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第23話 ごめんなさい

 ずっと、妖精が戦えばいいのにって思ってた。

 ある日自分だけ居残りしていた教室の隣で、魔法少女協会の偉い人が会議していた。その時に偶然、普通の妖精は知らないようなことを知ってしまった。

 その時から、ずっと思ってた。敵も妖精で味方も妖精なら、人間を巻き込むのは違うって。妖精の間で戦いを済ませればいいのに、なんで余計なことをするんだろう。

 たぶん咲センパイは敵が妖精なんて知らないからきっと騙されてるだけ。ミーが話したところで信じてもらえないから話さないけど、もしそれが本当だって分かったら咲センパイだって分かってくれるはずだ。

 でも、ダークモンスターを実際に見て、ミーの考えは変わった。


「チェルア、そっちに行ったわ!」

「任せて。……マジック・ブルーム!」


 ≪ぎゃあぁぁぁあああ!≫


 魔法少女の二人は見事な連携でダークモンスターを追い詰める。

 すごい、これが魔法少女なんだ……。


「琉亜、うちの魔法少女はすごいだろ」


 咲センパイが嬉しそうに笑みを浮かべる。


「お互いのことを思いやる心があるから、一人でも強いし二人だと連携が取れてさらに強い。……完成されたこの美しい姿に、俺たちが間に入る理由なんかないんだ」


 咲センパイは嬉しそうな顔で見る。センパイは女の子の姿をしているのに、さっき助けてもらったこともあってかカッコよく見えた。

 確かに、センパイの言う通り二人は強くて、あっという間に敵を追い詰めた。


「いくよ! あなたの心の壁を壊す。マジカルハンマー!」

「貴方の後悔を洗い流してあげる。マジカルシャワー!」


 ≪ああぁぁああああ! ただ、認められたかっただけなのにぃぃいいいい!≫


 ダークモンスターの醜い叫び声が聞こえた後、カップの中に入っていた紫色の宝石が粉々に割れた。

 ピンク色の魔法少女が、カップの中に入って宝石の中に閉じ込められていた女の子を救出する。

 これが、魔法少女……。

 ダークモンスターは魔法少女によって、あっという間に倒された。



 ***



 戦いが終わり、二人が戻ってくる。


「怜奈、練習の成果が出たね!」

「ええ。直前まで魔法の研究をしてよかったわ。思ったよりも魔法っていろんなことができるのね」


 きゃっきゃっと楽しそうに話す二人に頬が緩む。最初に出会った頃はぎくしゃくした雰囲気だったのに。和やかに話す二人がとても尊い。


「……あの」


 突然、琉亜が声を掛けた。誰に向けられたものか分からず、みんなで足を止めて振り向く。

 琉亜はもじもじした様子で、日和と怜奈の前に来た。


「そのですね……えっと……」

「何よ、言いたいことがあるならはっきり言いなさい」

「怜奈、そんなに怖い声を出さないでよ」

「だってこの子が最初に私たちに喧嘩を売って来たのよ」

「あの!」


 琉亜は大きな声を出して頭を下げた。


「ごめんなさい!」


 日和と怜奈が顔を見合わせる。俺も驚いた。琉亜は頭を下げたまま言葉を続ける。


「日和……さんと、怜奈さんに、魔法少女のことでひどいことを言って……。魔法少女のこと、ミーは何にも知らなくて、それで……協力するなんて変な人たちだと最初は思ってタ。でも……」


 琉亜が顔をあげて魔法少女の二人を見る。


「二人とも、本当に頑張ってて……カッコ良かったです!」


 琉亜が興奮したように二人を見る。


「人を守ろうとする二人の姿に、ミーは感動しました!」

「……えっと、ありがとう?」

「騙されないで、日和。油断させといて辛辣なことを言う罠かもしれないわ」

「違いますよ! 本当にミーは感動したんです!」


 空気が緩くて温かい。

 琉亜が中学生の女の子の姿をしているから、生意気な後輩をたしなめる幼馴染の女の子二人という構図に見える。……日和と怜奈の二人だけの世界もいいが、これはこれで良いな。


「咲センパイ、なんとか言ってやってください!」


 急に琉亜に名前を呼ばれて現実に引き戻される。話を聞いていなかったので流れが分からない。


「まあ、なんだ。謝れてよかったな、後輩」


 適当に誤魔化して俺は琉亜の頭を撫でる。


「っ!」


 琉亜が頬を赤くした。頭を撫でていた手が振り払われる。


「ちょっと、急に何するんですかセンパイ!」

「悪い。そんなに嫌だったとは思わなかった」

「嫌……ってわけじゃないですけど、時と場所をですねえ――」

「ま、守里さん、私は?」


 日和が自分を指さす。意味が分からなくて俺は首を傾げた。


「わ、私も今日魔法の練習とダークモンスターの退治、頑張ったよ!」

「ああ、そうだな」


 もしかして、自分も褒めろってことなのだろうか。


「日和も偉いな」


 試しに日和の頭を撫でると、日和は嬉しそうな顔をした。……なぜだ。そして、まずい。

 俺は怜奈をちらっと見る。怜奈が鬼のような形相で俺のほうを見ていた。……やっぱり。


「れ、怜奈も偉いぞ」


 誤魔化すように怜奈の頭を撫でると、怜奈の目が吊り上がった。


「私は撫でなくていいわよ!」


 怜奈の叫び声が夕焼けの中で響いた。



 ***



「ころね、怯えなくていいよ~?」


 頭を撫でてあげてるのに、ころねの体の震えは泊まらない。すっかり怯えた様子のころねにウチはため息を吐く。これじゃあ悪になる道のりはかなり遠い。

 これじゃあ意味がない。ころねは悪に仕立てるために誕生させたのに。

 アジトに帰りながら、ウチはころねに話しかける。


「ねえころね、なんで悪になることが怖いの?」


 ころねは考えるように間を空けながら、ゆっくりと言葉を零す。


「だって……人を、モンスターにするの……おそろしい…………それに、暴れてた……苦しいのを、増やしているだけみたい」


 一回ごとに間を空けて喋る様子は、なんだかししおどしがカコーンって音を鳴らすみたい。その内容が心地よくないから、水のように流れてくれなくてウチの心の中に居残る。

 ウチはため息を吐いた。


「だからころね、ダークモンスターになるときはそりゃ嫌な感情は爆発するよ? でも、浄化されたらその分だけ人間に戻ってからも浄化されるの」

「でも……あの女の子……チェルアから離れてすぐ……また一人で泣いてた」

「それは、戻った後の感情のことは関係ないからね。ダークモンスターになる前の感情は浄化できても、消すわけじゃないから本人が克服しない限りなくならないよ」

「だったら……意味ない!」

「それはどうかなあ?」


 ウチはころねに目線を合わせる。


「大人は嫌なことを忘れるためにお酒やたばこを吸う。それだってストレスを一時的に解消するだけで、元をなくしてくれるものじゃない。でもさあ、やってる人はいっぱいいるよ?」

「……でも」

「おんなじだって、ころね。ウチらがお酒やタバコになってあげるだけ。だから悪っていっても平和のための悪だよ? だからいいことなんだって」


 まだ何か言いたそうなころねの手を取ってウチは微笑む。


「今日は帰ろう? もう遅いよ、ころね」

「……うん」


 ウチらは手を繋いでアジトに向かった。

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