最近の入口はカオスです
まーちゃんへ
私はやっぱりリュミエール様に言うことにしたよ。
「ここ最近、王国内で発動されている怪しい魔法の詳細はわからないのですが、王には今お持ちになっている物よりも強力な護符をお持ちいただくのが妥当だと思います」
「詳細がわからないのに、なぜそう思ったのですか?」
リュミエール様は途端に厳しい表情になった。
私は頷いてから、
「この魔法の使い手はとてもレベルが高いです。隠密性の高い魔法を発動し、遠距離からでも正確に相手に届けることができます。おそらく結界を貫通するほどの魔法も使えるでしょう。そして、どの魔法であっても、明確な悪意と憎悪を持って発動されています」
「王にその魔法が向けられたら危険だと思ったのですか?」
「はい。なんだか嫌な予感がしましたから」
リュミエール様は困ったように、
「困りましたね。今の護符だって、とても効果が高いのですよ。それ以上の護符を作れる魔術師が国内にいるとは……」
「?」
「ん? 心当たりがあるのですか?」
私は指を指し、
「あちらの方角、えっと、王都の外に、腕のいい護符を作る魔術師がいます。その方ならば」
「王都の外……。それは魔術師ではないでしょう。おそらく、どこかの村に住んでいる薬草魔女やシャーマンです」
「薬草魔女?」
「農民たちにとっての医者兼呪い師です。探させてみましょう」
護符さえ手に入れば、もし万が一、オリヴィエ王に遠隔から危害を加えようとする魔法が発動されても、防いでくれるよ。
私は安心して、部屋に戻ろうとした。
したんだけど、案の定、区画の入口に呼ばれてしまった。
そこには、リュシル様とその侍女と、カシェがいた。
リュシル様はもう椅子は持参していない。
なんでかというと、オリヴィエ王が厚意で、リュシル様が来た時だけ椅子を出すように兵士に命令したから。
今、区画の入口ではリュシル様自作の小説の朗読会とカシェによる魔法感知の訓練が行われている。
リュシル様が笑顔で、
「アニエラ。どうだった?」
いいんじゃないですか?
顔に似合わず、ミステリー小説書き始めたんだ。
カシェも、
「師匠! 僕の魔法感知どうですかね?」
知らねー。
あんたがどう魔法を感じてるかなんて知らないよ。
王の居住区画の入口はこんな感じで毎日がカオスな状態になってるんだよ。
ひどすぎるでしょ。
カシェがリュシル様に、
「ちょっと黙ってもらっていいですか。僕、師匠に言いたいことがあるんで」
「あなたのほうこそ、お黙りなさいよ。あなたなんて、そのろうそくをじっと見つめていればいいだけじゃないの」
「それだけじゃないんですよ」
カシェは懐から、サイズ違いの指輪を何個も取り出してから、
「師匠! 指輪を作ってきました」
「そうですか」
「僕との結婚指輪です! 早速、はめてください」
「断ります」
なんで、指輪作ってきたの?
「なんでですか! 偉大なる魔術師と偉大なる魔法感知能力者という最強夫婦なれるんですよ。カッコいいじゃないですか! それで、カリシュタに復讐しましょう!」
「ど、どうして復讐しないといけないんですか?」
私の困惑に対して、カシェは無邪気な笑顔を崩さないまま、
「僕もカリシュタの使者が来た時に謁見の間にいてでですね。師匠の過酷な人生を垣間見たんです。これは復讐するしかないって思いました!」
「復讐なんて望んでません」
「えー。国一つを建国できるチャンスですよ。滅多にないですよ」
今だってそんなチャンスはないってーの。
リュシル様も、
「私もその話は聞いたわ! 魔法の的になっていたり、足場になってたりって本当なの?」
「ええ。事実です」
「なら、やっぱり復讐よ! 国一つを作れるチャンスでもあるんでしょ」
作ったら駄目だよ。
二人して意気投合しちゃってるよ。立場を弁えたほうがいいよ。
カシェが、
「師匠。近い内に馬上試合があります! 僕、そこで、皆の前で師匠に向かって、正式にプロポーズしますね! 近い内にウエディングドレス作ってもらいに行きましょう」
「結構です。結婚しません」
「嫌よ、嫌よも好きのうちってやつですよね!」
「アニエラったら、奥手ね」
あんたたち、どんだけ前向きなの?
二人が戻った後、区画の入口は先程までの騒がしさとは打って変わって静まり返った。
すべてを見ていた兵士が私に言った。
「アニエラ殿も災難ですね」
「とんでもございません」
奴隷だから、口ではそう言うけど、本当に、マジでそうだよ。




