第27話 学校
魔法少女たちと話した翌日。登校の時間に待ち合わせして学校に向かう。前に怜奈のカバンに入って学校に行ったことはあるが、中を見て回ったわけではない。今回は生徒に化けて、少し学校の中を見て回ろう。
ちなみに琉亜は、学校が安全な場所だと判断してからつれてくるつもりだ。さすがに見習い妖精に俺と同じ仕事をさせるのは心配だしまだ人間界に来たばかりなので、情報収集も含めていったん街の探索をお願いしてる。
「守里さん、人がいるところでは私も怜奈も話しかけないようにするからね。何かあったらカバンにノートとペンを入れてるから、それを使って」
「ありがとう」
いざ、学校へと出発だ。学校とはいったいどんなところだろう。
百合本ではしばしば学校が舞台になることがある。物を教える先生がいて、先生には偉い順番がある。確か、校長、教頭、その他って感じだった気がする。そして教える人がいるなら教わる生徒がいる。生徒には普段の生活を守る保護者がいる、というところまでは知ってる。ただ、実際にどういうことをしているのかは漫画や小説の知識しかないので、少し楽しみだ。
「図書室……空き教室…………いいや、あくまで魔法少女を探すためだ」
日和のカバンの中で俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
ゆらゆらと揺れていたカバンが止まり、カバンのチャックが少し開かれる。日和からの教室に着いたという合図だ。
俺はカバンからそっと教室の中を覗いた。
教室の中はたくさんの椅子と机、そして生徒がいた。熱心に正面を見つめて何かを映している人や友達と話している人、本を読んでいる人などいろいろな過ごし方がある。今は授業の時間ではないようだ。
怜奈との席は離れているようで、他の人と話しているのが見える。何を話しているか聞こえないが、日和や怜奈がお互い以外と話しているところを見るのは新鮮だ。いつもの二人だけの世界で見せる顔とは、また違う顔つきである。
チャイムが鳴ると、さっきまで散っていた生徒がはじかれたように動いて自分の席に着いた。扉を開けて大人がやってくる。
「起立」
合図とともにいっせいに生徒が立ち上がる。その後も合図がなると生徒がそろって同じ動きをする。なんだか妖精でいう、見習い妖精が講師から教わるときの雰囲気に似ていて懐かしくなった。
生徒が座り、しんと静まった中で大人が口を開いた。
「今日は歴史の授業をしたいと思います。教科書の70ページを開いてください」
大人が何かをずっとしゃべっている。ひょっとしてあの大人が先生で、これが授業と言うものだろうか。
俺は初めての光景に釘付けになった。
4つ目の授業が終わった頃、俺は気づいたことがある。
怜奈の周りには人がたくさん集まるのだ。
「雨宮さん、ここ教えてください!」
「ねえれいれいうちの部活に入ろうよ~?」
「怜奈ちゃん、この前の生徒会の話だけど、考えてくれたかな」
わいわい人が集まって楽しそうである。
対して日和の周りには人が来ない。
「……あ、あの」
「ん、どうしたの?」
「私の消しゴム……良かったら使う?」
「いいの! ありがとう。ちょうど困ってたんだよね!」
たまに会話をしたかと思ったら人助けである。冷たいよりいいが、大丈夫だろうかという心配が湧いてくる。
「そうだ、日和ちゃん。この前もノート貸してくれてありがとう! 今度のグループ活動一緒にする? 調べてたこと、似てるなって思ってたんだ」
「うん……!」
「私が持ってる資料で日和ちゃんのに役立ちそうなのがあると思ったんだ。今度持ってくるね」
「ありがとう……!」
日和の嬉しそうな声が聞こえる。どうやら俺の心配などいらないようだ。
あちこちからいろんな会話が聞こえてくる。
「ねえ、あれ見た? 超面白かったよね!」
「マジ? 俺はあんまり面白くなかったかな」
「ホントにイケメン! お付き合いを前提に結婚してほしい」
「金持ちはいいよなあ……」
「私、最近ハマってるバンドがあってさ」
俺は百合が好きだ。平和で尊くて可愛くて、夢の全てがつまってるから。だけど、こういうありふれた平和な日常が広がっているこの光景もなんだか少し眩しく見えた。




