちのことも唯香って呼んでよ。そのほうが距離が近い気がして嬉しい。うちも咲って呼んでいい?」

「ああ、いいよ。じゃあ今度から唯香って呼ぶな」

「うん。じゃあ……えっと、咲。これからもうちとこうやってオタク語りしてくれる?」

「もちろん。むしろこちらこそよろしく頼むよ、唯香」


 八雲が嬉しそうに笑う。俺もつられて笑みを浮かべた。


「唯香……ついにお友達ができたのね」


 声がした方を振り向くと八雲の母親がおやつを持って、立っていた。こちらを見て嬉しそうに涙ぐむ。


「お、お母さん! やめてよ、恥ずかしい」

「でもせっかく唯香のお友達が来てくれたでしょう? 咲さんだっけ? お母さんにもお友達のお顔を見せてよ」


 唯香は中々出て行かない母親からおやつを受け取ると、顔を真っ赤にして母を部屋から追い出した。

 ふうっと息を吐いて隣に座る。


「まったく、お母さんったら。全然油断できないんだけど」

「いいお母さんじゃないか」

「……まあ、悪い人じゃないけどさ」


 唯香はまんざらでもない顔をする。俺が微笑ましくその様子を見ていると、唯香が真剣な顔つきで話してきた。


「それよりもうち、守里さんと話したいことがあるんだけど」

「なんだ?」


 唯香が声を落とした。


「うちら魔法少女の人間関係……百合が咲き乱れてね?」


 俺は驚いて唯香の顔を見た。まさかの同士がここにいたとは。俺は手を差し出す。唯香が察して握手をしてくれた。お互いに顔を見合わせ、頷き合う。分かり合うと言うのは、こんなにも気持ちがいいものなのか。


「俺は日和と怜奈の恋路を応援している。唯香はどうだ?」

「うーん……王道の幼馴染コンビはめちゃめちゃありなんですけど、月詠氏が案外いい味出してるんだよね。うちは月詠氏のことも応援してるよ」

「月詠って、日和か怜奈のことが好きなのか?」

「絶対そうだよ! だって草加部氏にずっと話しかけてるし、雨宮氏のこと絶対ライバル視してるもん!」

「なんてことだ……」


 もし本当なら応援してやりたいのはやまやまだが、俺には怜奈との約束がある。


「俺は怜奈に応援すると言ったから、月詠のことは申し訳ないが応援できない」


 代わりに心の中で楽しませてもらうとしよう。


「咲、今なんて言った?」

「ん? だから、怜奈に応援すると言った――」


 唯香が俺の肩をがっちりと掴む。


「さ、咲、雨宮氏に直接話したの?」

「ああ」

「はあ、これだからオタク初心者は」


 唯香がため息を吐いて自分の頭を抱える。まるで俺がとんでもない罪を犯してしまったかのような反応だ。


「唯香、俺は何か悪いことをしてしまったのか?」

「当たり前じゃん! これはいわゆるナマモノだよ! あくまでうちらが勝手に妄想してるだけなんだから嫌な思いをさせるかもしれないし、本人に直接言っちゃいけないんだよ」

「けど、怜奈は嬉しそうしてたぞ」

「何それ詳しく」


 唯香が迫ってきたところで俺の電話が鳴った。電話は、怜奈からである。


「怖っ。タイミングを見計らったように雨宮さんから電話が来たんだけど」


 俺も同じことを思った。噂をすれば影がさすとはいうが、まさにこのことだろう。

 電話に出ると、うっすらとお洒落なBGMが聞こえてきた。おそらくカフェ『夕やけ』に来ているのだろう。


『もしもし、守里? 今カフェで月詠に魔法少女が何かを教えていたんだけど、今から来れる?』


 ちらっと唯香を見る。俺としては仕事を優先したいが、唯香との約束を破るわけにはいかない。そんな心配は徒労だったようで、唯香は首を大きく縦に振っていた。


「分かった。今から行くよ」

『ええ。日和と月詠と待っているから』


 そう言って電話は切れた。


「みんな揃っているんだな。唯香も行くか?」

「ううん、うちはここで待ってる。うちが行ってもできることはないし」

「そうか。じゃあ行ってくる。楽しかったよ、唯香」

「……ねえ、咲」


 唯香がもじもじとした様子で言う。


「またうちと一緒に遊んでくれる?」


 俺は笑って、唯香の頭を撫でた。


「もちろん。俺も楽しかったし、また来るよ」

「……たらし属性あるの、やばあ」


 唯香が顔を背けられてしまって、表情を見ることはできなかった。


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