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ルキスとの再会

 カシェは私を抱きかかえ、すごいスピードで走り抜けていく。人間の速さじゃない。

 当然、魔法による速さだよ。


 辿り着いたのは、郊外の廃墟のような建物。悪役が潜むにはうってつけなくたびれ具合だ。


 そこでは、かつて城にやってきた運命を視る魔術師ルキスがいた。

 彼は爽やかに笑いながら、

「お久しぶりです。お元気そうで何より」


「どうして、あなたがここに……」

 私が尋ねると、ルキスは屈託なく、 

「僕が、あなたが大陸を巻き込む大戦争の発生を阻止する運命を視たからです。手助けしようと思って、待っていたんです」


 カシェが、

「師匠。このまま急いで、王都へ戻って報告すれば、ヴァレンヌ軍が急ピッチで来るでしょうから、どのみち大戦争の発生は阻止されます」


 私はしばし考える。

 カシェは胡乱げに、

「師匠?」


 私はカシェをまっすぐ見据え、

「ごめんなさい。戻るわけには行きません」

「えぇっ!? どうするつもりですか! ここは敵地です。危険です」


 彼の言うことも最もだと頷いてから、

「恐らくそれでは間に合いません」

「は? 何がですか? 王も帰りをきっと待ってますよ」


 私は一拍置いてから答えた。

「侯爵の背後には、ルーンブルク残党以外にカリシュタがいます。地理的にヴァレンヌ軍が到着するよりもカリシュタからの援軍のほうが早く到着するはずです」

「カリシュタ……が?」


 頷いた私は言葉を続けた。

「侯爵は自信がありそうでした。相手はヴァレンヌが兵を挙げるのは想定しているでしょう。それでも、あれだけの自信があるということは――」

「国境にカリシュタはすでに兵を集結させていて、いつでも出陣可能な状態にあると考えているんですか?」

「そうです。奴隷の戯言と思われるかもしれませんが」


 カシェは首を横に振って、

「思いませんよ。アレクサンダー大王みたいな複雑な戦記小説を書く人なんですから」

 そう言いつつ、困惑した表情で彼は言葉を続けた。

「師匠が残っても出来ることなんてないと思います」


 私は頷きつつ、

「そのとおりですが、侯爵の独立宣言と実効支配が完了すれば、カリシュタ軍がヴァレンヌ軍が到着する前に新国家支援を名目にやって来る可能性があります」

「確かにそれでは、ヴァレンヌ軍が負ける可能性はありますが」カシェは唸った。


 唸る彼に向かって、私は静かに、

「ヴァレンヌとカリシュタの戦争が長期化すれば、王の治世そのものが危うくなります。それを防ぐためには、カリシュタが介入をするための口実を潰さなければいけません」

「実効支配を阻止し、あくまでヴァレンヌ国内のゴタゴタとして終わらせたいということですか?」

「カリシュタの介入を防ぐには、それ以外にありません」私は頷いた。


 カシェは困ったように、

「では、どうするんですか?」

「私は王の奴隷です。王は恐らく、すでに私を王の元に連れてきた者に高額の報奨を出すという布告をしているはずです」

「そうですね」

「この報奨を餌にして、侯爵に反対をする騎士の方々や町の人々を味方にできれば、ヴァレンヌ軍が来るまで抵抗することが出来るかもしれません」


 驚いて、目を見開いたカシェが私に尋ねた。

「もしかして、師匠自らが騎士とかを率いて戦うつもりですか!?」

「私に戦う力はありませんし、私が率いても誰も納得しません」

「じゃあ、実はこう見えて侯爵だという僕の出番ですか!?」


 ルキスが私たちの会話に割り込むように、

「いえ、全然違います。見ず知らずの他領の侯爵に従うほど庶民は馬鹿じゃないです。僕、庶民だからわかります」

「それくらい庶民じゃなくても知ってますよ!」

 カシェがムキになって言った。


 ルキスは部屋の一点を指さし、

「あの方角にある商会に、運命があります」


 私とカシェもそちらを見た。

 私が、

「フォンテーヌ……商会ですか? ヴァレンヌ最大の勢力を持つ、んでしたよね?」

「その通りです」

 カシェは首を縦に振って答えた。


 彼は腕組みをして、難しい表情で、

「フォンテーヌ商会の商会長であるレビジュ氏は、確か母親がルーンブルク人です。侯爵の動きから想像するに、反乱に一枚噛んでいる可能性があります」


 私は商会がある方角を見据えて、

「でも、行ってみたいです」

「本気ですか!?」


 カシェの驚きの声に、私は頷いて言った。


「もし、レビジュ氏が利に聡い人なら、私は彼を寝返らせる自信があります。たった一つだけ、寝返るのに充分な情報を、私は持っています」


 それを聞いたルキスが明るい声色で言った。

「では、お二人で行ってきてください。僕だと、足手まといになっちゃうんで」


 その声はまるで、コンビニに行く友人を見送るような気楽さがあった。

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