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第32話 妖精としての使命

  活動報告書    作成者:S4ku

【魔法少女について】



【セーフクについて】

 北上由芽という名前の会社員の30代女性の負の感情が利用され、ダークモンスターが生成された。ダークモンスターは□□町の郊外に出現。魔法少女マジカル☆チェルアと魔法少女マジカル☆リリィによって浄化される。経過観察中。


【その他】

 敵側の幹部の一人であるころねという中学生ぐらいの少女がダークモンスターを生成した。しかし今回のダークモンスターは幹部の言うことを聞かずに暴走した模様。ころねは幹部としての経験はまだ浅い様子。引き続き警戒する。




『本日出現したダークモンスターに対応したのは、例の魔法少女という認識で合っているのかね?』

「はい、間違いありません」


 電話越しに聞こえる管理官の言葉に俺は頷く。


『魔法のステッキには魔法少女の変身を解除したら、変身した時間まで巻き戻す機能がある。一時的に教室を抜けて変身した後でその機能を使うことはできなかったのかね?』

「可能ではあります。しかし、不審な動きをして彼女たちの交友関係に影響が出てはいけないと考えました。管理官に言われた通り、俺なりにこの魔法少女をうまく使ってみました」

『……なるほどな。では、例の魔法少女についての欄を空白にしたものと本日の状況を記載したものの2枚を送ってくれ。では、健闘を祈る』


 管理官はそう告げると電話を切った。

 レポートについてひとまず今すべきことの一つが決まった。一つの問題を終えて俺はほっとする。けれど、もっと問題なのは次だ。


 俺は正座する琉亜を見る。話がある、と呼び出したからか、怒られると察した様子で琉亜は不服そうな顔だ。

 俺だってあまり誰かを叱るようなことはしたくない。しかし、これについては魔法少女の妖精として仕事をしている俺の立場とし、琉亜に言わなければいけないことだ。

 俺は覚悟を決めて琉亜の前に座った。


「琉亜、魔法少女の妖精として仕事をする上で一番大事なことはなんだか覚えているか?」

「魔法少女のサポートをすることでス」

「そうだな。その上で、現場で半田のことを名前で呼んでたことについてう思う?」


 俺が現場に着いたとき、琉亜は魔法少女に変身した半田のことをずっと苗字で呼んでいた。魔法少女名マジカル☆ミクシアという名前があるにも関わらず、だ。


「ダメだと思いまス」

「なんでダメだか分かるか?」

「……せっかく名前を用意したのに使わないのはもったいないからですカ?」

「違う。魔法少女の個人情報の漏洩を防ぐためだ。もし敵に魔法少女の本名がバレたら、場所をつかんで変身していない状態の魔法少女が襲うかもしれないだろ?」


 琉亜は納得したように頷いた。なんで魔法少女の状態の時に半田などの個人名で呼んではいけないか、ようやく理解した様子だ。


「だから今後は魔法少女に変身した後は割り振られた名前で呼ぶようにしてくれ」

「ハーイ」


 琉亜は納得したように返事をするが、俺は心配だ。だって、今俺が出題したことは妖精としての基礎の部分だから。


「琉亜、もしかして講義に全然出てなかったのか?」

「そんなことないですヨ。……いつも先生と居残り勉強してました」

「一対一の居残りの指導は欠席したやつにしかしないだろ」

「一対一じゃありませんヨ。見張る先生は日替わりですが、基本三対一ですネ」

「もっとひどいじゃないか!」


 琉亜が魔法少女協会に問題児と判断された理由を俺はどうやら勘違いしていたらしい。

 琉亜は戦いに関係のない人間を巻き込みたくないという気持ちで反抗していたのかと思っていたが、講義をそもそも受ける気がなかったようだ。


「琉亜、そんなに妖精の仕事が嫌なのか?」

「……今は、多少はやってもいいかなって思ってますヨ」


 つまり、改心はしたがやる気があるわけではないと。

 琉亜の態度に俺は何も言えなくなった。考えてみれば、積み重ねがないことを急にできるわけなんかない。つまり、琉亜にしてもらいたいなら俺が教えるしかなさそうだ。


「それじゃあ、今度から俺が琉亜に基礎を教えるよ」

「……アリガトウゴザイマス」

「いつもより片言じゃないか?」

「ソンナコトナイデスヨ」

「言っておくが、琉亜が自分でここに残ると言ったんだからな。ここにいる以上はやってもらうぞ」

「むー……分かりましたヨ」


 琉亜は渋々といった様子で返事をした。不安は残るが、やるしかないだろう。後輩育成も妖精の仕事の一つだ。


「ねえ、咲センパイ」


 さっきとテンションの違う琉亜の声が俺に届く。不思議に思いながらも俺は答える。


「どうした」

「ミーたちのような妖精って本当に必要だと思いますカ?」


 何を当たり前なことを聞くのだろう。


「必要だろう。そうでなければ敵組織にこの世界が征服されてしまう」


 答えてから俺は息を飲む。琉亜がいつになく真剣な顔をしていたから。

 ふと思う。魔法少女の妖精の仕事をしたくないのは、関係のない人間を巻き込みたくないからという琉亜なりの考えを持っていた。もしかしたら今の質問にも何か意図があるのかもしれない。


