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第21話 特訓

さすがの琉亜も人間に化けることはできるようで、中学生ぐらいの女の子に変身した。

 服装はうさ耳がついたパーカーを着て短パンとスタイルの良さが発揮されない代わりに小動物っぽい愛らしさを演出できる格好だ。ツインテールをしているせいか、うさぎっぽい。

 顔立ちはタレ目だが日和と違って生意気そうな性格が顔から滲み出ている。おかしい。自分で好きな姿に化けられるはずなのに。いや、琉亜としてはこれが一番なりたい姿なのかも。


 琉亜のことを観察していると、大きな瞳が三日月のように細くなった。


「なにじろじろ見てるんですか、咲センパイ」

「君もちゃんと人間になれるんだなって思ってな」

「ちょっ、バカにしないでください!」


 会話をしようと思っただけなのだが、怒らせてしまった。なぜだろう。最近の若者は難しいな。


「じゃあ二人とも気を付けて行ってこいよ」


 半田なりのいってらっしゃいに琉亜と返事をして、俺たちは人間の姿でカフェに向かった。




 カフェ“夕やけ”で二人が来るのを琉亜と待つ。ほどなくして二人がやって来た。


「守里さん、その子がさっき話していた会わせたい子?」


 日和の質問に俺は頷いて見せる。


「琉亜だ。この子も俺と同じ妖精で俺の後輩だ。まだ見習いで妖精の国から見学に来た。二人ともよろしく頼む」

「へえ、妖精もいろいろあるのね」

「守里さんの後輩なんだ。私、草加部日和。琉亜さん、よろしくね」


 日和が琉亜に手を差し出す。琉亜はじっと日和の手を見つめた。そして琉亜は手を伸ばすと、――日和の手を振り払った。


「バッカみたい」

「え?」

「あなた、妖精たちに搾取されてるって分からないんですか?」

「おい、琉亜」

「今どき悪の組織だってバイト代出してるのに、魔法少女はいいように使われるだけ。逆にお姉ちゃんたちはなんで魔法少女になりたいって思うワケ? ミーなら絶対やらないよ」

「あんたね!」


 怜奈が前に出ようとしたその時、日和が制止した。


「な、なんですか。ミーは本当のコトを言ってるだけですケド」

「琉亜さんの言っていることは正しいのかもしれない。でも、私は魔法少女をやり続けるよ」


 日和が琉亜に近づく。


「私は誰にでも頼られる人になりたい。でも、今の私はまだ弱いから全然理想の自分には程遠いんだ。でも、守里さんが私のことを頼ってくれて、魔法少女になったおかげでこんな私でもいろんな人を助けられるようになったの」


 日和がふっと表情を柔らかくした。


「魔法少女の私なら、いろんな人を助けることができるんだ。だから私はどんなに大変でも魔法少女をやるよ」

「……そうですカ」


 琉亜は日和から目を逸らして頬を膨らませた。……これが最近百合本でよく見る“分からせ”というやつか?

 日和がしっかり自分の意見を伝えてくれたので俺から琉亜に言うことはない。琉亜のことはいったん様子を見ることにして、俺は日和と怜奈のほうを向いた。


「二人とも、琉亜が変なことを言って悪いな。俺たちは非力だから君たちを頼るしかない。だから日和が引き続き協力してくれるって言ってくれたのはとても嬉しいよ」

「えへへ……」

「ずっと立って話すのもあれだからそこに座ってくれ」


 日和と怜奈が席に座り、改めて話をする。


「二人は魔法少女になって特訓がしたいんだったよな」

「ええ。少しでも魔法少女の姿に慣れたいの」

「私も怜奈も、今のうちに魔法を使っていろいろ試してみたい」


 二人が真剣な表情で俺を見る。魔法少女をすることに、ここまで熱意を持ってしてくれることが嬉しい。やはり、二人に頼んで良かった。


「分かった。それじゃあ特訓をしに行こう」


 俺の言葉に二人が頷く。琉亜だけが面白くなさそうにそっぽを向いた。




 特訓にちょうど良さそうな場所は既に探してある。


「よし、着いたぞ」

「……っ、はあ、……登るの大変だった……」

「ちょっと守里、なんでこんな山の中に来たのよ」

「広くて人目がない場所といえばここだからな」


 街のはずれにある山の中には、街の人向けに作られた広い公園がある。しかし街には他にも公園があるし、山を登るのが大変だからか公園なのにほとんど人はいない。車でも来られるように近くには駐車場まであるのに。俺が探した中で一番特訓に向いている場所に良い場所だ。

