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リュシル様は恋をしています

 まーちゃんへ


 最近、またリュシル様とカシェが入口までやってくるようになったよ。


 で、リュシル様の自作小説以外にもいろな小説を読む羽目になってる。


 というのも、リュシル様の元には、小説を書く同好の士みたいな人たちが集まっていて、自作の小説を披露しあっているらしいんだよね。


 で、その同好の士が、私に自作の小説を読んでほしいと、リュシル様に託したわけ。


 そういうわけで、私はひたすらに短編小説を読み続けてる。


 近くにはカシェもいて、魔法感知の訓練として、魔ろうそくを見つめてる。


 彼は真剣な表情で、

「師匠、僕も遠くの魔法を感じようと、夜ベッドに入った時とかは、何もない天井を夜な夜な見つめてます。でも、一向に何も感じません。寝ちゃうんですけど」


 私は呆れながら、

「天井を見つめるより魔ろうそくを見つめ続けたほうがいいと思います。寝ちゃってください」


 今度はすかさず、リュシル様が、

「カシェ様。アニエラ先生は小説を読んでいらっしゃるんですから、静かになさってください」


 カシェは、彼女に向かって、

「まだあなたのサロンに顔を出す人間がいたとは驚きですね。彼らは行く場所がないんですね。まるで吹き溜まりですね」

「まあ、酷い!」

 リュシル様は口ではそう言っているけれど、怒っている感じじゃない。


 それから、私に向かって、

「先生。セリーヌ王妃が文学賞を主催したのよ。受賞作品は本にして、各地の図書館に配って、ついでに、たくさんの賞金も出るの」

「そうですか」

 私は短編を読みながら答えた。


 ねえ。人が小説読んでるから静かにしろって言ったの、あんただよね?


 リュシル様は拗ねたように、

「でも、私のサロンに出入りしている貴族は応募不可という条件がつけられたから、多くの貴族が私のサロンに来なくなったのよ」

「そうなのですか」

 私はなんて言えばいいのか困った。


 とりあえず、小説を一通り読み終えた私は、感想を伝えた。

 感想はリュシル様が連れてきた従者の人が丁寧にメモしていく。


 私如きの感想でいいの?

 奴隷だよ、私?


 ちなみに、私の感想はアテにならないよ。

 貴族様の怒りを買わないように、良いことしか言ってないからね。


 感想を言い終わると、待っていましたとばかりにカシェが、魔法感知に関する専門的な質問とかしてくる。


 そういう難しいのは、わからないんだけど。


 リュシル様がカシェに言った。

「先生が困っていらっしゃいますわ。それに、もうそろそろ夕方ですわ」

「では、帰らないといけませんね」

 カシェは窓の外を見た。


 窓の外に日は落ち、夕暮れがかっていた。


「それだったら、カシェ様。私と一緒に夕食を食べません?」

「え? いいんですか?」

「ええ。料理人に言って準備させればいいだけですわ」

「じゃあ、お邪魔します」


 二人は仲良く立ち去っていった。

 ……いいんだけど、いきなり来られるのが使用人の立場では一番困るんだよね。

 特に、料理人が何を作ろうかって頭捻らなきゃいけないからさ。


 でも、二人の仲は少しずつ縮まっているように思う。


 次の日、リュシル様だけが来て、私に言ったんだよね。

「王とは離婚すると思うわ。親がそういう風にすすめているから」

 それから、溜息をついて、

「でも、カシェ様と恋人になれるわけじゃないのよね。実家に帰って、親が決めた相手と次の結婚」


「そうですか」私はこれ以外に言える言葉がなかった。

「セリーヌ王妃はあなたのことを家畜呼ばわりするけれど、私も一緒よ。自分の意志と関係なく運ばれていく家畜。それが私なの」


 それから、一緒にお茶を飲んで、リュシル様の自作小説の朗読を聞かせてもらった。


 彼女は内心の不安を感じさせない普段通りの様子で、戻っていった。


 夕方になったら、今度はオリヴィエ王が部屋に戻ってきた。


 今日は会食とかの予定がないから、私は私服への着替えを手伝う。

 王の世話をする時は、人の心が視える王にストレスを掛けないように無心で、やるのがコツね。


 で、夕食まで王は暇になる。今日の王はソファに座っていて、私の心の中をじっと視てる。

 毎日のルーティンなんだけど、今日はちょっと長いな。


 時々、王は私の感情が感染して、自分も不安になって、怒ったりしてる。可愛いよね。

 なんかさ、私も時々、トラウマを思い出すことがあってさ。

 それで不安や恐怖、怒りの感情が湧くことがあるんだ。


 基本的にそういう感情は、ふーん、そうなんだって思ってスルーするように努力してる。

 苦しいときもあるけどね。


 オリヴィエ王はそういう時は、黙って私の隣りに座ってくれるから優しいよね。


 だけど、私の心を視ちゃうから、一緒に苦しい思いもしちゃうんだよね。

 でも、私の心を毎日視ないと駄目なんだって。

 私の心を視ると、私に抱きしめてもらってるような気持ちになれるんだって。


 そんなことはどうでも良くて、私は部屋の隅の床に座って、窓の外を見る。


 で、まーちゃん。

 まさかカシェを好きになる女がいるとはさ。

 どう思う?


「いいんじゃないかな。僕は理解できないけど」


 オリヴィエ王に聞いてないよ。


 リュシル様もあー見えて、色々と物思ってんだね。

 自分もドナドナされる家畜と一緒だってさ。

 嫁いだ先で旦那に食われるわけだから、うまい例えじゃん。


 離婚するだろうから、次も親が決めた相手とご結婚ねー。

 まあ、この手の世界観だとこれが普通のことだよね。


 オリヴィエ王が、

「あのさあ、リュシルはカシェと結婚できるかもしれないよ」

「え?」

「カシェって侯爵家の当主なんだ。リュシルは男爵家だから、彼女の親からしてみたら、願ったりかなったりだと思う」


 願ったりかなったりだって。

 でも、現実はそう簡単にいかないよね。


「……僕、頑張ってみる」

「え?」

「僕、権力には自信ある」


 言っちゃったよ。


「でも、この権力の使い方は悪用じゃないからね。どっちの家にも得があるよ」


 そうなんだ。

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