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さみしい

 まーちゃんへ


 数日前まではリュシル様が毎日来ていたけれど、最近は来ていない。カシェも同様だ。


 なぜか知らないけれど、私は体から力が抜けて、窓の外をぼんやりと見ていた。

 なんだろう、この気持ちは。


 心の中がちょっと穴が空いたみたい。


 ねえ、まーちゃん、この穴は一体なんだろう。


 私は手足を投げ出すように床に座って、窓の外をぼんやりと見つめた。


 なんだか、空がいつもより高く見える。


 そして、ふと言葉が出ていた。


「さみしい」


 !


 おかしいな、私はいつもまーちゃんと一緒だから、寂しくなんかないはずなのに。


「秋だからですね」


 そう声をかけたのは、いつの間にか部屋に入ってきたリュミエール様だった。


「秋だから……」

「それと、リュシル様やカシェが来なくなったからというのもあるでしょう。最近は騒がしかったですから」


 彼は淡々と、

「それにしても、お前もそのような感情を持てるようになったのですね」

「はあ」


 なんか切ないから、あまり必要ない感情だな。


「来なさい。散歩でもして何かうまい物でも食べれば、そういう感情は消えます」

「うまい物?」


 リュミエール様は城の入口へと私を連れてきた。

 入口にはたくさんの人と物があって、まるで洪水のよう。食べ物とか布とか毛皮とか本当に色々ある。


「秋になったので、各地から様々な貢物や税が運びこまれているのですよ。決して、私やお前のものではありませんが、見るだけでも圧巻でしょう」

 私は頷いた。

 スーパーマーケットみたいに物が大量にあるんだもん。


「さすがに、これだけの食べ物があれば、私たちの口にも少しだけですが入ります。行きますよ」


 道中で、多くの人たちと共に城内を歩くリュシル様と出会った。

 私たちは挨拶をし、いつもの王の居住区画へと向かう。


 リュミエール様が、

「リュシル様のもとに最近、小説の執筆を嗜まれる貴族たちが多く出入りするようになりました。お前はリュシル様に執筆の技術を教えたでしょう」

「教えたほどではないですが」

「ともかく、多くの貴族はお前に直接指導を受けられないから、お前の指導を受けたリュシル様に指導を受けたいと足を運ぶようです」

「そうですか」


 良かったじゃんか。

 それから、セリーヌ様にも出会った。この人も王妃なだけあって、沢山の人に囲まれている。


 リュミエール様が、

「セリーヌ様は最近、多くの文人を支援したり、雇ったりしているのです」

「文人」

「お前のような物書きのことです。彼らにセリーヌ様を称賛する物語を書かせているようです」

 へー。


 それから、

「ついでに、痴れ者の近況についても教えましょう。カシェは馬上試合でお前に公開プロポーズをすると城内に言いふらしていて、ろうそく片手に馬上試合の練習をしています」

「そうですか」

 リュミエール様はため息をついてから、

「馬鹿には困ったものですね。王もカシェのせいで心乱されているのですよ」


 それから、私を見て、

「そういうわけで、これから、でかい肉に塩とスパイスを揉み込みます。お前の気晴らしにもなるだろうから、特別にやらせてやります」


「でかい肉?」

「数時間漬け込まないといけないので、食べることができるのは明日です」

「はい」

「私たちは使用人と奴隷なので、腹一杯になるまで肉は食べられませんけどね」

「わかりました。あの、王にも知らせたほうがいいと思います」


 リュミエール様がじっと私を見て、

「ヤツのことを忘れていましたよ。そうでしょうね。お前が肉に塩を揉みこむだけだっていうのに、絶対、あとでなんで呼ばないのさとぶーたれるでしょうね」


 オリヴィエ王は仕事の中断をしてまで、本当にやって来てやんの。

 厨房に王様は似合わないなぁ。


 厨房に用意された肉は、皮はついてないけど、ご生前の姿を想像できる感じ。つまり、スーパーで売られているようなカット肉じゃないの。


 料理人が、

「これは仔牛の肉です」

「アニエラ。これが塩と胡椒やハーブと呼ばれるものです」

「葉っぱと……粒」


 嘘? 胡椒ってさ、普通、粉じゃん。パッパって入れるやつ。

 なんか、丸いけど。え? うんこ?

 でも、匂いを嗅ぐと胡椒だ。

 えー?


 やっぱり異世界なだけあって、胡椒も地球とは違うんだ。


 オリヴィエ王が私の様子を見て、笑いをこらえている。

「陛下。アニエラは胡椒を初めてみたんですよ。馬鹿にしないでください」

「だって……」


 オリヴィエ王は密かに魔眼の力を発動した。精神世界と現実世界の境界のような曖昧な世界が出現した。現実世界の音はくぐもって聞こえ、現実世界の風景はレイヤー加工されたように少しだけぼやけた。


 ここでの会話も二人以外には聞こえない。


 彼は笑いながら、

「あのさ、地球だって胡椒は黒い粒だと思うよ。それをさ、すりつぶして粉にしてるんだよ」

「えー、嘘だー。地球の胡椒は砂漠みたいな所に落ちてるのを、職人がザルで拾ってるんだと思ってた」


 私の言葉に、彼は苦笑いしながら、

「どういう理屈なのさ」

「とにかく、現実世界に戻してよ。現実と精神世界の二つを同時にやり取りするの大変だからさ」

「わかった。ごめんごめん。僕、我慢できなかったんだ」


 それから、乳鉢って呼ばれる道具で、ゴリゴリって胡椒を潰して、大量の塩と胡椒とハーブを揉みこんだ。


「アハハ」

 気づけば声を上げていた。この感情はなんだろう?

 オリヴィエ王は楽しそうに笑っている。


「楽しいですね、アニエラ」

 リュミエール様が目を細めながら言った。 

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