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魔法少女のマスコットは百合が見たい!  作者: ぬのきれタ
05.三人目の魔法少女
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第35話 いつもと違う自分

 派手なアクションが画面内で起こる。最後の斬撃が敵に当たった直後、パソコンの画面には“Clear!”とでかでかと表示された。


「よしっ、ボスの討伐終わり!」


 つい声に出るが、自分の部屋に一人でいるので聞かれる心配はない。聞かれたとしても部屋の外にいる家族だけだろうから、うちにはノーダメージだ。

 リザルト画面に切り替わり、華々しい功績が数字となって現れる。自分が動かしている可愛い姿のアバターが可愛い勝利ポーズを決めた。可愛い格好で可愛いポーズをするんだから可愛いに決まってるのだ。自慢のアバターが思い通りに動いてくれるので、心が満たされる。それに、難易度の高いボス戦を仲間とともにやってのけた。その達成感がすがすがしい気持ちにさせてくれる。

 チャットを開けば、予想通り一緒に戦った仲間たちが騒いでた。


『GG すべてが噛み合ったな』

『俺らしか勝たんw』

『ふっ、世界を救った時と比べれば造作もないことよ』


 チャット画面を見てふっと笑みが零れる。うちもチャットに書き込む。


『おまいら最高でござる』

『それなw』

『棗さんの回復のおかげですわ』


 “棗”というのはうちのハンドルネームだ。本名は違う。八雲やくも 唯香ゆいかと、ハンドルネームとは一字も被っていない。

 ネットは好きだ。自分のいたい自分でいられるから。嫌いな自分は見なくてすむし、姿や性格すべてありたい自分でいられる。


『拙者、ネットの世界が現実になってほしいで候』


 つい願望をチャットに打ち込む。きっとみんななら分かってくれるだろうと思ったら、思ったのと違う反応が返ってくる。


『俺は推しは推しとして見たいタイプなんで』

『うおw 世界の卵氏、それはガチ恋を誤魔化すオタクのセリフw ちなみに俺氏は彼女いるからリアルのままでよきwww』

『我は棗殿の気持ちが分かるぞ。いくらここで頑張っても、皆に知られてなければ評価してもらえないからな』


 うちは笑みをこぼす。分かってくれる人もいて嬉しい。この人は中二病でイタいけど、悪い人では無さそうなんだよね。


『漆黒の堕天使氏のお言葉、ありがたし!』


 うちが返信するとチャットが加速した。


『漆黒の堕天使さんのそれ、世界を救った話のこと? 俺さすがにもうお腹いっぱい』

『まだまだ語り足りないわ。人目を忍んで世界を救ったところで、所詮孤独である。であれば自ら布教せねば闇に葬られてしまうだろう』

『イタタタタタw』


 いつもだったら『夢物語乙』と返すところだろう。けれど今日はできなかった。学校で、実際に人知れず世界を救ってそうな存在に出会ってしまったから。




 グループ学習で草加部さんが抜けた後のことだ。うち、雨宮さん、月詠さんの三人だけになった。さっきまでうるさかったのに、草加部さんが抜けただけで場は静かになった。けれどその分緊張感はマシマシである。


「ねえ、日和いつ戻るのかしら」


 まだ1分も経ってないのに、雨宮さんはペンでノートをとんとんとして落ち着かない様子だ。誰から見ても完璧な優等生の雨宮怜奈さん。けれど、誰が見ても草加部さんを特別扱いしてるのが分かるくらい、いつも草加部さんのそばにいる。黙ってても雨宮さんの周りには人が集まるのに、草加部さんを見つけたら集団をかき分けて駆け寄る勢いだ。今だって、今すぐにでも草加部さんのところに行きたいのだろう。


「たかがトイレに行っただけなのに、雨宮は過保護だね?」


 月詠さんが煽る。普通の会話のように見えるけどうちには分かる。さっきの草加部さんは仲良くないうちから見ても何か隠している様子だった。けれど月詠さんはあえて日下部さんの言葉を信じるふりをして煽ってるのだ。知的でクールな月詠有栖さん。成績は学年2位いつも雨宮さんとトップ争いをしてる。物静かな印象だけど、雨宮さんと話す時だけ当たりが強い。成績で勝てないからか草加部さんのせいなのか、……理由は明白だ。


 二人が顔を見合わせる。バチバチと火花が散ってる様子を幻視する。

 うちは息を潜めた。なるべくこの会話に入りたくない。というか学年ツートップを無自覚にたらしこんでる草加部さんがおかしいのだ。一般ピープルをいつ爆発するか分からない火薬庫に巻き込まないでほしい。

