っざけんなし!
馬上試合の会場では、悪い魔法が入らないようにしっかり結界で囲われていた。でも、得体のしれない魔法の存在を知っているから、私は安心できないんだけど。
なんていうか、三匹の子豚の家で言うところの次男坊の家レベル。つまり藁じゃなくて木。レンガではない。
私とリュミエール様はセリーヌ王妃の隣に席が与えられた。
少し離れた席に座っているリュシル様が私たちを見つけて、驚いた表情をした。そうだろうな。
セリーヌ王妃はニヤニヤ笑いながら、
「これから、王とカシェが対戦するみたいだわ。無様に負けるところを奴隷に見てもらえるなんて、彼もとっても喜ぶわ」
そんなマゾっ気は王にはねーよ。
うわー、笑みが最高潮にいい具合になってるから、この人、このためだけに私をここにつれてきたんだ。
引くわー。
ドン引きだよ。
王とカシェは馬上で槍と槍を交わらせるけれど、王の槍は明らかに遅い。一人だけ、〇.七倍速の世界で生きてる感じ。
ルーンブルクを併合するための戦いでは、野戦の時は本陣にいたよって言ってたけど、良かったね、本当に。
カシェの槍は正確に王の盾や兜を狙う。
どうすれば勝ちになるのか全くわからないけど、確実に負けるんだろうなっていうのはわかる。
セリーヌ王妃は優雅にセンスをパタパタさせながら、
「ホホホ。無様ね」
!
私は立ち上がり、走り出した。ドレスが邪魔なんだけど!
時間がない。
私は通路のど真ん中に立ち、鏡を掲げた。
嫌な予感がした、嫌な魔法が、ご到着なすったよ。
瞬間、結界を突き抜けた魔法が鏡に当たった。
パリーンと音を立てて、鏡の破片が散らばった。私は腕の強い衝撃とともに、後ろに吹き飛んで、ゴロゴロと転がる。
イテェッ!
悪意全開の、オリヴィエ王を狙った魔法。まるで、レーザービームのように正確無比。
私はそれを打ち返した。
オリヴィエ王の体に当たったら、発動するタイプの呪いの魔法だ。
まだまだ来る。
でも、少し時間がある。
「ハッハッ」
私は急いで立ち上がると、動きやすいようにとドレスをタンクトップみたいなインナーごと脱ぎ捨てる。
私の傷だらけの裸なんて、見られるくらいなんてことない。
指先が痛い。鏡が赤くなる。なんで? あ、血だ。誰のだ?
魔法が飛んできた。
鏡を破片を拾い上げた私は空を見上げ、雄叫びのように叫ぶ。
「来いや、コルァッ! ッザケンな、テメェ!」
行こう! まーちゃん!
私は鏡の破片で第二波の魔法を跳ね返す。
術者に届け。
術者に戻れ。
死に晒せ!
破片はさらに細かく飛び散って、ついでに血も飛び散る。再び私は吹き飛ぶけれど、さっきと同じように破片を拾う。
友達殺そうとするやつは絶対許さん!
だから、私が全て跳ね返す。
最後の魔法が届く。今までのものよりも強力だ。
でも、私が全力を出せば、百パーセント魔法をかき消せる。
だけど、私はその魔法を打ち返すことはほぼ無理だ。
それでも、可能性だけはゼロじゃない。
できなかったら、私の体はズタボロだ。
できたら、術者の体がズタボロだ。
でも、友達のオリくんはノーダメだ。
できなかったら、地球転生チャンスの獲得じゃん。
まーちゃんに会いに行ける。
友達はどっちに転んでも無事。
この賭けには負けがない。つまり、もう私の勝ちだ。
オーケイじゃん。
誰かが私を後ろから抱きしめた。
私は叫んだ。
「離せし、クソが! 動けねーだろ! 東京湾に沈めんぞ、コルァ!」
私を抱きしめる力が強くなって、「もういいから! きららちゃんが死んじゃったら僕どうすればいいんだよ!」知るか!
「ウッセェ、黙れし! いいわけないじゃんっ! やられたら、何億倍にして返すんだよ!」
私は血まみれの手を掲げた。
その手に寸でのところで、誰かが手鏡を握らせて、私の手を力強く握った。
魔法が鏡にぶつかる直前、私たちは声を張り上げた。
「「「クタバレ!」」」
私以外にリュミエール様とオリヴィエ王の声が会場に響く。
そして、仲良く後ろに吹き飛んだ。
魔法は飛んでいった。
私の視界に甲冑姿のオリくんが入ってきた。うわー、すごい泣いてるじゃん。
「きららちゃん! きららちゃん!」
「……もう大丈夫だよ」
もう危なくないからね。
でも、術者に魔法が戻ったのかどうかは確認できなかった。
私の意識が――なんかなくなっちゃたからさ。




