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オリヴィエ王のかぼちゃパイ作り

 まーちゃんへ


 不倫しちゃったセリーヌ王妃は城から離れた塔に幽閉されたよ。これから、裁判になって、多分、終身刑になるらしい。


 私は窓の外を見た。今日の天気は曇りで、灰色の雲が空を覆ってる。


 子どもを生む女は大変だよね。

 誰の子どもを産んだかわかるように、不倫の一つや二つもできないんだもん。


 男の人は子どもができるまで、何人とも結婚できるんだもんね。


 私の心を視ていたオリヴィエ王が不満そうに、

「好きで何人と結婚するわけじゃないし、好きな女と結婚できるわけでもないよ」


 まあ、そうだよね。


 なんで、王が部屋にいるかと言うと、今日は休日だから。


 休日とはいえ、部屋でまったりと過ごしているわけじゃないよ。

 今はかぼちゃパイの焼き上がりを待ってる。


 オリヴィエ王が朝イチで、かぼちゃを茹でたり、パイ生地作ったりしたんだ。

 今は焼き上がりを待ちつつ休憩してるわけ。


 こんな感じで、王は最近だと休日になると、料理をするのに凝ってるんだよ。


「だって、今は冬だから、庭に散歩に行ってもお花咲いてないし」

 オリヴィエ王はつまらなそうに言った。


 人がいない朝早くに庭を散歩するの好きだもんね。


「うん」


 それから、私は窓の外を見る。


 ぼんやりと空を見ていただけなのに、私の頭は、エルスピオとのやりとりを勝手に思い出し始めた。


 王族の血を使って、呪いをかける――と彼は言った。


 彼は王族だった私の血を使って、オリヴィエ王に復讐をするのが目的らしい。

 なぜ、ルーンブルク王族の血じゃないと駄目なんだろう?


 私の疑問に、王が答えた。

「建国の時代にまで遡るらしいよ。だから、実際は誰の血でもいいらしいんだけど、ルーンブルク王族の血で術を行うことが、彼らにとっての信仰でもあるらしい」


 なんだ、王族の血が特別なわけじゃないのか。


 オリヴィエ王は嫌そうに、

「ルーンブルクとの戦争の時は、その呪いのせいで多くの兵士や将軍、貴族が犠牲になったんだ」


 戦争だから、それは仕方ないね。


 彼は辛そうに、

「呪いに使われた王族の血は、子どものものだった。君の妹に当たる子で、まだ五歳にもならない子だよ」


 ふーん。


「その子はさ、生まれつき体に欠陥があったとかで、生まれた時から神殿に幽閉されていたらしい」


 その子は今どうなったの?


「神殿に踏み込んだ時には、体中が血まみれで生きているのが奇跡的な状況だったらしい。残念なことに、どさくさに紛れてどうなったかわからないよ」


 オリヴィエ王は残念そうに、

「王族とはいえ、幼い女の子だったから、保護できたら生かすこともできたんだけどさ」


 なぜ、知らないも同然の子どもの話なのに、こんなにも胸が痛いのだろう。

 ガキの頃の自分ときっと重ねてるんだね。


 ふざけんな、自分。

 そのガキと過去の私と今の私は別物だよ。


 私は無理やり、思考を変えた。

 それにしても、ルーンブルクって国は随分とカルトな方面ですごいわけだねー。


 オリヴィエ王が、

「すごいのはそれだけじゃないんだ。影と呼ばれる諜報部隊もすごいんだ」


 どんな風に?


「魔法も使ってないのに、一切の気配を感じさせずに密かに行動して、侵入したり暗殺とかしちゃうんだよ」


 それはすごいね。


「僕らの国はそれでかなり痛手を負ったんだ。戦争中は僕もいつ暗殺されるかもしれないってビクビクしたよ」


 でも、短期間で決着したんでしょ?


「うん。ヴァレンヌの圧倒的な物量で、奴らが付け入る隙がないように寝る間も惜しんで進軍して戦ったからね」


 大変だったね。


「本当だよ」

 そう言ったオリヴィエ王は真剣な表情になって、

「それに、影は壊滅できたわけじゃない。だから、ヴァレンヌにルーンブルクの残党が入りこんだと聞いた時は、肝が冷えたよ」


 入りこんだのが、影じゃなきゃいいね。


「だから、僕はアニエラを王の居住区画からだしたくないんだ。ここが、国内で一番安全な場所だから」


 危ないのは、オリヴィエ王のほうじゃない?


「えー。そう言わないでよ」


 私たちが話をしていると、突然、部屋がノックされた。

 私は立ち上がり、扉を開ける。


 開いた扉の先には、料理人が立っていて、

「パイが焼き上がりました」


 オリヴィエ王は笑顔で立ち上がって、

「行こう、アニエラ」

「はい、陛下」


 私たちは厨房へと向かう。

 

 まだ廊下なのに、かぼちゃパイの甘くて、こうばしいバターの香りが漂う。


 私が、

「陛下。ただいま、お茶をご用意いたします」

「うん、ありがとう。君も飲みなよ」

「陛下と同じ茶を飲むなど、畏れ多いことでございますので、遠慮いたします」


 こっちの世界のお茶は、文明が進んだ日本と違って、お茶は貴重だからお貴族様や王様しか飲めないんだよ。

 本当は王様が作ったかぼちゃパイを食べることだって、畏れ多いんだけどさ。


 お茶を持って、王の私室に戻ると、王はかぼちゃパイを食べるのを今か今かと待っていた。


 王は笑顔で、

「早く食べようよ、アニエラ」

「はい。どうぞ、先に召し上がりください」

「一緒に食べよう、同時に食べよう」


 畏れ多いことなんだよなー。

 断ろうとしたら、その隙もないまま、オリヴィエ王は声を上げた。

「それじゃ、一緒にいただきます」


 王に合わせて、慌てて、食べ物を口に入れた。

 かぼちゃの中にはたくさんの蜂蜜が入っているから、蜂蜜の甘さがしっかりと感じる。


 かぼちゃはホクホクで、バターの香りがするパイ生地はとってもおいしい。


 食べ終わると、オリヴィエ王は花のカタログを見ながら、

「今年はどんな花を植えようかなー」


 王の区画の中には、結構な数の鉢植えがあるんだよ。

 オリヴィエ王はその世話も趣味の一つなの。


 お花とお料理が大好きで、本当に心の優しいいい子なんだよ。


 私はオリヴィエ王の近くに控えながら、少しだけ不貞腐れた。


 セリーヌ王妃も辛かったのはわかるけど、わかるけどさ。

 奥さんだって、オリヴィエ王のことわかってあげても、良かったんじゃない?


 まあ、私がこんなこと思う筋合いないんだけどさ。

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