第11話 魔法少女とは
一六時に“夕やけ”というカフェで日和と待ち合わせをする。もちろん街中に出るので俺はいつもの少女の姿に化けた。
今日は日和と話をするだけだから昨日みたいなことにはならないだろうと思っていたが、俺の予想は外れて日和にぴったりとくっつく怜奈が俺を親の仇のように睨んでくる。またダークモンスター化しないかだけが心配だ。
しかしどうしよう。魔法少女については基本的に第三者に話すのはNGである。いくら日和と仲の良い怜奈といえど、話すわけにはいかない。そこはいくら百合を推す妖精でも、仕事をする歯車の一つとしては見逃せないのだ。
「あー……来てもらったところ悪いが、怜奈は席を外してくれ」
「なぜ私は聞いちゃいけないのよ。日和と他の人には聞かれたくない話でもするつもりなのかしら」
「まあ、そうだな」
「なっ……!」
怜奈が口をパクパクさせる。その隣で日和が首を傾げた。
「守里さん、魔法少女のことについて話すんじゃないんですか?」
「そうだ。いくら日和と仲が良くても、魔法少女じゃない怜奈には話すわけにはいかない」
「……守里さん、私、もう怜奈に魔法少女のこと話しちゃいました」
「え?」
怜奈がうんうんと頷く。どうやら本当に話してしまったようだ。ならば俺がいくら魔法少女のことを話さないようにしたところで意味がない。しかし、魔法少女じゃない怜奈に詳しく話すのはどうなんだろうか。
「ねえ、守里……さん」
俺が頭を悩ませていると怜奈が話しかけてきた。
「無理してさん付けしなくていいぞ」
「じゃあ守里。私も魔法少女ってやつになるから、日和と一緒に話を聞かせてちょうだい」
まさか怜奈のほうからそう言われると思わなくて思わず目を見開く。
「本当に魔法少女になってくれるのか、怜奈」
「まあ、話を聞いた以上放っておけないし、何より日和に一人で頑張らせるくらいなら、私も一緒に頑張ったほうが気分がいいわ」
「怜奈……」
日和が感動したように怜奈を見つめる。怜奈も日和の顔を見て頷いた。そう、こういう尊いやりとりを俺は眺める側でいたいのだ。
「それで、守里は魔法少女のことについてどんな話をするのかしら」
怜奈に話しかけられて一気に現実に引き戻される。俺は気を取り直して魔法少女のことについて話すことにした。
「魔法少女の話をするまえに、話しておきたいことがある。まず、俺は妖精なんだ」
「……妖精?」
「私、昨日見たよ。守里さんの妖精姿」
怜奈は驚いたように日和を見て、俺の顔を見た。俺は頷く。
「これは仮の姿だ。俺は妖精の国からやって来た。本名はS4ku。ただし、俺が妖精であること、そして妖精の国のことは他の人には内緒にしてほしい。どこから敵にバレるか分からないからだ。そして、これから話すことも他の人には話さないでほしい」
二人が頷いたのを確認して、俺は話を続けた。
俺たち妖精は、人間界とは別のところにある『妖精の国』で暮らしながら人間界の平和を見守る。といっても、基本的に妖精は人間界にあまり干渉しない。人間が好きな奴はたまに人間界に行って遊んだり、いたずらしたりこともある。ただ基本的に妖精は、人間界のすべてをひっくるめて相手にしようとすることはない。だが、妖精の中には人間界に干渉しようとする奴らもいる。そういう妖精の集まりが、悪の組織『セーフク』だ。
セーフクの奴らは人間界での世界征服を目論んでいる。目的は、人間を妖精が管理することで平和な世界を作り出すためだ。俺たちと同じく平和を望んでいるのに、なぜ道を違えてしまったのか、俺には分からない。だけど平和を脅かす存在になってしまった以上、俺たちは敵として対処しなければいけないのだ。
セーフクは人間たちの負の感情を利用して『ダークモンスター』と呼ばれるモンスターを作り出す。俺たち妖精だけでは対処できないので、魔法少女の力を借りてダークモンスターを浄化する。
「壮大なことを語ったが、二人には魔法少女としてダークモンスターの浄化を頼みたい。ただ他の人には内緒にしてくれ」
「分かった。頑張る!」
「……聞いた以上は仕方ないからやるわ。日和も乗り気だし」
前のめりな日和に対して怜奈は消極的だ。聞いた以上はやってもらわないと困るが、前回は敵側だったから魔法少女側がどんな感じなのか想像がついていないのだろう。やってくれるなら、まあいい。
とりあえず、昨日俺が半田と話したことも今のうちに相談しておこう。
「それと、さっきも言ったが俺は妖精だ。主な仕事は魔法少女のサポートになる。たいていの妖精は魔法少女の家に住むから、俺も例に倣って居候させてほしいんだが……」
怜奈の目つきが鋭くなる。やっぱり日和の家に行くのはダメそうだ。――ふと、別の考えを思いついた。受け入れられるかは分からないが、いったん口に出してみる。
「試しに怜奈の家に泊まらせてもらえないか」
「え、私!?」
「なんで怜奈なの?」
「最初は日和の家に泊まらせてもらおうと思ったが、……怜奈が魔法少女になるっていうなら、怜奈に適性があるかも確認したいからな」
さすがに二人の仲を邪魔したくないからとは言えず、別の理由も並べる。実際魔法少女の適性があるかは知りたいので嘘ではない。
怜奈は返す言葉がないようで、代わりに俺を睨んでいる。
「泊まらせるのはいいけど、家族に何て言えばいいのよ」
「それについては気にするな」
俺は人間の姿に化けるのを止めて妖精の姿に戻る。怜奈が目を丸くした。
「なっ! ……あ、あんた本当に人間じゃなかったのね」
「最初に言っただろ。泊まるときはこの姿だから、ぬいぐるみを拾ったとか適当に説明してくれ」
「……分かったわ」
ようやく怜奈は納得したように頷いてくれた。ずっと黙っている日和が気になるが、俺は構わず話を続ける。
「怜奈がいいなら今日泊まらせてほしいんだが、どうだ?」
「今日? 別に何も予定がないからいいけども」
「じゃあ、今日泊まらせてくれ」
「ずいぶん急ね……。まあいいわ。よろしく」
「怜奈、本当にいいの?」
静かだった日和が突然口を開く。
「ずっと守里さんのこと嫌いだったじゃん」
「嫌いっていうか……魔法少女の家に泊まるのが仕事なら、仕方ないって思っただけよ」
日和の家に俺が止まるのが嫌ってはっきり言えばいいのに、と俺が思うのだが怜奈は言うつもりはないらしい。
二人の仲に溝ができる前にさっさとこの話は切り上げよう。
「それじゃあ怜奈、今日はよろしくな」
「ええ。よろしく守里」
怜奈は大きく頷く。――日和が顔をしかめたのが少し気になったが、口に出すのは止めた。




