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僕、負けたくない

 馬上試合のトーナメント表を何回見ても、僕の初戦がカシェなのは変わらない。

 アニエラと結婚するんだと王宮中に言いふらして、勝っても負けても公開プロポーズするんだと言いふらしてる馬鹿に負けたくない。


 僕は執務が終わったあと、リュミエールと馬上試合の練習を始めたけど、何回戦っても勝てない。


 僕は彼の心が視えているのに勝てない。


 なんでだよ。


 兜を脱いだ僕たちは疲れて、地面に座っていた。


 リュミエールが、

「私は陛下のように心を読むことはできませんが、あなたの気持ちがわかります」

「え?」

「あなたが私に勝てないのは、国宝級にどんくさいからです」


 自覚はある。でも、ハッキリと言われたくない。


「でも、僕、カシェみたいなのに負けたくない」

「諦めなさい」


 リュミエールの心の中は僕への心配で渦巻いている。

『あなたが怪我してしまったらどうするんですか。心配させないでください」


「じゃあさ、少しはさ、」

「見せ場作ってから負けることも不可能です。最初から最後まで完膚なきまでにぼろ負けです」


『ですから、無茶するなっつーの。アニエラだって心配するに決まってるだろ、このタコ』


 僕はリュミエールの言葉にショックを受けたし、アニエラが僕を心配してくれるならすごく嬉しいんだけど。


 彼は意に介さず、

「あなたの取り柄は金と権力です。試合とは関係のない場所で、金と権力で思いっきり殴り倒して気持ちよくなってください」

「嫌だよ、僕、そんな嫌な人間じゃないよ」

 彼女は試合当日に、競技会場に来ることはできないけれど、王である僕の勝敗は必ず耳に届く。


「じゃあ、カシェに負けてくださいと頭を下げて、賄賂を渡しましょう」

「嫌だ。せめてかっこよく負けたい」

「無理です」


『怪我するくらいなら、金を渡したほうが絶対いい』


 悔しい……。


 夕方の鐘が鳴った。

「そろそろ夕食のお時間ですね。戻りましょう」


『当日まで、少しでも練習をして、少しでもチビが怪我をしないように、立ち回れますように』


 僕は彼の後ろをついて歩いた。

 僕はもう子どもじゃないよ。練習したら、ちゃんとかっこよく負けることくらいできるよ。


 僕は夕食後、湯を浴びた。

 いつも通り、アニエラが優しく僕の頭を洗って、背中を流してくれる。


 前は入浴のための従者とか身支度を手伝う従者もいたんだけれど、僕は人の心が視えるから彼等がとても煩わしかった。


 元々、従者の数は抑えていたけれど、今ではアニエラにほとんどの身の回りの世話をしてもらっている。

 一応、彼女が仕事ができなくなった時のために、最低限の従者は残しているけれど。


 最初は女なのにいいかなと思ったけれど、奴隷だからか性別のことは誰も何も言わなかった。


 ただ、王の世話をするには奴隷では身分が低すぎるのでは? という意見が出ただけだった。


 日本にいた頃、百人以上の男と交わってきたきららちゃんは僕の裸を見ても何も言わないし、思うこともなく、淡々と仕事をするだけだ。


 彼女は僕のを見ても大きいとも小さいとも思わない。見てないのか思う必要もないくらいの大きさなのかわからないけれど、時々、気になってしまう。

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