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第30話 葛藤

 こわい。ころねは裏路地に逃げて体を丸めて小さくなる。

 ダークモンスターを変身させたところまでは良かった。でも、その後ダークモンスターはころねの言うことを聞かずに勝手に暴れ回ってしまった。李依奈お姉ちゃんや久美子お姉ちゃんの言うことなら聞いてくれるのに。今回の子はころねの言うことを全く聞いてくれない。李依奈お姉ちゃんも久美子お姉ちゃんも今は学校というところに行ってていないから、ころねが一人で頑張らなきゃいけないのに。


 ――うまくできなかったら、ころねはまた怒られるのかな。


 李依奈お姉ちゃんの顔を思い出して、体が震える。


 ≪クルシーナ! クソ上司ぃいいいいぃぃいい!≫


 パソコンと融合したお姉さんは怒りのままに暴れていてころねの話を聞いてくれない。ころねはただ小さくなることしかできなかった。

 お姉さんが座っていたカフェは既に崩れ、ダークモンスターが通ったところは一目で分かるくらいに壊れている。

 街の人たちは急に現れたダークモンスターに怯えて逃げたので、今はころね以外の人影は見当たらない。


 ――悪いことをすることが良いことなんだよ。


 李依奈お姉ちゃんの声が耳元で蘇ってくる。


 ――一回良いことをして一人を幸せにするより、一回悪いことをしたほうがたくさんの人を幸せにできるじゃん。


 困っている人をたくさん創り出して、それを助けることが良いことだと李依奈お姉ちゃんは言っていた。

 本当にそうなのかな。ころねには分からない。だって今ここにはころね以外困っている人はいない。ダークモンスターからみんな逃げたから。


 アジトでは悪いことなんかしなくてもみんな楽しそうにお話ししてる。悪いことをしなくたってみんな幸せでいられるのに。どうして李依奈お姉ちゃんは悪いことをしようとするのか。


 ふと、頭の上で音がした。


「……?」


 見上げると、がれきがころねに向かって落ちてくるところだった。逃げなくちゃ、と思う前にがれきが落ちる。

 

 ――もうダメかも。

 ころねは反射的にぎゅっと目を瞑った。

 

 間。何も起きない。来るはずの衝撃がやってこない。

 代わりにやって来たのは、かわいい声。


「君、大丈夫?」


 ころねは驚いて目を開ける。ころね以外の人が誰かいると思わなかったから。

 声は上の方から振ってきた。だからころねは上を見上げた


「……!?」


 女の子が宙に浮いていた。天使のような羽を生やして、がれきを持ち上げる黄色い服を着た黄色い髪の女の子はゆっくりころねの下に降りて来る。

 ころねは驚いて声が出ない。呆然と女の子が地面に足をつけるその瞬間まで眺めた。

 女の子は黄色い髪をなびかせてころねに話しかけてくる。


「ケガはしてない?」


 ころねは頷く。黄色い女の子はころねが無事なのを確認すると、ふわっと嬉しそうに笑った。


「良かった」


 ころねの心が温かくなる。ころねを心配してくれる人なんて、今までボスしかいなかった。だから外の世界で初めて優しさに触れて、ころねの心はじんわりと温かくなる。

 ころねは瞬きをする。黄色い女の子は消えない。ころねは頬を引っ張ってみる。頬は痛いのに女の子は消えない。ころねは微笑む。痛くても消えないなら、きっとこれは夢じゃない。

 誰かに優しくされる夢を見ていた。それが今、叶った。


「ねえ、お名前聞きたい」

「僕の名前?」

「うん。教えて」


 ころねはじっと女の子の顔を見る。女の子は少し困ったように間を空けてから、口を開いた。


「僕……わ、私の名前はマジカル☆ミクシ――」

「半田さーん!」


 中学生ぐらいの女の子が走ってやってくる。ツインテールをぴょこぴょこ跳ねさせながらその子は黄色い女の子のところへやって来た。


「急に連れてきておいてミーを放り出すなんてひどいですネ!」

「ごめんって。緊急事態だったんだから仕方ないだろ。僕だけじゃ魔法のステッキの使い方分からないんだし。琉亜だって家でごろごろしてるより、少し外に出たほうが気分変わるよ?」

「ご心配なく! 人間界のサブスクでいろんなアニメやドラマを見て快適に過ごしてるので!」

「それを心配してるんだよ。少しは外の世界を見ろよ、見習い妖精のくせに」


 半田という女の子が琉亜という女の子の頭をはたく。あでっと琉亜から短い悲鳴が零れた。

 不思議だ。ころねと同じように叩かれてるはずなのに、琉亜という女の子は嬉しそうに笑ってる。羨ましい。ころねはいつも嫌な思いしかしてないから。


「半田さん、どうせ時間が巻き戻れば被害にあった人たちは元に戻るんですヨ。だからまずはダークモンスターのほうを何とかしてください!」

「でも、この子をほうっとけない。こんなところにいたら危ないよ」


 半田さんがころねを見る。心配してくれることに心がじんわり温かくなる。琉亜は頭を悩ませてから半田さんを見た。


「うー……じゃあ、ミーがこの子と一緒にいますから半田さんはダークモンスターのほうをなんとかしてください!」

「分かった。ありがとう。ついでにこの格好、もうちょっとどうにかならない? 動きにくいよ」

「男の時は縁がないですもんネ。戻ったら咲センパイに相談してみましょうカ」

「よろしく。じゃあ僕はあのモンスターをなんとかしてくるね」


 半田さんは黄色い髪をなびかせてこの場を飛び立った。琉亜がころねの手を掴む。


「さあ、ミーと一緒に逃げますよ!」


 琉亜がころねをどこかへ引っ張る。

 ころねは琉亜の手を見た。繋がれた手が、優しくて、温かくて、それが悲しくなった。



 ***



 廊下を移動しながら俺は考える。俺の姿が見られた以上、八雲という人にはもう隠しても無駄だ。それならいっそ、仲間に誘ってみてもいいだろう。けれど、今ダークモンスターと戦っているであろう半田も気になる。初めての戦いなのに俺がついていられないことが不安だ。どうしようか。


「守里さん、困ってる?」


 日和が小声で話しかけてくる。

 心配そうな顔で日和が俺の顔を覗き込んだ。俺は頷く。


「向こうの戦いも気になるが、俺の姿を見られた以上は隠しても仕方ないから、いっそ八雲に魔法少女のことを頼みたい。どうするべきか迷っていたんだ」


 日和は少し考えるような間を置いてからはっと何かを思いついたように俺を見た。


「それじゃあ、八雲さんのほうは私に任せて、守里さんは半田さんっていう人のところに行って!」


 俺は驚いて目を見開く。日和から頼もしい言葉が出て来るなんて思わなかった。


「いいのか?」

「うん。私、ちゃんと頼られる人になりたいから、ちょっと頑張ってみるよ」


 日和が決意したように頷く。いつの間にこんなに成長したんだろうか。日和の成長に胸が熱くなる。


「分かった。それじゃあ日和、頼んだぞ」

「うん、任せて」


 日和と目を合わせて頷く。八雲のことは日和に託して、俺は半田のところへ向かった。

しばらく投稿できず、すみません。現在新作を用意しているため、そちらの準備によって週2~3回の更新に変更するつもりです。よろしくおねがいします。

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