表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/33

私は今馬車に乗っています

 まーちゃんへ


 私は馬車に乗せられました。

 今の人生始めての馬車です。本当は違うんだと思う。


 子供の頃にも乗ってるんだと思う。

 大人の人たちは私が人質として送られたって話をしてたから、多分馬車で移動してるんだと思う。


 ペガサスとかドラゴンとか見たことないから、世界観的に馬車がスタンダードなんだと思う。ちなみに、移動していた幼少時の時の記憶はない。


 日本人だった頃の記憶は結構くっきりハッキリあるんだけど、こっちの世界の子どもの頃の記憶になると、結構曖昧。


 まあ、日本人だった頃の子どもの時の記憶も曖昧だから、どうしても子どもの頃の記憶ってあやふやになるんだろう。


 こっちの世界の親兄弟の顔すらわからない。


 名前だって基本呼ばれたことないし。「おい!」とか「こら!」「ちょっと」が基本でさ。セルフでご自由にお呼びくださいみたいな感じ。


 で、どこに向かってるかだけど。

 知らない。


 私は奴隷だから、知ったところで別に……だし。


 ちなみに、私の近くにはいつも視る男の人がいる。

 この人は常に自分の視界に入る人間の心の中や記憶が視えてるよ。自分では制御ができないタイプだ。


 えっとね、私は自動発動永続タイプって読んでる系の魔法ね。


 それで、なんかこの人が暇になった時なんだろうけれど、私の記憶や心を視てるよ。えっとね、私がよく行ってた図書館を、心の中で再現して、そこで本読んでる。


 なんか、最初は日本語を読む勉強してて、今は簡単な内容の本を読んでる。


 視る男の人が戻ってきて、知らない人たちに、

「彼女はおいって言われたり殴ると、返事をするけれど、僕はそれが嫌なんだ。絶対に彼女のことは殴らないでくれ。僕が全部やるから、彼女のことは放っておいてくれ!」


 あ、そうそう。服も新しくなった。

 ご飯も一日一いも健康生活から、ちょっと変わった。


 視る男の人が、板の形した石鹸を食べながら、言うんだよ。

「ほら、チーズだよ。僕と同じように食べてごらん」


 こいつ、石鹸食ってる。

 

「チーズだよ」


 視る男の人が私の口に、石鹸をあてがう。


 仕方ないから、食べてみた。

 しょっぱい。


 あ、チーズと同じ味する。


 でも、まずい。


 紀元前にやっと作り出した、人類最初のチーズって多分、こんなんやつなんだと思う。


「この世界は紀元前よりは進んでると思うんだよ」


 丸い物体を差し出された。色はうっすらと茶色い。


「これはパンだよ。君が知ってるパンとはちょっと違うけど、スープに浸して食べてごらん」


 まーちゃん。これってインド料理屋さんで出てきそうな見た目してる。

 私は一口かじってみる。

 固い。


「スープに浸すんだよ」

 視る男の人が、私に差し出したインドを手に取り、ちぎってスープに浸して、私に食べさせた。


 介護か。


「インドって名前じゃないんだよ。パンなんだよ。インドだとカレーになっちゃうだろ」


 なんか、ずっと一人でごちゃごちゃ言ってるよ。

 あ、目に視えないものと話してるからか。


「違うよ。君に話しかけてるんだよ。困ったな。怒鳴られたり、叫ばれる、殴られるが普通として育ってきたから、普通に話しかけただけだと反応しないんだもんな」


 インドをスープに浸してみる。うん、スープ味になっておいしい。


 それから毎日、スープとインドっぽいパンと石鹸みたいなチーズの食事になった。


 窓の外には一面の葉っぱだね。うん。葉っぱがたくさん生えてる。

 コンクリートジョングルとはぜんぜん違う。


 なんだろう、癒やしの光景ってやつ? でも、全然クソつまんないよ。


 馬車だから、全然、新幹線より遅い。

 馬だもんね。


 いつまで経っても渋谷から大阪にたどり着かなそうな感じ。

 もう横浜にだって行けないと思う。


 視る男の人が、溜め息をついてから、


「おい」


「はい」


 呼ばれたから、答えないと。面倒くさいな。


「君の名前は?」


 名前?

 なんか言わないといけないのか。


「……おい?」


「違うよ。誰かに名付けられた名前が、君にもあるんだよ」


「葛城きらら」


「それは君の前世の名前なんだよ。君はこの世界にアニエラとして生まれたんだよ」


 アニエラだって。

 きららよりダサッ。


 この視る男、なんか異世界転生アニメみたいなこと言い出したよ。

 チートとかざまあとかするやつ。


「君は、異世界に転生してきたんだよ。チートもざまあもないけれど、異世界に生まれたことだけは確かだよ」


 なんだ、クソアニメ確定だ。

 何を楽しむために観るんだよ。

 第一話で打ち切りだ。


「君が生まれた国はルーンブルクと言うんだよ。僕が滅ぼしたんだけど」


 ルンブルだって。

 まーちゃん、絶対、チンチンブルンブルンとかっていう下ネタやるでしょ。

 下ネタ好きすぎるもん。


「いいかい。きちんと自分の名前と国を覚えるんだよ」


 チンチン。


「勝手にブルンブルンさせないで。名前は」


 ……。

 えっと……。


 アンリエッタ?


「アニエラだよ。僕がアニエラって呼んだら、きちんと答えて、僕と話をしたり、僕の命令を聞くんだよ」


「承知いたしました」


 アニエラプレイってやつか。


「プレイじゃないんだけどな。君は人質として送られてから、名前で呼ばれたことが一度もないよね。だから、そう思うのかもしれないけどさ、プレイにしちゃうのは極端じゃないかな」


 まーちゃん、馬車の旅はマジで退屈だよ。

 スマホで一緒に動画視たいよ。


 !


 遠くで、魔法を使った戦闘が始まったみたい。

 えっとね、魔法使い二人に魔法使い一人って感じの戦い方だ。


 視る男の力が邪魔して、ちょっと感じづらいけれど、……。


「ごめんね。邪魔して」


 ソロ魔法使いのほうが数段強いから、二人組負けるだろうな。

 あ、ほら。

 二人組が負けた。


 ソロのほうが強い魔法を使ったから、二人組は生きていないと思う。


 ソロは南西の国の仲間なのかもしれない。


 まーちゃん、知ってる?


 お城の王妃様と王様が誰かに呪いをかけられてるの。お城の人は巧妙な魔法過ぎて、気づいていないし、今はまだ効果が出ないだろうけれど、数年後に二人は病で苦しむよ。


 多分、その隙をついて、攻めてくる国とか勢力があると思う。きっと南西の方面。

 南西の方から、その呪いの魔法は来たし、今も南西から時々城に魔法が飛んでくるから。


 男の人がいつの間にか私の横に立っていて、私の目を見ていった。

「その話、もう少し詳しく話してくれないかな?」


 別に、それだけだから、話すことなんて何もないけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