再びの馬上試合
まーちゃんへ
この間、馬上試合が途中で中断されたでしょ。だから、規模を縮小して、お城の中で続きするみたいだよ。
前の時はセリーヌ王妃に試合に呼ばれたけれど、今度こそ、私は試合と無関係ね。
元々、貴族の人たちのお祭りみたいなものらしいから、私が観戦しちゃ駄目なんだよ。
おかげで、今日は王を見送ったあとはゆっくり執筆することができるよ。
まだアレクサンドロス大王の戦記書き終わってないんだよね。
そろそろインドを侵略するところ書きたいよ。
オリヴィエ王が私の心の中を視て、言った。
「宮廷の貴族たちも続き読みたいって人多いんだ」
「そうなのですか?」
王は私の言葉に頷いて、
「アニエラ、今日は物語の続きを執筆することを命じるよ」
「かしこまりました」
「他の者にも言っておくから、邪魔が入らないはずだよ」
ありがとう。
馬上試合当日、オリヴィエ王は前回と違って、リラックスしてる。
前回の試合でカシェに負けたから、もう観戦するだけでいいんだって。
なんかさ、カシェって馬鹿な分際で、実は優勝候補の一角らしいよ。どうでもいいけど。
「それじゃ、アニエラ。行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」
私はオリヴィエ王を見送ってから、部屋に行って執筆開始だ。
私は鼻歌交じりに、ペンを走らせる。
調子よく書いていると、いきなり勢いよく扉が開かれた。
笑顔で入ってきたのはリュシル様とその侍女だった。後ろには兵士もいる。
「迎えに来たわよ、アニエラ! 一緒に伯爵を応援しましょ!」
「今日は王から、物語の続きを執筆するようにと仰せつかっております」
兵士が残念そうな表情で、
「王の許可は取ってある」
見えた。
陛下のように人の心は見えないけれど、流れが見えた。
リュシル様が笑顔で言った。
「セリーヌ王妃がアニエラを招待できたのだから、公式愛妾の私が招待できないのは不公平です! って一時間くらい説得したのよ!」
私が見えた流れと全く一緒だった。
しかも、一時間もオリヴィエ王は頑張ってくれたんだ。
「さあ、一緒に伯爵を応援しに行くわよ」
どうして、私は、公式愛妾様が片思いをしている伯爵を応援しにいかなきゃいけないんだろ。
ねえ、説明してよ、最新のAI。
会場はリュシル様もオリヴィエ王もセリーヌ王妃もそれぞれ離れた位置に座っている。
私が会場に入ると、貴族たちがどよめいて、視線が一斉に私の方に向いた。
「皆、あなたのこと心配していたのよ!」
リュシル様が何故か得意げに言って、言葉を続ける。
「王妃様なんて、王様の命が助かったのは、アニエラを会場につれてきた自分の功績だって言ってるのよ」
……。あのさ、宮廷の謀略とかいう言葉知ってる?
地球だと、国問わず宮廷なら色々とあってさ、普通、そういうことは本人のいる前で言わないもんなんじゃないかな?
世界が違うから、そういうルールはここでは通用しないのかもだけど。
話が聞こえたセリーヌ様がやって来て、
「その通りですわよ! ただ、王宮にいるだけのあなたと違って、私はしっかりと王の安全や宮廷文化に貢献しているんですのよ」
宮廷文化というのは、文人を雇い入れてるとかいうやつのこと?
セリーヌ王妃は私を見て、
「私がいたから、あなたは王を守ることができたのよ。子種がない無能な王ともども私に感謝いたしなさい」
「ありがとうございます」
私は形式上頭を垂れて言った。
内心は友達馬鹿にするなし! ってあんたを殴り倒したい。でもさ、立場上無理だし、周りの貴族も引いてるんだよ。
もっとよく見な。
地球だと権力争いっていうのがあってさ。
貴族たちの支持を得られるかどうかって大事だったりするらしいんだけど。まあ、ここは世界が違うもんね。
支持が得られなくても問題ないかもしれないもんね。
ねえ、気づきなよ。
あんたがそういう態度を取る度に、人が離れていってるの。
あんたの金しか見ていない連中しか、あんたに残ってないのを気づいたほうがいいよ。
よく知らないけどさ、今のあんたの近くにいる人って、きっとそういう連中だけだよ。
セリーヌ王妃はリュシル様にも、
「あなたが王宮で暮らしていられるのも、私が追い出さないからよ。感謝しなさい」
「ありがとうございます。さあ、行くわよ、アニエラ」
言われたリュシル様もいつものことなのか、さっさと席へと向かう。
試合開始前に、セリーヌ王妃とのやり取りを見ていたオリヴィエ王は、私に申し訳なさそうにしていた。
気にしないで。
私の心を読み取って、安心した王は、私の精神世界へと潜り込んだ。
多分、最近ハマっているベ◯ばらを読んでるんだと思う。
いつも泣きながら読んでてさ。
で、読んだ感想を、部屋に落ちてたぬいぐるみにいうわけ。
そのぬいぐるみにポコタって名前をつけて、むちゃくちゃ可愛がってるよ。
席も観客の貴族たちで埋まり、会場には甲冑姿の出場者も勢揃い。試合がやっと始まるみたい。
馬上試合の一戦目はカシェだった。
彼は爽やかな笑顔で、私に向かって叫んだ。
「僕と結婚して、最強の夫婦になって、カリシュタに復讐して、最強魔法キングダムを建国しましょう!」
私は謀反を疑われては困るから、慌てて声を上げて否定する。
「復讐しません! 建国しません!」
試合が開始されると、カシェはあっさりと勝っちゃった。
そして、次に伯爵の試合となった。
当然、リュシル様が、黄色い悲鳴を上げた。
「きゃー。伯爵様! 素敵!」
伯爵もリュシル様に手を振った。
で、私は馬上試合にすぐに飽きたんだけど、リュシル様はこういうの大好きらしくて、横で色々と説明してくれる。
馬上試合は結局、決勝で伯爵とカシェがぶつかった。
さすがに、決勝ともなれば、オリヴィエ王も精神世界から戻ってきて、つまらなそうに試合を眺めている。
あ、本当に興味がないんだ。
優勝したのはカシェだった。
準優勝した伯爵の元に、一人の男性が駆け寄って、抱きついた。
そして、伯爵が叫んだ。
「来年こそは愛する彼に勝利を捧げます」
リュシル様は露骨にがっかりした表情をした。
私はわかってたよ。こいつは同性愛者だって。
カシェは私に向かって、
「師匠。僕勝ちましたよ! 僕、強いでしょ。だから、結婚しましょう!」
リュシル様が顔を赤らめながら、
「そうよね、カシェって強いわよね」
ふぁ!?




