お人形窃盗事件
まーちゃんへ
今日はお城の中で魔術師たちが騒がしいよ。
あ、私はいつもの部屋で、魔法を感じてるだけ。
ちょっと面白そうだから、もう少し感じてみようかな。
私は目を閉じて、魔法に意識を集中する。
あー、はいはい。
この間、なんか偉い人が人形持ってきたことあったじゃん。今日はその人形を、運ぶみたい。
危険な人形の扱いだから、術者はかなり緊張してるみたい。
どこに持っていくんだろう? ちょっと追ってみよう。
人形がお城から出た。この速度は……馬車だね。
十分くらい追っていたんだけど、大変なことが起きた。
「!」
私は床から立ち上がり、リュミエール様の仕事部屋へ駆け込む。
書き物をしていた彼は顔を上げて、
「どうしたのですか? とてもはしたないですよ」
「申し訳ありません。しかし、先日、客人が持ちこんだ人形が、おそらく盗まれました」
「! 城内からですか?」
そっか、人形が運ばれたことはリュミエール様は知らないのか。
私は事情を説明する。
あ、リュミエール様は運び出しのことを知らなかったのか。事情を説明すると、彼の顔色が変わる。
「陛下に報告に行きます。ついてきなさい」
私たちは早足で王の執務室へ向かった。
私はオリヴィエ王の執務室で、簡単に話をすると、すぐに宮廷魔術師長やよくわからない偉い人たちが部屋に入ってきた。
面倒くさいけど、仕方なく最初から説明した。
「城を出た人形の気配が消えました。おそらくなんらかの魔道具に封印されたと思われます。これでは、私は人形を追うことができません」
部屋にいる偉い人たちの顔が青くなった。
私は続けた。
「気配が消える直前、魔法を宿した武具が使われました。襲われたのだと思います」
将軍が声を荒げて、
「人形にはしっかりと護衛をつけていたんだぞ。奴隷! 貴様誤っていたら、承知せんぞ」
「将軍。彼女は僕の奴隷だ。過ちだった場合の処分は僕に任せてもらう」
オリヴィエ王が静かに言った。
扉がノックされ、兵士が駆け込んできた。
「馬車が襲われ、人形が持ち去られました!」
将軍は口をあんぐり。場が固まった。
リュミエール様は、
「報告は終わりましたので、我々はこれにて失礼いたします。行きますよ」
「はい」
私が王の居住区画へ戻る途中、廊下でバタリとカシェと会った。
彼は顔を興奮で赤くしつつ、目をキラキラさせながら、
「師匠! 大事件ですよ! 師匠の出番ですよ」
「カシェ様。人形の件ですか? だとしたら、私は対応できません」
「まさか! すでに感知されたんですか!」
リュミエール様が、
「詳細はすでに陛下に報告済みです。ここで話す内容ではありません」
「僕の家にご招待しますよ!」とカシェは嬉しそうに被せてきた。
「そういう意味ではありません」
リュミエール様は呆れながら言いつつも、カシェに尋ねた。
「それよりも、なぜ人形を城外へ運んだのですか?」
「人形を処分するためです。魔道具の破壊は、まず込められた魔法の破壊から始めるんです」
魔道具の破壊って面倒くさいんだ。
カシェが困ったように、
「術式が特殊かつ強力で、神殿に助力を仰いだんです」
「神官たちは来なかったんですか?」
リュミエール様の問いにカシェは、
「一度は来たんですよ。でも、魔法がやっぱり高度すぎるということで、巫女長の元へ運ぶ必要が出たんです」
「巫女長は神殿の外から出ることはできませんからね。それで、賊に襲われたと」
「そうなんですよ!」
危ない代物を盗まれたのに、カシェの瞳はさらに輝きを増した。
リュミエール様は、
「これ以上、話すことはありません」
そう言って、再び歩き出したから、私もついていく。
私たちはこうして、区画へと戻った。
私は部屋に戻って机に座ると、リュミエール様が入ってきた。
「アニエラ。お前の新しい鏡と護符が丁度届いていましたよ」
「ありがとうございます。護符もですか?」
この護符は、オリヴィエ王がつけているものと匹敵するくらいの強力なものだ。
「お前は本気を出すと見境いがなくなりますからね。それを心配した王が持たせたいと強く望まれたのです」
「王様に感謝します」
「無理をしてはいけませんよ。無理は本職の兵士や魔術師がやるものなのですから」
「わかりました」
夕方になってから、オリヴィエ王も戻ってきた。
彼は不思議そうに、
「あのさ、人形って、王族とかそういう人たちに反応するんだろ? 持っていってどうするんだろう」
「どっかの王族でも唆すんじゃないんですか?」
リュミエール様が答えた。
「どこのさ?」
「知りませんよ、そんなことは」
オリヴィエ王は今度は私の方を見て、
「アニエラはどう思う?」
「どっかの王族や高位の貴族を唆すのだと思います」
そういう道具だし。
彼は不安げに、
「僕、唆されるのかな」
「陛下。あなたの運動神経は絶望的ですからね。諦めて、唆されて、討伐されてください」
「酷いなー」
リュミエール様のハッキリとした言葉に、陛下は露骨にしょげた。
「私がその場に居合わせたら、ボコボコにします」
私が言うと、陛下は不満げに、
「それは、僕が、カッコ悪いから嫌だ」
オリヴィエ王はそう言ったけれど、リュミエール様は私に、
「お前にはしっかりとした殴り方を教えてあげたほうがいいかもしれませんね。王ではいくら教えてもどんくさすぎて、当たりません」




