リュシル様は世界を目指したいけど、私を巻きこまないでほしい
まーちゃんへ
私は小説くらいまた書けばいいかって軽く考えてたんだけど、リュシル様とカシェとか区画の従僕の人や小姓の人たちが一所懸命に原稿を拾ってくれたんだよね。
あ? 私は拾わなかったのかって?
基本的に王の居住区画から出ちゃ駄目な人間だからね、拾いになんて行けないよ。 っていうか、言ったでしょ、また書けばいいやっていうスタンスだから拾いになんて行かないよ。
で、リュシル様がいつものように区画の入口まで私を呼び出してさ、原稿を差し出した。
「アニエラ先生! カシェ様と一緒に原稿を拾ってあげたわよ! ボロボロになってるのもあるけれど」
「ありがとうございます。リュシル様」
私はありがたく受け取る。
私が、「リュシル様もカシェ様もいつの間にか随分と親しくなっておられるんですね」 と言うと、リュシル様は笑顔で答えた。
「えぇ。まだオリヴィエ王との離婚は法律の関係で成立していないんだけど、何故かカシェ様とお見合いができて、結婚することになったの」
「おめでとうございます」
裏で、オリヴィエ王が本当に手を回したんだろうな。
カシェも得意げに言う。
「夫婦というよりは僕らは同志なんです」
「そうなの!」
なんか共通の目標があるんだ。良かったじゃん。そういう関係って素敵だよね。
カシェは言葉を続ける。
「リュシルとは師匠を悪の王から解放するために、力を尽くそうと誓いあったんですよ!」
「え? なんですか、それは?」
私は驚いて思わず聞き返した。
リュシル様が、「王は先生を区画に閉じ込めて、滅多に外に出さないじゃない。それに、お洋服も本当にいつも地味だし」
いや、こっちはおしゃれよりも作業性重視してもらわないと困るんだよ。
カシェも、
「師匠は王の命を救ったのに、まだ奴隷からも解放してないじゃないですか。師匠の魔法感知能力も文学的才能も王だけが独占していいものじゃありません! 大陸中にその名が轟き、歴史に名を刻むべきです」
「そういうのはちょっと望んでいません」
私は即座に否定した。
「それは師匠が、王の居住区画という狭い世界しか知らないからです! カリシュタにも復讐して、世界に名だたる覇権国家を作って、世界征服しましょう!」
「絶対嫌です」
私は首を猛烈に横に振った。
なんで、私の名前を広めるために、全方位に戦争仕掛けるんだよ!
リュシル様も強い口調で言う。
「まあ、日和っていてはいけないわよ! 最終的に世界を目指しましょう! そのために、私たち夫婦が手始めに悪の王から、先生を解放するんです」
なんで、そんなに好戦的なのかな?
私は強い口調で答える。
「私は世界を目指す必要はありません。この区画にいるだけで充分幸せに暮らすことができています」
「まあ、狭いところで暮らすと、願望までも小さくなってしまうのね」
リュシル様は私を心から憐れむように言って、口元を手で抑えた。
カシェも神妙そうに言う。
「本当だね、リュシル。だからこそ、師匠を王の元から自由にして、広い世界へと連れ出す必要があるんだ」
夕方、戻ってきたオリヴィエ王はいつもどおり、魔眼で私の心を視て、今日の出来事を確認している。
そして、ショックを受けた様子で、
「僕がさ、お膳立てしたんだよ。リュシルのためにさ」
うん、そうだよね。私は心の中で答えた。
「僕、悪の王呼ばわりなの?」
二人は独特だからね。
オリヴィエ王は私を真っ直ぐな瞳で見つめる。
「ねえ、僕の元から自由になって、広い世界に行きたい?」
オリヴィエ王は不安げに私を見つめている。
なぜか私は少し焦るの気持ちが浮かんできたけれど、平静さを保つ。
彼は困惑しながら、
「僕、君のこと閉じ込めてるの? 僕、君をさらおうって考えてる悪い連中から君を守りたいだけなんだよ」
外には行きたくないよ。私が区画から滅多に出られない理由もちゃんとわかってるよ、大丈夫だよ。
「ねえ、僕のそばにずっといてね。広い世界に行くんなら、僕も連れて行ってね」
王にようやく笑顔が戻った。
私は心の中で彼に答える。
絶対行かないから。王様が国捨てるのが一番駄目なことなんだよ。ずっと一緒に、ちゃんといるから、国しっかり守ろうね。
「うん、頑張る」
オリヴィエ王は私の心を隅々まで視ているから、私の答えをしっかりと知っている。
でも、私から答えを聞いて、安心したかったんだよね。
すっかり安心したからか、王の心が私の心の奥深くへと沈んでいくのを、私は感じた。
オリヴィエ王はニコニコとした笑顔で私を見つめてるもん。
可愛いもんだよ、犬っころみたいでさ。
時々、無性に撫でくりまわしたくなるもん。




