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まーちゃん!昭和の漫画が実写化したよ!

 まーちゃんへ


 私が書いた小説は皆で回し読みでもしてるのかなって思っていたら、誰かが印刷所に運んでるみたい。


 なんで、こんなことを言い出したかというとさ、私は書き上げた小説をリュミエール様に渡したら、

「いつもなら、暇な人間に印刷所に運ばせるんですが、今日はどいつもこいつも忙しいんですよね。仕方ない。私が運びますか」


 それを横で聞いていたオリヴィエ王が、

「じゃあさ、アニエラ。お城の入口までリュミエールを見送りに行こう。いい散歩にもなるだろ」

「いいですけれど、陛下のお仕事は?」

「君を区画に届けたら、また仕事に戻るよ」


 こうして、私たちはお城の入口へと向かって歩き出した。

 日中の城内はメイドや侍従、小姓、兵士とか色々な人が歩き回って仕事をしている。

 王の居住区画は働いている人数を極限まで減らしているからというのもあるけど、日中であってもとても静かなんだよね。


 そして、私たちは本当にパタリとセリーヌ王妃とその侍女たちに出くわした。

 セリーヌ王妃は私たちを嘲るような表情で見てから、

「あら、もしかして小説の原稿でも持ってらっしゃるの? 少しここで見せてくださらない?」


 オリヴィエ王が硬い表情で、

「印刷されたら、君の下に届けるよ」

「今読みたいの。よろしいじゃないの。少しくらい」

 そう言って、リュミエール様から原稿が入った封筒を無理やり取った。


 王様がハッキリと拒否する前の行いだったから、リュミエール様もハッキリと拒絶できなかった。


 セリーヌ王妃は封筒から原稿を取り出し、興味なさそうにパラパラとめくった。そして、侍女に、

「なんか、奴隷くさいわ。窓を開けてちょうだい」


 もしやこれは? フラグでは?

 私の中で期待で胸が高まる。


 侍女が窓を開けると、セリーヌ王妃は、

「あら風が」

 そう言いながら、わざとらしく原稿を外に投げた。


 寒空に舞う原稿たち。風に乗って飛んでいく。


 やった! よっしゃ! 予想通り!

 

「セリーヌ!」

 オリヴィエ王は叫んだ。

 セリーヌ王妃は嘲笑うように、

「あら、残念ね!」


 駄目だ! 我慢できない! 限界!


「アハハハハハ」


 昭和の漫画かよ! ねえ、まーちゃんにも見せてあげたいよ!


 オリヴィエ王はぽかんとしていて、リュミエール様は仏頂面をしている。


 怒りで顔を赤くしたセリーヌ王妃が私に向かって、怒鳴った。

「一体どういうつもりなのよ! 王妃の前でここまで大声で笑うなんて」


 私はとりあえず、

「申し訳ございません」


「私を馬鹿にしているのかしら?」セリーヌ王妃は目くじらを立てた。


 私の心の中で、何かがさらに弾けた。

 もう駄目だ。

 でも、取り繕わないと。


「違います。セリーヌ王妃のベタな行動が面白くて、本当に、こんなことする人いるんだっていう、……えっと感嘆? したんです」


 そりゃ、こんなこと目の前でしてもらえるんだから感動もんだよ。

 こんなことする人がちゃんと現実にいるんだもん。


 ヘラヘラ笑いが収まらない私とは対象的に、怒りが収まらないのがオリヴィエ王だった。

 彼は私の前に出て、涙を流しながら、

「セリーヌ! 君は僕だけじゃなくて、アニエラにまでこんなことをするのか!」


 私は王に、

「え? 原稿ならまた書きますからいいですよ、別に」

「そういうことじゃなくてさ! 僕は悔しい!」


 セリーヌ王妃は大粒の涙をこぼすオリヴィエ王に、

「男のくせにみっともなくて情けない。もう行きますわ。あなたって、本当に無様ですこと」


 そう言って、背を向けて歩き出した。


 リュミエール様は王妃がいなくなってから、盛大に舌打ちをした。そして、私の方を向いて、

「アニエラ。王を連れて区画に戻りなさい」

「わかりました。参りましょう、陛下」


 私は泣きじゃくるオリヴィエ王を連れて、区画へと戻る。

 道の途中、侍従や貴族たちがこっちに注目するわけだから、流石に恥ずかしかったね。


 私は陛下が広間のソファに座ったのを確認してから、厨房でお茶の用意をした。

 部屋に戻ってもまだ泣いてたよ。大した事ないのにな。


 オリヴィエ王は精神世界を作り出した。

 再現するのはもちろん、私の記憶の中にあるのぞみさんのアパートの一室。


 オリくんは床に落ちていた犬のぬいぐるみを抱きしめながら、

「情けなくてごめん」

「いいよ、別に」


 それから、オリくんは悲しそうに、

「セリーヌがあんな事する人間だって思わなかった。僕が、彼女をあんな風にしたのかな。僕が彼女を妊娠させてあげられたら良かったのかな」


 私は何か言ってあげればいいんだろうなって思ったけれど、何も思いつかなかった。


 私はなんとか慰めの言葉でも捻り出そうとして、天井を見上げた。

 でも、本当に出てこない。


 だって、昨日まで優しかった人が、今日になったら殴ってくる。逆に、今日は妙に優しい。

 そんな人たちばかりの人生だったからさ。


 それは、私が悪くても悪くなくてもそうだった。あえて、言うなら、私の存在そのものが悪なのだと思う。


 だから、私にとってはセリーヌ王妃の豹変だって、そんなもんだよねでしかなかったし。むしろ、平常運転だよ。


 私は視線を天井からオリくんに移した。


 それで、私はやっとのことで、浮かんだ言葉を口にした。

「オリくんの周りにいる女が気に入らないだけだよ。私やリュシル様をどっかに追いやってみなよ。でさ、いちゃラブしな。機嫌良くなるかもよ。そうしたらさ、二人で仲良くにっこりできるんじゃないかな」

「それって、僕がセリーヌと一緒に国を支えるってこと?」

 オリくんはパタッと泣き止んだ。


 私は何を当たり前のことをと思いながら、

「当然じゃん。王様と王妃様だもん。国のために自分を犠牲にして生きるいわば、バディじゃん」

「嫌だ。僕はそうだったけど、セリーヌは違う。彼女は王妃という立場を私利私欲のためにあると本気で思ってるんだ」

「許婚として王妃として育てられたのに?」

「そうだよ。彼女は貴族たちにちやほやされて、自分が欲しいものを全部手に入れるために王妃という地位があるって思ってるんだ」


 私が驚いて、唇を思わずすぼめると、オリヴィエ王はキッパリと、

「彼女を国のために王妃のままにしておくわけにはいかない。だから、なんとか離婚しようって四苦八苦してるんだ」

「そうだったんだ。オリくんは離婚しても立場上、政略で結婚しなきゃいけないよね。次の奥さんは良い人が来てくれるといいね」

「僕はもう二度と結婚しない」

 今度もまたキッパリと言いきった。


 私は彼の言葉の強さに少し驚きつつ、静かに、

「そういうこともあるよね」


 オリくんも頷いて、

「そうだよ。だから、僕らずっと一緒にいよ」


 私は彼の言葉に、思わず溜め息をついた。


 いいよ。君が結婚しようがしまいが、君が私に消えろって言うまではそばにいるよ。

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