表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/104

困った人だな(カシェ視点)

 高級レストランを出た僕と師匠はルキスの指示通りの道を歩いている。このルートなら、追っ手に見つかることもなく、安全に戻ることができるらしい。


 僕は師匠に、

「師匠。全てルキスのシナリオ通りなんでしょうかね?」

「だと思います。ノイッシュさんを協力者に選んだのも、高級レストランの人事にツテがあったからでしょうし」

 師匠は静かに答えた。


 師匠はノイッシュのツテがあったから、商人たちの会合に女給仕として潜入することができた。


「まあ、それがなかったとしても、侯爵に対抗するには騎士団の助力は必要ですよ」

「そうですね」

 師匠は僕の言葉に、やはり静かに頷いた。

 普段は本当に物静かな人だ。


 最初、僕たちは商人の会合に潜入し、レビジュ氏の協力を取り付ける予定だった。けれど、想像以上に師匠が喧嘩腰のため、無事ご破算。


 僕は先行きに不安を隠せず、尋ねた。

「これからどうするんですか。師匠、あまりにも喧嘩腰じゃないですか? もう少し穏便に済ませたら、協力を取り付けることもできたんじゃないですか?」

 僕は思わず声を荒げていた。


「その通りですけど、レビジュさんの商人たちへの態度があまりにも許せなかったんです」

 彼女はそんな僕の態度にも動じることなく、冷静に言う。


 この人は栄養状態が悪かったらしく、平均的な女性よりもかなり小柄で、骨格も細い。見た目だけなら儚げで弱々しく見える。

 でも、実際はかなり気が強い性格だ。


 これにはレビジュ氏も誤算だったろうな。


 ここまで、全てが運命を視る魔術師が視た運命通りなのだろうか。

 たとえば、僕という人間がここにいることすらも。


 今でこそ、僕は侯爵となった手前、表向きは宮廷魔術師として働いている。ただし、元は爵位とは名前ばかりの貧乏子爵だ。


 勤め先は諜報部。今も籍だけは置いている。


 そういうわけで、まさに僕はこういうシチュエーションにピッタリな存在だ。


 実際のところは気になるが、考えても仕方がない。


 しばらく歩き、住宅街の中にあるノイッシュの一軒家に辿り着いた。


 ルキスやノイッシュに今回の失敗を報告すると、ルキスは鷹揚に頷いた。やはり想定の範囲内だったらしい。


 一方のノイッシュは不安そうだ。


 師匠は申し訳なさそうに、

「ごめんなさい。私が会合で真っ向から挑発してしまい、うまくいきませんでした」


 ルキスがあっけらかんと、

「別にいいですよ。レビジュと手を結んだところで、裏切られる運命ですから。でも、商人たちを揺さぶる必要があったんですよ」


 ムカつくな、こいつ。


 師匠も淡々と、

「現状、王都と周辺の貴族領へは報せを送っています。それに、他にも仕込みはあります。レビジュさんと手を結べなくても足元を揺らがせることはできるはずです」


 本当に師匠は人質や奴隷育ちとは思えないくらいに、頭が回るんだよな。


 ルキスは頷いてから、ひまわりのような笑顔で言った。

「じゃあ、次は、僕たち全員命の危険にさらされるの運命のシーンです」


 現実を芝居とでも思っているのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