 雨宮さんがため息を吐く。


「仕方ないわね。……八雲さん」

「ひゃい!」


 急に名前を呼ばれて声が裏返る。恥ずかしいけど目の前の二人はうちのことなど気にする様子すらない。


「日和のこと見に行ってみてくれないかしら。……さっきの様子だと何か隠していそうで心配なの」


 心配そうな雨宮さんだけでなく、月詠さんもうちを見ていた。お互いに、相手が行くぐらいなら関係ない第三者に行ってもらおうという魂胆なのだろう。挟まりたくない間に挟まってしまった。


「……分かりました」


 ここで断る勇気のないうちは結局教室を出て草加部さんを探しに行ったのだ。




 そして仕方なく様子を見に行ったら廊下の奥から声が聞こえたのでそっと覗いた。そしたらもふもふしたぬいぐるみみたいなのが宙に浮かんでいて、魔法少女とかダークモンスターとかファンタジーチックなことを電話で話してたのだ。

 自分の頭がおかしくなったのかと一瞬思ったけど、草部さんが真剣な顔でその黄色いもふもふを見つめて、夢じゃないと悟った。


 ――八雲さん、ちょっとだけでいいの。私とお話しして!


 うちの手を握ってきた草加部さんは可愛かった。小動物的なあの可愛さが学年ツートップの心をがっちりつかんだとよく分かる。そしてその二人に邪魔されたせいで結局魔法少女の話ができなかった。

 きっと明日学校に行ったら、また草加部さんはうちを魔法少女に勧誘するのだろう。うちはなんて答えようかな。


 うちはゲームの画面に目を向ける。すっかり解散ムードの仲間たちのチャットを横目に自分の最強にかわいいアバターを眺めた。


 もし自分とは全然違うになれたら。それこそこのゲームのキャラクターのように。

 そんな想像は、うちの胸をわくわくさせた。



 ***



 ――俺も、魔法少女になってほしいって頼ったのが日和で良かった。


 守里さんに言われたこの言葉を裏切りたくない。ちゃんと頼れる自分になりたい。

 昨日守里さんに電話したときに、一緒に八雲さんを勧誘する作戦を立てた。そして、私はそれをちゃんとこなすのが今日のミッションだ。


 まずは深呼吸をして心を落ち着かせる。そして作戦通り、放課後に私は八雲さんのところへ向かい、話しかけた。


「八雲さん」


 八雲さんがこちらを見る。少し驚いていたけど、話しかけられると分かっていたのか八雲さんは昨日よりも落ち着いていた。

 私はしっかりと八雲さんに伝わるように、なるべく声が小さくならないように声量を意識して声を出す。


「あの、昨日の話の続きを、この後一緒にカフェでしませんか」


 緊張して敬語になっちゃったけど、ひとまずちゃんと伝えられてほっとする。

 八雲さんは小さな声で「ひゃい……」と返事をした。私はほっとして、八雲さんと一緒に学校を出る。


 八雲さんと一緒に校門に向かうと、作戦通り人間に化けた守里さんが待っていた。

 私が一人でやらなきゃいけないミッションはちゃんとこなせたことに安心する。守里さんと合流出来たら、後は守里さんと一緒に説得できる。


「守里さん、八雲さんのこと連れてきたよ」

「日和、お疲れ。君が八雲唯香だね」

「え? あ、はい……」


 八雲さんが驚いたように守里さんを見る。今の守里さんは高校生くらいの女の子で、ショートカットに日焼けした肌だからスポーツができそうな少し背の高い女の子に見える。昨日のもふもふした妖精姿と印象が違うから、きっと結びつかないのだ。

 私が代わりに守里さんを八雲さんに紹介する。


「八雲さんこの人は、昨日の妖精さんだよ。あのふわふわもこもこした黄色い子いたでしょ? あの子が人間になった時の姿だよ」

「……え? マジ?」

「俺たち妖精は姿は自由に変えられるんだ」


 八雲さんは目を丸くして守里さんをじっと眺める。気持ちは分かるよ、八雲さん。私も最初信じられなかったもん。

 守里さんが私と八雲さんの間を指さす。


「ところで、そこの二人も一緒に話を聞きに来たのか?」

「え?」


 私と八雲さんは思わず振り返る。

 怜奈と月詠さんが、少し離れたところで驚いた顔をしていた。


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