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魔法少女のマスコットは百合が見たい!  作者: ぬのきれタ
05.三人目の魔法少女
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第34話 管理官のカミングアウト

「いいか、咲。僕は今日午後から授業かあるから、この前みたいなことあったらメッセージで連絡ちょうだい。抜け出してなんとかするから」

「助かる」

「僕一人だと琉亜連れてくけどいい?」

「いいぞ」

「勝手にミーのこと決めないでくれませんカ!」


 妖精姿の琉亜は半田のリュックから顔を出して不満そうな顔をする。

 半田は目を細めて琉亜の頬をむにっと引っ張った。


「お前を一人家に置いとくとテレビとエアコンと使って電気代がかさむからな」

「えー、いいじゃないですカ、ちょっとくらイ!」

「ダメですー。それに魔法少女になった後で魔法をどう使ったらいいか僕はまだ分からないから、着いてきてよ」

「もう仕方ないですネ」


 琉亜は諦めたように半田のリュックに潜った。俺は半田と顔を見合わせて肩をすくめる。


 俺は半田と琉亜を見送って、ふうっと肩の力を抜いた。

 正直、琉亜の顔を見て何を言ったらいいか分からなかった。

 一度は聞こうと決意したが、あの時聞けなかったせいで時間が経つほど聞く覚悟が揺らいでしまった。今は聞く覚悟がない。琉亜だけが背負うには重いだろうから自分も、と思ったけど、聞いてしまったら知らなかった自分に戻れない。そう思うと、怖くなる。だから半田が琉亜を連れて行ってくれて安心してしまった。

 俺は今迷ってる。琉亜に聞くべきか、聞かないべきか。


「っ!?」


 突然、俺のスマホの着信音が鳴る。驚いたのはそのせいじゃない。電話を掛けてきた相手が、管理官だったからだ。


 ――居残りしてた時に聞いちゃったんでス。管理官に他の偉い妖精さんが詰め寄ってるトコ。

 ――不思議に思ったコトはないですカ。ミーたちのような妖精ってなんなのカ。そして、なんで管理官がまだ動き出す前の敵組織セーフクのコトを知っていたのカ。

 ――知りたいですカ、咲センパイ。


 琉亜の言葉を思い出す。今なら、直接管理官に聞くという手もある。

 電話に出たら何て言えばいいか。答えが出ないまま、電話に出ないわけにいかず、電話に出るボタンを押す。


「はい、S4kuです。御用でしょうか、管理官」

『例の魔法少女の報告書についてだ。やはり記録として残すのはまずいから、他の魔法少女が対処したことにして報告書を作り直してくれ』

「分かりました」


 俺は迷う。聞きたいことが喉まで出かかっている。このまま管理官に聞くべきかどうか。電話が切れずにいると、管理官の声がした。


『S4ku、どうかしたか?』


 電話を切らない俺に管理官を管理官は不振に思っている様子だ。俺は意を決して管理官に聞く。


「管理官、――敵組織セーフクと繋がっているって本当ですか」


 電話の向こうで管理官がため息を吐いたのが聞こえる。


『U3raから聞いたのだな』

「すみません……」

『まあいい。あれは面白がって噂を流した者がいるだけだ。気に留めないように』


 ふと、半田の話を思い出した。


「管理官、半田という魔法少女……いえ、魔法少年を知っていますか?」

『例の魔法少女か?』

「いえ、この魔法少女の兄です。半田……すみません、名前は分かりませんが、半田丸助の兄も5年前以前に魔法少年をしていたらしいのですが、今はどこにいるか連絡がつかないようで……。もし何か知っていたら教えてください」


 管理官は答えない。いつもすぐに的確な返答をしてくれる管理官にしては珍しく長い沈黙だった。

 何かまずいことを聞いたのだろうか。けど、今までは聞いてはダメなことはこれ以上踏み込むなと答えてくれた。なら、この沈黙はいったい何を示すのだろうか。

 やがて、管理官の息を吸う音が聞こえた。


『S4ku、きっと君は何も知らないのだな。そうでないと今の言葉は出てこないだろう。特に私に対して、な』

「? 何かおかしなことを言ってしまったならすみません」

『いや、そうではない』


 沈黙が流れる。電話の向こうで管理官は考え事をしているようだった。少しの間の後、管理官がやがて話し始める。


『S4ku、これから話すことは他言無用で頼む』

「……そんなに大事な話なのですか」

『そうではない。事情を知らない者からは誤解されかねない情報だからだ。しかし、君の場合はそこで働くうえではむしろ知っておいた方がいいだろうから、話すことにするよ』


 俺は唾を飲む。管理官の声にしっかりと耳を傾けた。


『もしかしたら知ってるかもしれないが、今の敵組織セーフクになる前に別の敵組織がいたんだ。そして、その時に魔法少女・魔法少年のサポートをする妖精として日本に来ていたのが私、A1ngだ。半田丸助の兄、半田高助のことを魔法少年として私がスカウトした』

「そうだったんですね」

『そして、今の敵組織のボスが半田高助だ』


 管理官の告白に驚く。同時に納得した。セーフクと管理官が繋がっていると言われているのは、この繋がりがあったからだろう。

 俺が黙っていると管理官が言葉を続けた。


『言っておくが、私は半田高助が敵のボスに君臨してからは会ってない。最後に会ったのはセーフクのボスになる前、黒色の魔法のステッキを回収しに行った時だ。その時にはっきり言われたよ。「ぼくはお前たちを恨んでいる」と。……そこからは会ってない』


 俺は息を飲む。いったい半田高助になにがあったのだろう。

 ふと俺は思い出す。以前、男の魔法少女――魔法少年が禁止された理由を。

 ――以前、魔法少年に任命した男が妖精の国で暴れて大事な装置である『ドリーム・アウト』を盗んだからだ。

 管理官は以前そう教えてくれた。


「もしや、以前暴れて装置を盗んだ魔法少年というのは、……」

『君の予想した通りだよ』


 俺はそれ以上何も言えなくなる。魔法少年が禁止になった理由は、半田高助のせいというわけか。

 半田高助のせいで禁止された魔法少年に、弟の半田丸助が特例として魔法少女の姿で今戦う。なんとなく不思議な縁を感じる。


『しかし、君の言う通りなら半田の弟は兄の現状を知らないようだな』

「そうですね。半田……弟の丸助のほうは兄の行方すら知らないようでした」

『そうだったか』


 管理官がそこで言葉を切る。二の句が継げないでいるのか、言葉を選んでいるのか電話越しでは分からない。けれど何か思うところがある様子なのは明白だった。


『質問は以上か』


 急に管理官が沈黙を破ったので俺は慌てて返事をする。


「あっ、はい」

『そうか。また聞きたいことがあれば聞きなさい。では、健闘を祈る』


 電話が無機質な音を立てて切れる。俺はスマホを耳から外し、さっき聞いたことをゆっくり自分の中に落とし込んでいく。

 セーフクのボスが半田の兄だった。半田の兄はもともと魔法少年をしていたのに、今は裏切って敵組織にいる。それはつまり、魔法少年として敵組織から守った後で何かがあったということだ。果たして、それが意味することは何なのか。


 ――ミーたちのような妖精って本当に必要だと思いますカ?


 琉亜に聞かれたことを思い出す。必要だ、とはっきり言い切る自信が今の俺にはない。

 そして半田の兄である高助がどうなっているのか、弟の半田丸助は知らないのだ。

 俺はため息を吐く。今日、半田と琉亜が戻ってきたらどう接したらいいだろう。いつもどおり接する自信がない。


 俺はしばらく部屋のどこか一点を見つめたままぼうっとした。


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