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魔法少女のマスコットは百合が見たい!  作者: ぬのきれタ
02.二人目の魔法少女
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第14話 二人目の魔法少女

「勉強で学年一位を取りたい! ……将来、警察官になりたい! ねえ、なんで変身できないのよ!」


 私がいくら呼びかけてもステッキは聞こえていないのか、そもそも聞く気がないのかまったく反応しない。


「落ち着け、怜奈。ステッキは持ち主の今この瞬間に一番強い思いに応える。昨日俺に話してくれたような、怜奈の気持ちを口に出してくれればいいんだ」

「でも……私の気持ちは、日和にはきっと迷惑よ」


 突然、駅の建物に何かが吹っ飛んでくる。煙が晴れると、そこには魔法少女に変身した日和の姿があった。そのそばで、見知らぬ女性がにんまりと嬉しそうに口角をあげて追い詰められたチェルアを見つめる。


「まだ立ち上がろうとするんだ、君。いいね」


 随分楽しそうな声がする。空中には、禍々しい色の服を着た一人の女の人がいた。綺麗な顔立ちでいわゆるボンキュッボンというバランスの良い体型だ。

 透明な地面を歩くように、彼女は一歩一歩チェルアに近づく。このままでは日和が危ないのは明白だ。


「っ、……もういい。言うわ!」


 本当は言いたくなかった。だって言ったところで日和の迷惑にしかならない。恋愛で嫌な思いをしてきたあの子に、これ以上嫌な思いをさせたくなかったのに。だけど日和を助けられるのは今、私しかいない。

 だから思い切り叫んだ。日和に聞こえるかもしれないくらい、大きな声で。


「私、日和のことが好きなの! だから日和の力になりたい!」


 待ってました、と答えるようにステッキが光を放ち始めた。虹色の光が私を包み込

む。困惑する私を置いて光が私の身体をどんどん変化させていく。

 腰まで伸びていた髪は髪飾りによって一つに括られて、着ていた服は水色のワンピースのような服に変わる。腰のあたりには百合のような花が刺繍されていて、いたるところにフリルがついている。とても自分では選ばないような服装が少し恥ずかしい。だけど今はそんなことを言っている場合じゃない。頭に浮かんだことをそのまま口に出す。


「愛を胸に咲かせましょう。魔法少女、マジカル☆リリィ!」


 私は日和がしていたように地面を力いっぱい蹴り上げる。体がいつもより軽くて、大きくジャンプできた。

 これなら日和の元に行ける! 私は急いで女性と日和の間に割り込んだ。女性が驚いた顔をする。


「おや、もう一人いたのか」

「チェルアに近づかないで!」

騎士ナイト気取りかい? その子を守るのは良いけど、相手はアタシだけじゃないよ」


 ≪ああぁあぁあああ! どうして分かってくれないんだよぅううう!≫


 ダークモンスターが怒ったような唸り声をあげる。タブレットから手足が映えたような姿をしており、その胸には十字架のネックレスを下げている。タブレットの画面には大きく目と口が書かれており、ダークモンスターの感情に合わせて変化しているようだ。、あたダークモンスターの心の声が文字になってたまに流れているようである。


「……リリィ、下がって。アロファは、この人は私が戦う」

「強がらなくていいよ、子猫ちゃん。アタシは二人相手でも平気さ。二人いるなんて聞いてなかったけど、二人も私が潰せたらデラヴィ様に褒めてもらえるかな」


 アロファという名前らしいこの女性は、デラヴィという名前を口にした途端恍惚とした表情を浮かべる。はっきり言って気持ち悪い。正直チェルアには、日和には関わらせたくないタイプの人間だ。


「許さない。絶対に私が戦う……!」

「どうしたのよ、チェルア」

「この子はね、アタシがあなたの悪口を言ったら怒り始めたの。仲間っていいねえ」

「え?」


 私は思わずチェルアを見た。チェルアは私が見ていることになんか気づいてないようで、私が今まで見たことのない怒った表情でアロファを睨みつける。


「だって、この人……リリィのことを空っぽって言ったんだよ。魔法少女に変身できない、夢のない空っぽな人間って。あり得ない!」


 初めて聞く大きな声に、私は目を見開いた。チェルアは構わず叫び続ける。


「私が一番そばにいて見てたから、そんなわけないって一番分かってる! リリィは努力家で、みんなのことを助けられる人で、……私が嫉妬しちゃうくらい、何でもできるんだよ! 今だって時間はかかったけど魔法少女になった。だから夢のない空っぽな人間なんて、一番似合わない言葉だよ!」


