視る男の人は嫌われ者みたいだよ
まーちゃんへ
私は魔法の訓練場から、なんか豪華な部屋に移動させられました。
近くには、男の人が数人話してる。
「陛下! 本気なんですか! あの娘を国につれて帰るなど。失礼ながら、骨と皮しかありませんよ」
「連れて帰るんだ」
「なんでも、先頃、我が国が併合したルーンブルクの王女というではありませんか。復讐と称して寝首をかかれたらどうするんですか」
「その時は僕の弟に王位を譲るよ。いつでもそうなってもいいように、準備しておいてくれよ」
寝首をかかれたので有名なのに、フィリッポス二世っていう王様がいるのね。
えっとアレクサンドロス大王っていう王様のお父さんで、自分の娘の結婚式で暗殺されちゃったんだ。
自分の護衛官の一人のパウサニアスっていう人に。
暗殺の動機は、よくわかってなくて、王様へ恨みがあったとか王妃オリンピアスや息子アレクサンドロスが関与したという説、ペルシア陰謀説って色々とあって、謎に包まれてるの。
何回も結婚して、王妃やアレクサンドロスとの仲も悪くなったりしてて、要は嫌われ者だったんだ。
視る男の人もきっと嫌われ者なんだ。
嫌な人間なんだね。
私もこれから、あの男の人にぶたれたり、ムチで叩かれたり、犯されたり、最終的に殺されるんだろうな。
日本だったら、精々首絞めレベルだったのにさ。
嫌だよね、時々、首絞めたいとかいう男の人と当たった時。
そういう店に行けって思うよね。
暇だな。
いつもだったら、こういう時は部屋に戻って寝て時間を潰せるのに、ここだと人がいるから部屋にも戻れないし寝れないし。
男の人たちは、ごちゃごちゃと何かを話してる。
奴隷一人がいなくなっても気づくわけないか。
視る男の人が、私のところにやってきて、肩を掴んだ。
「君はここにいるんだよ。ちょっと退屈かもしれないけれど、少し辛抱するんだよ」
私は仕方なくその場に立つことにしたよ。足痛い。
視る男の人は言った。
「ほら、ソファに座ろう」
視えない何かは大事なお客様なのだろう。
お茶の準備でもするか。
視る男の人は慌てて、私の肩を掴んだ。
もしかして、私に言ったのかな。
私が命令を聞かなかったから、ぶとうとして空振ったんだろう。
……。
あ、そうか。
よっこいしょ。
私は床に四つん這いになった。
この人は大衆の目の前で、人間椅子プレイしたがる変わった性癖の男の人なんだ。
こういう人がお客さんだと、楽でいいんだよね。
視る男の人が慌てて私を立たせて、ソファまで連れていき、座らせた。
「ちゃんとお行儀よく座ってるんだよ。ちょっと退屈でもちゃんと我慢するんだよ」
目に見えない何かとまた話してる。
次に、男の人たちに向かって、
「この子はどうやら、一昨日の昼頃から何も食べていないみたいなんだ。誰か食べ物を持ってきてくれないかな」
目に見えない何かも何かを食べるみたいだ。
気がついたら、私の目の前に白い汁が出された。
なんだ、これ?
「ほら、重湯だよ。何も食べてない体にいきなりパンとか食べると体がびっくりすることがあるからね。ゆっくり飲むんだよ」
視えない存在はそういうものなんだって。全く役に立たない雑学だね。人生の無駄知識ってこういうこと言うんだね。
視る男の人が、スープをすくってスプーンを私の口元に運んだ。
私の口元あたりにいるんだろうな。
「へ、陛下……」
「気にしないでくれ。彼女はちょっと特殊なんだよ」
「ほら、口を開けて飲んでごらん」
男の人が、
「おい! 奴隷の分際で陛下になんてことをさせるんだ!」
私は男の人を見て、定型句を言った。
「申し訳ありません」
私は体から力を抜いた。
余計な力を体から抜いたほうが、ぶたれた時、変なところが痛くならない。
「彼女を怒鳴るのをやめてくれないか! 僕が良いと言ってるんだから、僕の好きなようにさせてくれないかな」
男の人たちが何かを怒鳴って、言い合っている。
私は遠くを見た。
視る男の人が小声で言った。耳がくすぐったい。
「そっちに行っちゃ駄目だよ。こっちに来るんだよ」