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お肉を焼くよ

 まーちゃんへ


 私は夜明け前にリュミエール様に起こされた。

「アニエラ。今すぐ着替えて準備しなさい」

「はい」


 私は言われるままに、身支度を整えて、急いでリュミエール様の後をついて歩くと、でかい肉が鎮座している厨房へと着いた。料理人もいる。


 リュミエール様は真剣な表情で言った。

「アニエラ。でかい肉を焼くというのは、ある意味、真剣勝負です」

「わかりました」


 料理人が呆れながら、

「リュミエールさん。アニエラが真に受けてるじゃないですか。いいかい、この人はでかい肉を焼くことに異常な執着があるんだよ。真に受けちゃいけないよ」

「はい」

「真に受けなさい」


 リュミエール様は大きな石窯を指差し、

「これで焼くのですよ」

「はあ」


 料理人が器用に、薪を焚べて、魔法で火をつけた。

「薪や炎の魔法や魔法石を使って、火加減を調節しながら、焼き上げるんだぞ」

 石窯の中に赤い炎が上がる。うわー。


 お肉は料理人とリュミエール様の二人がかりで、串が打たれて、石窯の中に入れられた。


「これから、焦げないように、火加減を調整したり、肉を回転させたりしながら、十時間ほど焼き上げるんだ」


 十時間も!


 リュミエール様が、

「今日のお前は肉の見張り係です。王の身支度など必要最低限の仕事を終えたら、肉を見張っていなさい」

「はい」


 それから、料理人に、

「時々、来るので決して肉焼きを失敗しないように」

「わかってますよ。あんた、このでかい肉を焼くことに命かけてるし」

「年に一度の楽しみですからね」


 料理人の一人が肉の面倒をしっかりと見ながら、違う人たちが王の朝食や私たちの朝食を作り出す。


 私も暇だったから、使用人たちの朝食作りを手伝った。

 鍋に、粉にする前の小麦、豆、塩、水を入れて、クツクツ煮るだけ。いわゆるおかゆ。


 朝の鐘が鳴ったら、王の元に行って、王の身支度の手伝いをする。


 で、朝ごはんを食べ終わったら、私は肉の見張り係に戻ったよ。

 料理人に指示されて、薪を焚べたりする。


 しばらくすると、オリヴィエ王がやって来た。

 料理人が、

「どうなさったんですか? 陛下が来る場所ではありませんよ」

「今日、仕事が休みだから、僕も、アニエラと一緒に肉の見張りをしようと思ってね」

「そうでしたか。しかし……」

「気にしないでいい」


 オリヴィエ王が来たので、私は、

「椅子を取ってきます」

「それなら、自分が」

 そう言って、若い見習いの料理人が出ていった。


 肉を見つめるだけっていうのは、単調な時間が続くわけだから、オリヴィエ王はやっぱりすぐに飽きた。でも、頑張っているんだな。可愛いよね。


 それで、いつも通り、私の心の中を覗いてるんだな。


 私も飽きてるけど、私は厨房の鍋や器を手に取って見つめている。

 んー。やっぱりカシェの力を借りなきゃ駄目かな。


 オリヴィエ王が、

「アニエラ! どうして鍋や器を触ってるんだい? 何か気になる魔法的なものでもあるのかい」

 料理人がいるから、私の心の声に直接答えることなく、一応、言葉を発する。


 心が視える彼にとっては二度手間だし、私にとっても言葉を発しないといけないから面倒くさい。


 でも、私も口に出して答える。

「最近、気づいたんです。私が発動前の魔法を跳ね返す時、道具によって若干ですが、跳ね返しやすさが違うということに。本当にそうなのか検証をするためにカシェ様の力を借りたいと思ったのです」


「そうか」

 オリヴィエ王は厨房を見回した。

「陛下。ここでは皆さんが真面目にお仕事されているので、カシェ様みたいにサボるような人はいません。遠隔で発動する魔法を使える方でなければ」

「そうだね。じゃあ、リュミエールを呼ぼう。誰か呼んできてよ」

 見習い料理人がリュミエール様を呼びにいく。


 呼ばれたリュミエール様が、

「初歩の伝達魔法くらいで試しますか」

 そう言って、彼は伝達魔法を発動させた。


 これは、ケータイがないのに、メールを送れるみたいな魔法だよ。相手に届いた時に、メッセージが文字として浮かび上がったり、音声として再生される。


 厨房で肉を焼く片手間に、私は色々な道具を使って、魔法を跳ね返していく。


 誤差の範囲内って感じ。

 そういえば、昔の日本だと鏡が悪いものを跳ね返すっていう意味を持ってたんだよね。西洋だと鏡は真実を映すなんだだけど。こっちの世界だとどうなんだろ。


 私の心を視ているオリヴィエ王が、すぐに、

「鏡はどうなんだろう。誰か持ってきてよ」


 私は手鏡を受け取った。

 そして、魔法を跳ね返した。


 なんか、今までとは手応えが違う。

 ハッキリとした、確かさがある。


「鏡が一番、魔法を跳ね返す力が強いです」

 私が告げると、オリヴィエ王が、

「リュミエール。アニエラ専用の魔法を跳ね返すための丁度いい鏡をこさえてやってよ」

「かしこまりました」


 お肉も焼き上がり、私のお皿の上にも大きなお肉を乗せてもらえた。

 オリヴィエ王が、

「皆で一緒に食べよう」

 そう言ってくれたから、皆で仲良く食べたよ。


 肉うまー。固いし、日本で食べたものよりも全然ジューシーでもないんだけどさ、なんか肉の味が広がっていい感じだよ。

 肉ってこんなおいしいんだー。


 前世の日本で散々食べてたけどさ、こっちに生まれてから、食べることなんてなかったからさ。


 皆で美味しく食べ終わった後、馬上試合のトーナメント表が届いた。

 オリヴィエ王の一戦目はカシェだった。


 彼の顔色が変わった。

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