第18話 三人目の魔法少女……?
≪簡単な人物紹介≫
〇魔法少女側
S4ku→妖精。人間界での名前は守里 咲。百合を見守りたい。最近ハマっているのは食べること。
草加部 日和→魔法少女名はマジカル☆チェルア。気弱な女の子。頼られるような自分に変わりたい。
雨宮 怜奈→魔法少女名はマジカル☆リリィ。日和の幼馴染。優等生の女の子。日和のことが好き。
半田 丸助→日本で妖精の面倒を見るバイトをしているため、咲の面倒を見る。
〇悪の組織セーフク側
ボス→中二病。妖精のような見た目だが本人曰く妖精ではないとのこと。まだ謎が多い。
雨宮 李依奈→組織内での名前はデラヴィ。明るいギャルだが、悪いことをするのがいいことだという歪んだ考えを持つ。
大上 久美子→組織内での名前はアロファ。顔とスタイルが良い芸能人で男女問わず人気がある。実はドM。
「こういう暇な時間に、魔法少女に変身して練習したいわよね」
休みの日。部屋に遊びに来てだらんと私のベッドの上でくつろいでいた怜奈が呟く。
私は大きく首を縦に振った。
「わ、私も思ってた!」
「日和も? やっぱり思うわよね」
「うん。実際に戦うだけじゃ、全然慣れないもん」
「そうだ。守里に電話してみようよ。いいって言われるかも」
怜奈がスマホを取り出す。私は驚いた。
「怜奈、いつの間に守里さんと連絡先を交換したの?」
「この前守里がうちに泊まりに来た時よ」
怜奈は何でもないように話してスマホに目線を戻す。でも私は気になって仕方がない。
だって怜奈はずっと守里さんのことを敵対視していたはずだ。あの日、守里さんが怜奈の家に泊まった日から二人は仲良くなった。
守里さんは怜奈に気を許しているようだし、怜奈は守里さんのことを頼っている気がする。……私だって怜奈に頼られたことないのに。
もやもやした気持ちで怜奈を見て、つい私は口を開く。
「怜奈、わ、私が守里さんに電話してもいいかな!」
「……どうして?」
怜奈が怪訝な顔で私を見る。
「えーっと……」
理由なんて考えてない。勢いでつい言ってしまっただけだ。何て答えよう。考えていると、私が答えるより先に怜奈が口を開いた。
「理由がないなら私が電話を掛けるわ」
「え、な、えっと」
「日和、いいでしょ?」
怜奈にじっと見られて、仕方なく頷いた。
電話が呼び出し音を鳴らす。少しして、ガチャっと出る音が聞こえた。
『もしもし怜奈、どうかしたのか?』
「守里、急で悪いんだけど日和と一緒に魔法少女に変身をしたいわ」
『なぜだ? まさか、ダークモンスターが出たのか!』
「違うわよ。練習したいの。魔法少女としての実践に備えて、変身してからの感覚に慣れたいのよ」
『なるほど、そういうことだったか。……だとしたらすまない。今日は無理だ』
まさか断られると思わなくて、思わず怜奈と顔を見合わせる。
「無理って、どうしてよ」
『今、妖精の国に戻っているんだ。明日には戻るから、それ以降でもいいか?』
「そういうことなら仕方ないわね。守里、早く帰って来なさいよ」
『ああ、悪かった。じゃあまた後でな』
忙しなく電話を切られる。怜奈とまた顔を見合わせた。
「守里さん、なんだか忙しそうだったね」
「そうみたいね。まったく、タイミング悪いわ。今ダークモンスターが現れたらどうするつもりなのかしら」
「まあまあ。守里さんのことだから何か考えがあるのかもよ」
魔法少女に変身して練習できないなら仕方がない。
「それじゃあ、今日はどうしようか」
「そうね、日和は何がしたい?」
魔法少女のことは置いておいて、いつもどおり怜奈と何をして遊ぶかの話しを始めた。
***
なぜ俺が魔法少女協会に行くことになったのか。時間は少しさかのぼる。
怜奈に電話をもらった日の朝のことだった。休日で外が晴れているからか出かけている人が多い。だけど街が全体的になんだかいつもよりゆっくりしている気がした。
半田も大学が休みだからゆっくりしているようで、今日の朝ご飯はいつもより遅い時間だった。