「琉亜はどう思っているんだ?」


 俺が聞くと、琉亜は少し考える間を置いてから答えた。


「ミーは必要ないと思ってまス。……ミーは、他の妖精たちが知らないようなコトを知ってから、もっとそう思うようになりましたヨ」

「知らないこと?」

「居残りしてた時に聞いちゃったんでス。管理官に他の偉い妖精さんが詰め寄ってるトコ。――知りたいですカ、咲センパイ」


 俺は唾を飲む。聞くべきか迷う。単純に興味があるし、知れば琉亜が何で悩んでいるかもわかる。けれどただの妖精が知っていいことじゃないなら、知るべきではないのだろうか。

 答えを決める前に、琉亜が口を開く。


「不思議に思ったコトはないですカ。ミーたちのような妖精ってなんなのカ。そして、なんで管理官がまだ動き出す前の敵組織セーフクのコトを知っていたのカ」


 俺は息を飲む。言われてみれば疑問である。


 琉亜は真剣な目でこちらを見た。俺は迷う。俺が知ってはいけないことをこんな形で知っていいのか。

 沈黙が流れる。琉亜は俺の答えを待った。


 俺は琉亜を見る。見習い妖精である後輩一人が背負うには、きっと重たい荷物なのだろう。それなら――。俺が腹を括って口を開いた、その時だった。


「おーい、ご飯できたぞ~」


 半田の声が聞こえる。俺と琉亜が仕事をしている間、半田がご飯を作ってくれてできたら呼ぶ流れがすっかり定着していた。だから声を掛けてくれたのだろう。

 ひとまず答えなくて良くなったことに、俺はつい安堵した。そんな自分に、俺は少しがっかりする。


「行こう、琉亜。……ああ、でも琉亜はご飯は食べないんだっけ?」

「いえ、食べてみまス。咲センパイがハマるなんて、どんなものか興味がありますカラ」


 琉亜と二人で半田の部屋を出ようとする。扉に手を掛けたところで、俺のポッケに入れていたスマホが着信音を流して震え始めた。

 電話は、日和からだった。


「琉亜、悪い。先に半田のところに行っていてくれ。俺は通話したら戻る」

「分かりましタ。じゃあ先に行ってますネ」


 俺は半田の部屋に残って琉亜を見送ってから電話に出る。


「もしもし、日和。どうかしたのか?」

『守里さん、……ごめんなさい。結局今日は八雲さんとうまくお話できなかった』


 日和の声から、成功させたかった、という悔しそうな気持ちが声から伝わってくる。

 俺が頼んだせいで落ち込む日和にバツが悪くなる。


「気にしなくていい。魔法少女というものについて八雲が意識してくれれば十分だ」

『それなら、できたと思うよ』


 日和の声が明るくなって俺はほっとする。


 ――ミーたちのような妖精って本当に必要だと思いますカ?

 ――ミーは必要ないと思ってまス。


 琉亜の言葉が頭をよぎった。魔法少女にならなければ、こんなふうに日和が迷うこともなかったはずだ。

 気づいたら、俺は日和に聞いていた。


「日和は魔法少女になったことを後悔してないか?」


 琉亜が関係のない人間を巻き込みたくないと言ってから、俺は心のどこかで気にしてた。


 妖精は魔法少女を探し、ダークモンスター含む敵組織と戦ってもらう人を探し、サポートすることが使命だ。

 それが妖精として使命だし、それ以外のことをさかしか考えていなかった。俺だけじゃない。琉亜のように疑問を持つほうが珍しい。なぜなら、疑問に思うこと自体が妖精の存在を否定するからだ。


 けれど琉亜の疑問が、いつの間にか俺の疑問になり始めていた。

 見方によっては、俺が日和や玲奈を巻き込んだと言える。俺のせいで2人が、2人の関係に傷がつくのは嫌だ。


 日和の息を吸う音が聞こえる。スマホを握る手につい力が入った。


『最初は怖かったよ』


 心臓がどくんと跳ねる。けれど、すぐに日和が力が抜けたように笑う声が聞こえた。


『でも守里さんに頼られて嬉しかったよ。それに、私のやりたいことがはっきりしたの』

「やりたいこと?」

『私、みんなに頼られるような人になりたい』


 日和の声だけが頭に響く。


『最初は怜奈の隣を胸を張っていられる人になりたくて頑張ってた。今もそれは変わらないよ。……でも今は玲奈だけじゃなく、誰かに頼られるような人になりたいって思うようになったんだ』

「……そうか」

『うん。私、魔法少女になれて良かったよ。だから守里さん、ありがとう』


 日和の言葉に救われる俺がいた。

 自分でも表情が緩むのが分かる。


「俺も、魔法少女になってほしいって頼ったのが日和で良かった」


 自然とそんな言葉が口から溢れた。

 日和の照れたような声に、俺は笑みが零れた。

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