フライドチキンみたいなものを作るよ
まーちゃんへ
私は今、オリヴィエ王と一緒に王の居住区画内の小さな厨房にいるよ。
なんでかっていうと、彼が本当に鶏肉とスパイスを用意させたからだよ。新年の行事も控えてるって言うのにさ。
ちなみに、王は今日もこれから朝ご飯を食べてから、執務に行くよ。
隅っこでは料理人の人が控えていて、私たち二人を見守っている。
オリヴィエ王は料理人に、
「下がっていいよ。必要な時に呼ぶから」
「しかし、包丁など」
「大丈夫だから、下がってくれ」
「は。かしこまりました」
料理人が厨房から出ていって、私たちは二人っきりになった。
オリヴィエ王は暇があったら、少しは休んだらいいのに。疲れてるのにさ。
彼は拗ねた子どものように、
「だってさ、僕もきららちゃんとクリスマスやりたい」
私、キリスト教徒じゃないんで。
「いいんだよ。日本だと、無意味に鶏肉とケーキを食うだけの日なんだから」
そうなんだけどさ、異世界人なのに日本や地球に詳しいね。
私の記憶むっちゃ見てるじゃん。
「うん、暇な時、大体見てる」
異世界で日本の料理作るって、マジで異世界転生ものの主人公じゃん。魔眼でチートだしさ。あとは、ハーレム作って魔王倒しに行けば完璧だよ。
「僕、ポジション的に主人公にはなれないんだよ」
それもそうだねって、心の中で頷きつつ、私ができる料理はカップラーメンにお湯入れるか卵かけご飯作るくらいだけどね。
だから、オリヴィエ王はすごいよ。王様なのに、料理できるんだもん。
「きららちゃんもすごいよ。スーパーの惣菜と弁当の値引き時間全部覚えてたんだから」
ヘヘ。私は少し照れた。
「でもさ、異世界転生で全然役に立ってないじゃん。僕が料理するところちゃんと見ててよ。料理のやり方を教えてあげるから」
そう言ったオリヴィエ王は切り分けた肉に、スパイスや塩、香辛料を揉みこんでいく。
「生姜はないけどさ、にんにくや塩とかよくわかんない粉はあるんだ。それを適当に揉み込んで寝かせて、衣をつけて油で揚げたら完成だよ」
陶器のボウルに入れられた肉が乾かないように、厚手の布を被せて、寝かせる。
ところでさ、さっきもそうだったけど、最近、現実世界でも、時々、きらら呼びするようになったじゃん。なんなの?
オリヴィエ王は事も無げに、
「だって、君が馬上試合で僕を助けた時、君の心の中のアニエラが消えちゃったもん。だから、自然ときららちゃんって口から出ちゃうんだ」
え? そうなの? 知らなかった。
私は自分の中に、アニエラが消えたことに全く気づいてないから、すっごく驚いてるんだけど。
「僕も最初は驚いたけどさ、今の君は本当に、アニエラっていう女の子のキグルミを着てるようなもんだよ」
でもさ、きらら呼びはやめたほういいよ。
自分が住んでる世界に合わせなよ。
私も合わせるからさ。
「それもそうだね」オリヴィエ王は頷いてから言った。
「じゃあ、僕が執務から戻ってきたら、肉揚げよう」
それから、王は朝食へと向かった。
私は今日も基本は私室で、物語描いたり、怪しい魔法がないか感知したりしながら過ごした。
で、夕方になったら、戻ってきましたよ。




