予定調和の終わり
私とカオリヤが黒焦げの死体たちに囲まれながら向かい合っていた。
少し遠くから、魔法が発動されそうになったので私はかき消す。
私がかき消したのはカシェの雷魔法だ。
なるほど。
ルキスはこれすら織り込み済みで、私とカオリヤが話をする時間を作ったのか。
焦った表情のカシェが猛スピードでやって来て叫んだ。
「師匠! まさか魔法をかき消しましたか!?」
私の前に立ちながら、カオリヤにしっかりと警戒している。
カオリヤは炎と鞭を消し、両手をパラパラと顔の横で振った。
「当分、その人には協力してもらいます」私はカシェに言った。
「えぇ!? 敵ですよ!」カシェは私とカオリヤを交互に見て叫んだ。
「寝返ってもらいました」
カオリヤも、
「いいじゃねーか、あんたも味方が増えて。昨日の敵は今日の友だよ」
「明日には敵かもしれないだろ!?」
カシェは怒鳴った。
私は淡々と、
「味方が多いほうがいいです。多分、王の軍は出陣が遅れますから」
「え?」
ルキスは驚いて、言葉すら出なくなったようだ。
「先程、王都で変身の魔術が発動したのを感じました。そして、現在は城の宮廷魔術師たちによって王城の結界が強化され、探索の魔法が使われています」
私は王都がある方角の空を見ながら、伝えた。
これにはカシェも動揺している。
カオリヤだけが納得していて、
「エルスピオが王都に行った。何かしたんだろう」
「困りましたね。あとは近隣の貴族領が動いてくれるのを信じるしかないんですね。まさか、昨日の敵と共闘することになるとは……」
カシェは天を仰ぐように空を見る。
それから、彼は辺りを見回し、
「そういえば、ルキスは?」
「ルキスなら、そこの地面に落ちていますよ」
私が指差した場所に、一体の小さくて粗末な木の人形が落ちていた。
「なんですか、これ?」カシェは胡乱げに呟いて、人形を拾った。
「人形ですよ。ルキスは私の身代わりになって死ぬという自身の未来を視たんです。だから、彼はその未来から逃れるために、自分に仕込みをした」
「人形を身代わりにしたということですか?」
「そうです。人形に一時的に彼自身の精神か魂を移したんです。今まで私たちが見ていたルキスは幻影ということになります」
カシェは人形を拾い上げて、
「もしかして、師匠はルキスが幻影だって気づいていたんですか?」
「はい。魔法的なものであれば、感知できますから。今頃、彼は本来の自分の肉体に戻っていることでしょう」
さようなら、そして、ありがとう。
ルキス。




