今日の私は安静です
まーちゃんへ
オリヴィエ王が身支度をしている間、私はベッドで寝ていた。今日は出ちゃ駄目なんだって。
変な気分だよ。身支度している王様の横で、奴隷の私が寝てるんだもん。
まあ、起きたところで指が包帯でぐるぐる巻きだから、お手伝いや小説の執筆は無理そうなんだけど。
オリヴィエ王が、
「アニエラ。朝ご飯食べ終わったら、顔を見に来るからね」
「わかりました」
こんな顔でよけりゃどうぞ。
王様や身だしなみを担当する侍従たちが部屋から出て、数分くらいしてから、外から足音が聞こえてきた。
今度は王の居住区画の門番が入ってきた。すごく困った顔で私に言った。
「至急入口へ来てもらう」
「わかりました。ですが、着替えないと」
「そういう時間はないと思うぞ。そのままでいいさ。はあ。王様に怒られるかなー」門番さんは困ったように呟いた。
入口に急いで向かうと、待っていたのはリュシル様とカシェだった。
リュシル様は満面の笑みで、
「アニエラ! 朝ご飯を持ってきたわよ。指駄目なんでしょ! 食べさせてあげるわ」
「お師匠様! 早く元気になれるように、超滋養強壮ドリンクを作ってまいりました!」
カシェも満面の笑みだ。
見える。
見えるぞ。
リュシル様がアニエラを連れてくるように命じて、拒否される。なら、自分が区画の中に入ろうとする。それに、カシェが便城しようとした。
このやり取りを繰り返して、私を連れてくることにしたという流れが。
リュシル様は意気揚々と、
「昨日のあなた、とってもかっこよかったわ! だから、料理人に特別に元気になれる食べ物を作らせたの!」
そう言って、豪華なお粥みたいなものを私に見せながら、さらに言葉を続ける。
「陛下はあなたのことが好きなのに、酷い奴隷扱いをしているから、何を食べさせるかわかったもんじゃないもの」
「お師匠様! 僕もリュシル様に一部同意の気持ちで、僕が徹夜して自ら作ったんですよ」
カシェも自慢げに言った。
それから、リュシル様は持参した椅子をセッティングし、私に座るように促す。
奴隷の分際だから私は逆らえないんだけど、カオスな展開に私の心は虚無状態。
リュシル様はスプーンを取り出し、私に豪華なおかゆ的なものを食べさせ始めた。
さすが、王族様のご飯だけあっておいしい。
後ろからざわつきと足音が聞こえてくる……気がする。
リュシル様が顔を赤らめながら、
「アニエラ! 私、あなたに惚れちゃいそう! あなたが殿方だったら良かったのに!」
「それは困ります。師匠は僕と結婚するんですから」
カシェはキッパリと言いきった。
リュシル様は強い口調で、カシェに、
「いやあね、あなたなんてアニエラの相手にふさわしくないわよ」
私の相手にふさわしいのは奴隷ですからね。
おかゆタイムが終了したらすかさず、カシェが得体のしれない緑色のドリンクを私に差し出した。
「元気になれますよ! 飲ませてあげます。それとも口移しがいいですか?」
瞬間、背後の足音が早まった。
そして、誰かがカシェのドリンクを奪い取った。
振り向くと、オリヴィエ王だった。
彼は怒りと呆然が混ざった表情で、カシェのドリンクを一気飲みした。
飲み干し終えたオリヴィエ王は、カシェに向かって、
「カシェ。ありがとう。王の健康を気遣う忠実な家臣を持てて、僕とっても嬉……ウェ……しいよ」
「陛下の健康なんてこれっぽちも気遣ってませんよ。陛下が病に倒れたところでどうでもいいです」
ハッキリ言うな。
オリヴィエ王は青い顔で、
「奇遇だな。僕も、君が病に倒れたところでどうでもいいよ」
「陛下。お顔が」
私は思わず声をかけたが、彼は机上にも笑顔で、
「じゃあ、アニエラ、僕、執務に行ってくるから、しっかりベッドで休んでるんだよ」
それから、問題のある二人を見て、
「君たちもアニエラの体を思うんなら、早く帰るんだ。彼女は医者からも安静を言われてるんだよ。これは王としての命令だよ」
「まあ、酷い王様。私たちはただアニエラの体を思って行動してるだけですわ」
リュシル様の反論にオリヴィエ王がたじろぎながらも、
「う、うん。そ、それはありがとう。リュシル。でもさ、相手はベッドから本当は出ちゃいけないんだよ」
「それじゃ、ここにベッドを持ってきますわ」
「いや、そういうことじゃなくて」
「僕、早速持ってきます!」
カシェが本当にベッドの調達に行こうとしている。
人の心が視えてしまうオリヴィエ王でも、通用しない相手がこの世にいるんだ。理解できない相手がいるもんなんだ。
オリヴィエ王は再度、区画の中に戻ると、リュミエール様を連れて戻ってきた。
リュミエール様はひと目見ただけで全ての状況を把握し、
「何してるんですか。ベッド持ってきたら、金輪際アニエラとは会わせません。とっととお帰りください。戻りますよ!」
「はい」
部屋に戻ってから、私はまたベッドに入れられた。
「リュミエール様。私の体はもう大丈夫です。指以外は元気です」
「それでも休みなさい」
リュミエール様は私に布団をかけながら、
「昨日の馬上試合会場で王はお前を抱きしめました。最後の魔法を跳ね返した時、王が身に着けていた護符も砕けたのです」
私は驚きで、開いた口が塞がらなかった。
「! あんなに強力な護符なのにですか?」
「そうです」
リュミエール様は頷きながら、続けて言った。
「魔術医はお前は護符も身に着けず、その魔法を跳ね返し続けたので、体にかなりの負担が掛かったといいました」
私は自分の体を見た。負担がかかった感じはしないけれど。
「数日は絶対に安静して、様子を見ないといけないと言ったのです」
リュミエール様は念を押すように言った。
それを察したリュミエール様が、
「お前もそういう事情を察しない馬鹿二人の仲間入りをしてはいけませんよ」
首を横に振りながら、
「王の命令を、王の前で堂々と破れる人間が二人もいることに、呆れてしまいますね」
夕方に執務から戻ってきたオリヴィエ王が私に向かって、切実な表情で叫んだ。
「僕、君が女とセックスしても許さないからぁ!」
瞬間、リュミエール様に部屋の外へと引きずられていった。
「数日間、部屋の出入りを禁止にします」
「なんでだよ! 僕の寝室なんだよ!」




