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大事なことが、幸せじゃなくてもさ

 私が振り返ると、そこにオリヴィエ王が立っていた。


 王の魔眼の力で、現実と精神世界の日本が混ざり合う不思議な空間に私たちは包まれた。


 王とオリくんの二人が重なって見える。


 彼は私の左手を握って、私の瞳を見て、言った。


「きららちゃん。一番大事なことが、幸せを意味するとは限らないんだよ。だから、帰ろう」

「私の記憶、封印した?」


 私が思わず尋ねると、彼は頷いた。

「うん。君が思い出しちゃいけないものが一つだけある」


 私は言葉が出なかった。

 けれど、彼は静かに言葉を続けた。

 

「僕は君がそれを思い出さないように、今でも時々、その記憶だけを封印してるんだ」


 私は淡々と言う彼に、胸の奥からじわりとした怒りが湧いた。

 大切な、まーちゃんとの、思い出なのに。


「ごめん」

 彼は申し訳なさそうに言った。

 その声を聞いた瞬間、胸の中で何かが緩んだ。


 でも、どうしてだろう。

 とても安心している自分がいるのは。


 私は自分の感情を、心を、眺めるように見つめた。


 ふーん、そっか。


 その思い出は、今の私には必要がないものなんだ。


 オリくんの安堵のため息が聞こえる。


 私は一応、確認した。

「ねえ、私はずっと思い出せないの?」


 オリくんは首を横に振った。

「ううん。僕の封印は完全でも完璧でもない。あくまで魔眼のオマケみたいな力だから」

「じゃあ、何かの拍子で思い出せる?」


 彼は頷いて、「うん。思い出しちゃうよ」


 私の怒りはスッと消えていった。

 オリヴィエ王は、オリくんは正直な人だ。

 そして、良い人だから。

 私が本当に思い出さないほうが良い記憶だけを封印したに違いない。


「ならいいや。その時に嫌でも知れるからさ」

「ありがとう。僕、君に嫌われたかと思った」

「ちょっと嫌ったけれど」


 嘘だけど。

 オリくんは可愛いし、優しいし、理由なく、そういうことしない人だからさ、嫌いになれないよね。


 その時が来たら、まーちゃんとの全ての思い出を抱きしめて、喜びに包まれながら、もう一度、飛べる気がした。


 今度こそ、まーちゃんの元へと。


「戻ろう。僕がどんなことがあっても、まーちゃんの元には戻さない」

「まだそんなこと言うんだ」

「だって、君はこの世界で、僕と生きてるんだもん」


 そう言ったオリくんの私を握る手に力がこもった。


「痛い、オリくん」

「ごめん。でも、僕は君を、僕のそばから離さないって決めてるんだ」


 私たちは部屋へ戻る途中、オリヴィエ王がポツリと、

「フライドチキンみたいなものは、この世界でも作れる気がする」

「そっか」


 みたいなものねー。まあ、肉揚げりゃ完成だよね、多分。


 オリヴィエ王は瞳を輝かせて、

「僕も、きららちゃんと、まーちゃんみたくフライドチキンみたいなものを作って、寒い部屋で布団に入って抱きしめ合いながら、食べたい」


 うわー、本気だ。


「私、まーちゃん以外とはそういうのはNGなんだ」

「知ってる」

「命令されたら、しょうがないけどさ」


 オリヴィエ王はキッパリと、

「命令しない。義務抱っこいらない。だから、普通に作って、普通に一緒に食べる」

「ま、そのうちね。今は忙しい時期だし」


 一応、言っておかないと、夜中に作って食べるって騒ぐかもしれないから。


「夜中じゃなきゃいいの?」

 オリヴィエ王は小さな声で言った。

 その声には、かすかな驚きと、ほんの少しの期待が混じっていた。

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