ただ、俺は妖精なので人間界のサイクルに馴染んだとしてもやることは変わらない。
俺は手を叩いてステッキを5つ出現させる。それらを床に並べ、また手を叩いて魔法の布を取り出した。ピンク色のステッキは日和の、水色のステッキは怜奈の、あと3つは他に魔法少女になって協力してくれる人用の予備だ。
まだ日本に来てから一度も整備してないので、そろそろしようと思っていた。
さっそくピンク色のステッキを手に取り、故障はないか、不備がないかを確認する。
「咲、何してるの?」
家の中を片づけていた半田が後ろから覗き込む。
「ステッキの整備をしていたんだ」
「へえ。そんなこともするんだ」
「魔法少女のサポートが仕事だからな」
「ふーん、咲も大変だな」
半田が黄色のステッキを手に取る。
「これが魔法少女に変身するステッキなんだ」
「半田もなりたいのか?」
「んなわけ! 気になったことがあったから見てんの」
半田はステッキを物珍しそうにいろんな角度からじっくり見る。
「女の子用と男の子用って、何が違うの?」
「うーん、俺も詳しくは知らないな」
「咲も知らないなら、企業秘密なのか」
ステッキの整備をしながら横目で半田を見る。
人間にしては変わった境遇だと思う。兄が魔法少年をしており、妖精を見たという経験を活かして妖精の面倒を見るバイトをする。お金のためと言ってるが、ご飯を作ってくれたり迷ってたら迎えに来てくれたり何かと面倒見がいい。
もし半田が女の子だったら面倒見のいい子になりそうだな。
「咲、なんだその顔は」
「なんでもない」
「絶対ろくでもないこと考えてるんだろ」
大量に買ってきた百合漫画、今だにクローゼットに眠ってるんだからな。半田の恨み言に耳が痛い。
「僕は魔法少女になる気はない。っていうかなれないでしょ、男なんだから」
「まあな。でも兄が魔法少年をしていたなら自分も、とはならなかったのか」
「……魔法で変身したいって気持ちはなかったよ。でも」
半田はどこか懐かしそうにステッキを見つめる。
「兄貴が大変そうで助けたいってはなったかな。……いざって時に助けられる力は欲しいかも」
次の瞬間、緑色のステッキが光り輝いた。
「え?」
驚きの声は俺のか、半田のか、あるいはどちらかもしれない。とにかく、俺たちは驚いた。だって、女の子用のステッキが男子大学生の半田に反応したから。
「さ、咲!? なんかステッキが光ってるんだけど!?」
「自分の心を一番占めてる夢を声に出すとステッキが反応するんだ。……だが、なんで半田の声に反応したんだ……まさか、半田は本当は女の子なのか!?」
「違うってば! 体も心も男です!」
「だったらなんで半田に反応したんだ!」
「咲に分からないなら僕に分かるわけないだろ!」
そうこうしているうちに光が半田の身体を包んだ。
光が映し出す半田のシルエットが変わっていく。背がだんだんと縮んで服装がふわふわしたものに変化するのが見える。
やがて光が消えると、姿が変わった半田がそこにいた。
髪は緑色のセミロング、背丈は日和や怜奈のような中学生の女子、服装は緑色のワンピースで腰のあたりに紅葉の刺繍がある。
立派な魔法少女がそこにはいた。
「慈悲を心に咲かせましょう……マジカル☆ミクシア……」
随分と小さく可愛らしい声が魔法少女から聞こえた。
「半田……本当に半田なのか……?」
「僕だよ。こんな姿じゃ説得力ないけど……」
涙目でこちらを見上げる少女はとても可愛い。声も姿も変わって半田の面影は全くないけど、半田で間違いないようだ。
「もしかして女の子用っていうのは、女の子に変身するって意味だったのか……?」
「今考えないで! どうにかしてよ、咲!」
「……」
「咲、黙るな! ちょっといいなとか思ってるだろ!」
「お、思ってないぞ」
「目が泳いでる!」
半田が顔を真っ赤にして睨んでくる。
「咲、なんとかしろぉ!」
半田の叫ぶ声が響いた。