 もちろんステッキには時間を巻き戻す機能があるので別に人目を気にせず練習してもいいのだが、念には念を、だ。

 二人とも登っただけで疲れているし、体力づくりにもいいだろう。


「もう、疲れたあ……ちょっと休憩…………」


 日和がその場に座り込む。妖精姿でここまで飛んで登って来た琉亜が、日和のところにふわふわと近づく。そして意地悪そうな笑みを浮かべた。


「情けないですねえ~。さっきまでの威勢はどこに行ったんですか、魔法少女サン?」

「で、でもちょっと休憩したら私だって頑張るもん……」

「敵との戦闘だったら、そのちょっとが命取りになるんだケド。まあ、ミーには関係ないし、せいぜい休んでれば?」

「むむ~……」


 言い返したくても何も言えないようで、日和は琉亜を睨む。

 日和は立ち上がると俺に向かって手を出した。


「守里さん、ステッキちょうだい!」

「日和、無理しなくていいぞ」

「そうよ、日和。あの子の言葉なんか無視すればいいんだから」

「大丈夫! 特訓しに来たんだし、これくらいへっちゃらだよ」


 日和は肩で息をしている。それでも日和は頑張ろうとしているのだ。強がっているだけだと分かっていても、応援したくなる。


「分かった。絶対に無茶はするなよ」

「うん。ありがとう、守里さん」


 俺は手を叩いてピンクのステッキを出す。日和はステッキを持ち、早速変身をしてその場を離れた。

 ちらっと琉亜を見る。俺にはできないやり方で日和のやる気を引き出した。案外、魔法少女の妖精に向いている気がする。


「守里、私にもステッキよこしなさい!」


 怜奈が慌てた様子で俺に迫る。置いて行かれたのがよっぽど嫌なのだろう。日和が大好きな怜奈にほっこりしながら俺は手を叩く。

 怜奈もさっさと変身をして日和の後を追いかけた。


 魔法少女となった日和と怜奈、いやチェルアとリリィは魔法を使ってそれぞれ技の特訓を始める。


「魔法少女の何が楽しいんですかネ」


 吐き捨てるように琉亜が呟く。奇妙なものでも見るように、琉亜の目は冷たい。

 見習いの妖精が受けるべき授業をサボり、課題も真面目にしない。そして魔法少女に対する言動や態度。すべて俺には理解できない。だから俺は琉亜に話しかけた。


「琉亜は、どうしてそんなに魔法少女を嫌うんだ」

「センパイには関係ないでしょ」

「関係ないことはないだろう。俺は妖精の先輩として後輩の琉亜の面倒を見るつもりだし、だから琉亜とはしっかり向き合いたい。魔法少女が嫌いなら、その理由も含めて琉亜のことを俺は知りたいよ」

「……センパイ、クソ真面目すぎてゲロ吐きそう」

「俺のせいで具合が悪くなったのか!?」

「そうじゃないし! あー、もう!」


 琉亜は大きくため息を吐いた。


「あのですね? ……ミーは魔法少女は嫌いなんじゃなく、魔法少女を頼るシステムが嫌いなんですヨ。魔法が使えるなら、自分たちで戦えばいいじゃないですカ」

「妖精には無理だ。力がないから変身しても戦えない」

「分かってますよ、そんなコト! 分かってるケド、……平和を望むなら、そもそも今を精一杯生きてる人間を巻き込んでこんなコトしなくてもいいじゃないですカ」


 琉亜が拳を握りしめた。

 驚いた。琉亜は平和を望むからこそ、戦いを激化させるようなことを嫌っていたのか。

 俺はつい笑みを浮かべる。管理官、この子も立派な妖精ですよ。


「琉亜、見直したよ」

「なんですか、急に」

「平和を考えているからこそ、魔法少女のシステムが嫌だったんだな。俺は言われたことをこなすので精いっぱいだからそこまで考えてなかった。だから、琉亜は偉いな」

「……そうですネ」


 琉亜はそっぽを向く。


「まあ? 攻撃されっぱなしじゃ困るのは分かりますけど? ちょっとは巻き込まれる人のことも考えてあげたらなーって思わなくもないっていうか? まあ、思っただけですけどね?」

「なるほどな。ただ、実際にダークモンスターの被害を見たら考えは変わるかもな」


 琉亜が不思議そうに見る。授業だけ聞いて、魔法少女が一方的に敵を攻撃しているように感じたのかもしれない。だけど、現場を見たらきっと考えが変わるだろう。


「……っ!」


 俺と琉亜は顔を見合わせる。琉亜も気づいたようだ。街でダークモンスターが現れたことに。


「チェルア、リリィ!」


 二人に向かって叫ぶと、特訓をやめてこちらに来た。


「二人とも、街にダークモンスターが現れた。変身したまま街に向かってくれ」

「うん!」

「分かったわ」


 俺は妖精の姿になり、魔法少女と一緒に街へ向かった。

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