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寒い日

 まーちゃんへ


 うぅ、さみぃ。私は思わず起きた。

 吐き出す息が白くて笑ける。こんな急に寒くなることあるの? ってくらい寒いんだけど。


 まだ真っ暗で、窓の外を見ると、空には星が輝いている。この世界は二酸化炭素を排出してないから、そらむっちゃ綺麗だよ。


 そんなことよりも、オリヴィエ王だよ。

 私みたいな掃き溜め育ちと違って、いいとこの坊っちゃんだからね。

 寒さで風邪引いたら可哀想だから、毛布でも持ってこないと。


 ちなみに、私の毛布はないよ。奴隷だからね。震えて眠るんだよ。

 まーちゃんに会いたくて会いたくて震える〜。


 オリヴィエ王は今、風邪引けないんだよ。いつでも引けないんだけど。

 なんか新年が近いから、色々な行事があるらしくてさ、むっちゃ忙しくしてる。私? いつもどおりだよ。


 区画内の使用人たちも起きていて、各々が倉庫から毛布とかを取っていく。

 私は王用のむっちゃ分厚い毛布と私用のちょっと薄い毛布を渡された。

 私の毛布はないものだと思ったから、やったー。生きてるといいこともあるんだね。


 私が部屋へと戻ると、オリヴィエ王も急な寒さで起きていて、縮まっていた。


 王は私を恨めしそうに見ながら、

「アニエラ。起きたら、君がいないから、寒いって言えなかった」


「申し訳ございません。陛下の毛布を取りに行っていました」

 私はそう言いながら、毛布をかける。


「お茶を飲みますか? 部屋を暖めますか」と私。

「お茶いらない。部屋は暖かくしてほしい」

 オリヴィエ王は目をこすりながら言ったから、私は暖炉へと向かう。


 まーちゃん。

 私も暖炉に火を点けるの上手になったよ。

 薪から上がる炎は赤くて、パチパチと爆ぜていく。炎が安定したから、しばらくは消えそうにないな。


 部屋が温まった頃に、王は寝息を立てている。


 私は立ち上がって、廊下へと出た。この時間でも、居住区画の入口には兵士がいて、外へ出ることはできないんだよね。まあ、行きたいわけじゃないんだけど。


 私は窓の外を見た。

 あのさあ、ベッドに戻っても良かったんだけど、思い出しちゃったんだよね。


 ――まーちゃんは覚えてるかな。クリスマス。


 急に、今年最大級の寒波が来たとかでとっても寒くてさ。

 白タキおじからチキン買ってさ、さみーさみー言いながら、のぞみさんの部屋に戻ったじゃん。


 で、戻ったら電気止められちゃっててさ、凍死するんじゃないかってくらい部屋寒かったよね。

 原始人みたいにそこら辺で拾ってきた石をこすって、火をつけようか悩んだのも懐かしいよ。


 それで、私たちは二人仲良く、ベッドに入って、抱きしめ合いながら、白タキおじチキン食べたね。


 まーちゃんがさ、

『ねえ、きららん。キスしよう!』

『なんで? レズになった?』

 私は驚いて尋ねていた。


 まーちゃんは大きな口を開けて、笑いながら、

『違う違う! なんかキスしたくなった』

『やだー、まーちゃん! 目覚めたらどうするのさ!』


 私が声を上げると、まーちゃんはさらに豪快に笑いながら、

『んなわけ、あるかー!』

 私たちはノリと勢いで、ライトなキスを繰り返した。


 まーちゃんは爆笑しながら、

『ほらあ、目覚めねーよ! 全然、興奮しねーもん!』

『本当だね!』


 私はその時、びっくりするくらい胸がドキドキしてたんだ。

 でも、嘘をついた。


 まーちゃんに、好きっていう気持ちを悟られたくなくてさ。

 早くこの高鳴りが収まりますようにって祈ってた。でも、朝まで抱きしめあって、とっても幸せな時間だった。


 あ、思い出した。


 キスが終わった後に、まーちゃんはいつもの豪快な笑顔で、

『うちら、最高最強の友達だから』


「……最高最強の友達だから」


 あれ?

 何か引っかかる。


 私はなぜだろうと考え続ける。


 誰かの足音が聞こえるけれど、それどころじゃない。


 ……。

 ………。


「私はとても大切な、一番大事なことを、忘れている気がする……」


 それがなんなのかわからない。


 オリヴィエ王なら、オリくんなら、わかる。


 いや、わかっているはずだ。


 人の全ての心や記憶を否応なしに見通してしまうのだから。


 怖い。

 ―――怖い。


 その思い出の箱を開けたら、私は……!


 半分、パニックになりかけた私の感情に呼応するかのように、足音が止んだ。

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