 チェルアのステッキが光を放ち、辺り一面に桜吹雪が舞う。花弁は勢いよく私たちを巻き込み、隠すように包み込んだ。桜吹雪の隙間から、アロファの悲鳴が聞こえてくる。


「リリィに謝って! じゃないと、私が許さない!」


 チェルアが叫ぶ。桜吹雪が止み、ようやく視界が晴れると傷だらけになったアロファが俯いた様子で現れる。

 チェルアがアロファにつかみかかる。


「ねえ、リリィに謝ってよ!」

「チェルア、私のことはもういいから」

「良くない!」

「……素晴らしいよ」


 嬉しそうな声がして私はぞっとする。アロファが顔をあげると、口角をあげてうっとりとしたような表情を浮かべていた。

 アロファがチェルアを抱きしめる。


「デラヴィ様ほどじゃないけど、君の殺意……アタシはとても好きだよ」


 アロファがチェルアに顔を寄せて、頬にキスをした。――私の頭が真っ白になる。

 チェルアが嫌悪を顔に出してアロファを突き飛ばす。アロファは嬉しそうに舌なめずりをして、チェルアに話しかけた。


「相手をしっかり見る時は、いつだって好意よりも悪意を向ける時だ。ねえ、もっとアタシをよく見ていじめて?」

「チェルア、離れて!」


 私が割り込むと、アロファはため息を吐いた。


「はあ、君ともっと二人きりで話したいけど、騎士ナイトがとても邪魔だね。また今度話をしようか」


 アロファがどこからかリボンを手に取ると、こちらへ向かって投げた。チェルアに攻撃が当たらないように一緒にその場を離れる。はっとアロファのいる場所を見ると、目を離した瞬間にリボンはいつの間にかアロファを全身で包んでいた。


「待って!」

「ちょっと、チェルア!」


 チェルアがリボンの塊に向かって飛び込み、手を伸ばす。リボンの塊はやがて小さくなっていき、チェルアが掴む前に消えてしまった。

 私はチェルアを追いかける。チェルアは悔しそうに顔を歪めた。


「あの人、全然リリィに謝ってない!」

「もういいわチェルア。それよりも、あれをどうにかしましょう」


 私はダークモンスターを指さす。ダークモンスターは悲しそうな顔を画面に浮かべてこちらに向かってきた。


 ≪クルシーナ‼ 一人くらい、話を聞いてよぉぉおぉおおおお!≫


 手足をじたばたさせて駅を破壊しながらこちらにやってくる。このままでは街が破壊されかねない。

 チェルアは頷いて自分のステッキを掲げた。


「リリィ、自分の気持ちをステッキに込めてみて。そうしたらきっとリリィも魔法が使えるはずだよ」

「……分かったわ。やってみる」


 チェルアに促されては断れない。私はステッキを掲げて、思い切り叫んだ。


「大好きな日和を傷つけないで!」


 チェルアの息を吸う音が聞こえる。ああ、だから言いたくなかったのに。

 ステッキは、今度は一度で反応してくれたようできらきらと光り輝く。もくもくと雲が現れてダークモンスターを覆いつくす。


 ≪あぁああぁああああ! 見えない! 苦しい! どうして僕だけひどい目にあうの‼≫


 ダークモンスターが暴れて電気をビリビリと発現させるが、雲がまとわりついているせいで余計に自分を苦しめている。


「リリィ、早く終わらせよう」


 チェルアが真剣な顔つきで私を見る。私はついチェルアをじっと見つめてしまった。いつもの日和と顔が全然違う。人の顔色を伺うような気弱でおどおどした様子はなく、自分の意志がしっかりと感じられる。


「チェルア……」


 別人みたい。ついそんな言葉が口から出そうになって、慌てて口を閉じる。チェルアが首を傾げた。


「なに、リリィ」

「……あんたの言うとおりね。すぐ終わらせましょう」


 私はダークモンスターに目を向ける。手足をジタバタさせてようやく雲を追い払えたようだ。画面には暴言がたくさんが流れている。

 私はステッキを握りしめてダークモンスターに向けた。


「貴方の後悔を洗い流してあげる。マジカルシャワー!」


 ステッキが大きなシャワーヘッドに変化していく。そして水のシャワーがダークモンスターに降りかかった。

 タブレットがパキッと半分に割れて、中に埋め込まれていた紫色の宝石が現れる。紫色の宝石は水が振れたところから次々とヒビが入り、音を立てて割れる。横でチェルアが塵になって散り始めているダークモンスターに向かって動いた。


「チェルア!」


 私は後を追いかける。私の視線の先でチェルアは紫色の宝石に閉じ込められていた中年男性を引っ張り出し、そしてさっとその場を離れた。チェルアの跡を追いかける。

 なんだかチェルアの手際がいい。やはり一度経験しているから分かるのだろう。そして同時に私は思ったのだ。

 私がダークモンスターになった時、同じことをしていたのかな、と。

今回から1話ずつ投稿です。


あと、身内の葬儀+予備自衛官補の訓練のため2週間ほど毎日投稿をお休みします。すみません。

(再開したらこの文章は消します)

10/14を目途にまた毎日投稿を再開しようと思います。

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