新しいローブをもらいました
まーちゃんへ
オリヴィエ王が執務に行ってから、そんなに時間が経たないでリュシル様が大荷物を引っ提げてやって来たよ。
あまりの量に私以外にも区画の入口で見張りをする兵士たちも驚いている。
私が驚きで、
「いかがなさったのですか?」
リュシル様はニコニコしながら、
「私、今日からカシェ様と一緒に暮らすことになったの! あと少しで正式に離婚も成立するし、そうしたら、すぐ結婚式を挙げる予定なの」
「おめでとうございます」
本当に幸せそう。
彼女はご機嫌で、
「で、私の結婚式に絶対来てね!」
「申し訳ないのですが、できません」
「できるわ! 結婚式までに、私が王からあなたを解放するから! そうしたら、一緒に天下を取りましょう」
なんの天下だよ。
この人は目がマジだ。
「あなたを必ず、王の抑圧から自由にしてあげるわ!」
「え。私、抑圧されてません」
「可哀想に、すっかり洗脳されてるのね」
ねえ、あのさあ、オリヴィエ王をなんだと思ってるの?
見た目と違って、実はヘタレだけど、優しくて、可愛くて、とびっきりのいい子だよ。
あんたはそれくらいのいい男と離婚するんだよ? あとで後悔するよ?
でも、私の声は届かないよね。
私はとうとう我慢できずに、
「リュシル様。たくさん荷物をお持ちのようですが、カシェ様のお屋敷にでも届けるのですか?」
「違うわよ! あなたへのプレゼント。ドレスとか靴とか。全部、私のお下がりだけど、あなたっていつも可哀想なくらい地味な格好をしているでしょ?」
私は奴隷なんだよ。
なんか知らない間に、着替えや洗面、入浴みたいな王の世話のほとんどを今じゃやってるんだから、動きやすい格好じゃないとだめだよ。
公式愛妾様が着ていたような服や靴はいらねーんだよ。
私は届かないんだろうなと思いつつも、
「私にドレスや靴は必要ありません」
「おしゃれは大事よ!」
「この格好が一番仕事がしやすいのです」
「仕事着もおしゃれじゃなきゃ。それで、お化粧もバッチリしなくちゃ! 私の侍女たちは皆そうだもの」
私の言葉はやっぱり届かなかった。
リュシル様は、
「それじゃ、もう行かなくちゃ! ドレスも靴も宝石もいっぱい身につけてね!」
彼女は大量の荷物を置いて去っていった。
まるで、ごみが大量に不法投棄されたみたいだ。
リュミエール様も大量の荷物にぎょっとしながら、
「困りましたね。公式愛妾の持ち物だったということを考えると、下手に売り払ったり、侍女たちに渡すわけにもいきませんね。仕方ない。城の倉庫にでも突っこんでおきましょう」
そう言ってから、兵士たちに指示を出して、倉庫へと運ばせる。
無骨で筋骨隆々の兵士たちが婦人用の靴やドレスが入った箱を運ぶ姿はなんともおかしい。
荷物を倉庫に運び終えた頃、王の居住区画に変わった格好の人がやって来た。
金糸が入った白いローブみたいなものを着ていて、身なりがいい女の人だ。
私は真面目モードに切り替え、その女性を出迎えた。
リュミエール様が、
「アニエラ。この方は神官です」
「神官……」
神官は私たちに頭を下げた。
「王から注文されたローブをお持ちしました。細かいサイズを調整したいので、着られる方はどちらにおられますか?」
「この者です。こちらにおいでください」
リュミエール様は私を指さしていった。
私は白地に銀色の糸が刺繍されたローブを着せられた。
このローブはものすごく強力な加護の魔法がこめられてる。すごいな。
このレベルのものなんて、本当に位が高い人しか着られないものだよ。
なんで、私が着てるんだろう?
私はローブを脱がされ、いつもの服に着替えた。
リュミエール様が、
「急を要するので、ここにて作業をし、ローブを仕上げてください」
「わかりました」
神官の人は早速、服の仕上げにとりかかえる。
リュミエール様は私に向かって、
「この方は神殿で糸を作り、布を折り、服に仕立てる役職についているのです。この作業を通して、布全体に魔力がこめられ、強力な精霊や神の加護を付与しています」
「そうなのですか。なぜ私がそんなすごい布を身にまとうのですか?」
「王がお前の身を案じたからです」
私の身を案じて?
ああ、そうか。思い出した。
私はセリーヌ王妃が暮らす王妃の居住区画に怪しい魔法の気配を感じたのを伝えた。
この嫌な予感は、オリヴィエ王に馬上試合で放たれた魔法と同じだから、同一人物かもしれないとも。
私は受け取ることに躊躇した。
「私が着ていいローブではありません」
「しかし、受け取りなさい。王の命令なのです」
私はローブと以前もらった護符と手鏡の3点セットの装備となった。
随分と強力に魔法的な加護の装備で、なんていうか白魔術師系って感じ。私は回復魔法は一切使えないけどね。
部屋で小説書くだけなのに、こんないい服来ててもしょうがない。着替えようとしたところで、扉がノックされた。
リュミエール様が、
「お前がローブを着たのは、丁度いいタイミングかも知れませんね」
どういうことだろう?
扉を開けた兵士は緊張気味に告げた。
「セリーヌ王妃の元に、件の祈祷師が来ました」
祈祷師?
何それ?
リュミエール様は困惑する私に言った。
「アニエラ、お前も来なさい」
「危険な祈祷師なのですか?」
「危険かも知れないから、連れて行くのです」




