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カリシュタの使者と出会った〜


 謁見の間に着くと、そこには多くの貴族たちが並び、一番奥の玉座にオリヴィエ王。そして、王の前にいるのがカリシュタの使者である中年男性だ。


 男は私に向かってにこやかに、親しげに、

「おぉ、アニエラ久しぶりではないか! 見違えたな」


 え? だ、誰? し、知らないんだけど。


 私は咄嗟にリュミエール様の後ろに隠れた。


 オリヴィエ王が、

「怯えているではないか。カリシュタでよほどひどい目にあったのではないか? リュミエール、アニエラを連れてこちらへ」

「は。行きますよ、アニエラ」

「はい」


 私とリュミエール様はオリヴィエ王の横に立った。


 使者は改めて、

「ヴァレンヌの王よ。改めて言います。カリシュタはアニエラを売ってはいません。今すぐ返還してください」

「正式な契約書がある」


 オリヴィエ王の秘書の人が契約書を見せた。


「そのような契約書は無効です。アニエラは不当に連れ去られたのです」


 さすがに、多少馬鹿な私でも相手の意図はよくわかる。


 オリヴィエ王からもらった私の代金は返したくないし、私を正当な価格で買い戻したくないし、でも、私という奴隷は欲しい。


 クレーマーの中でもかなり悪質な方じゃん。うわ、最悪。


 使者は貴族たちに向かって、

「アニエラは幼い頃に我が国の賓客として招かれ、長い間、カリシュタの王宮にて大切に育てられてきました。王女や王子の大切で大事な心を許せる友として育ってきたのです。王女や王子も貴国らの王に不当に誘拐されたアニエラに会いたいと涙をこぼす日々を送っています」


 オリヴィエ王の顔が怒りで真っ赤になって、使者を睨みつけた。

「これが、王女や王子の大切で大事な心を許せる友への扱いだというのか!」


 そう叫んで、魔眼の力が発動して、精神世界の中に私以外の人間を引き込んだ。


 私は魔力感知を最大限に発揮して、何を再現しているのか探る。

 おぼろげながら、オリヴィエ王は自分の記憶を再現し、見せているのがわかった。


 話の流れからすると、オリヴィエ王とカリシュタの王子や王女と私が一緒にいた記憶……かな?


 えっと、確かカリシュタで私が王子が放つ炎の魔法の的になっていた時にオリヴィエ王がやって来たし。

 他には、オリヴィエ王やカリシュタの王族が馬で散歩に行こうって話になって、その時に、私が王女の馬に乗る時の足場代わりになった。


 私はその時のことを思い出して、思わずプッと笑っていた。

 なんかさ、自分のことじゃないんだよね。


 えっと、私はきららでしょ。だから、アニエラじゃないから。うん? 違うな。

 よくわからないし、説明も難しいんだけど、なんかアニエラの私って、他人なんだよね。うん、別人。


 アニエラとして行動してるんだけど、遠くでアニエラを常に眺めてる感じがしてる。


 だから、カリシュタでの思い出も、アニエラさんの記憶みたいな感じで、長くなってごめん。自分でもよくわかんないや。


 魔眼の発動が終わると、場が騒然となって、貴族たちがざわついた。


 オリヴィエ王は毅然と、

「貴国では友人を魔法の的にしたり、足場にするようであるな。我々はルーンブルクの元王女を購入という形で劣悪な環境から保護したのだ。貴国がなんと言おうと、アニエラを戻すつもりは断じてない」


 秘書は改めて、売買契約書を使者に見せた。


 使者は食い下がらずに、

「アニエラ! お前もカリシュタに戻りたいだろう! 王はお前がカリシュタに戻れば、爵位を与え、貴族にし、王宮での相応の暮らしを保証すると仰せだぞ。奴隷から解放されるのだぞ。きれいなドレスを着て、美しい宝石を身にまとえるのだぞ」


 カリシュタの王宮で、命令に逆らえないまま働かされるのと、ヴァレンヌで奴隷として命令に逆らえないまま働かされる。どっちか選べってこと?


 今更、私の言質をとったところで、ああ、王女は帰還を望んでいると言わせれば、戦争の口実にもできるんだ。


 私を口実に? 私だけを戦争の理由にするには弱いよ。じゃあ、ヴァレンヌの何かを狙ってる?


 さすがに、馬鹿な私でもわかるよ。


 オリヴィエ王が、

「リュミエール。下がれ」


「は。行きますよ、アニエラ」

 私は何も言わずに、歩き出した。

 私の何気ない一言が、カリシュタのつけこむ口実になってしまう。


 使者の横を通り過ぎた時、使者は私の服の裾を掴んだけれど、すぐに兵士に取り押さえられた。


 我慢ならなかったので、私は立ち止まり、多少、大きな声で言った。

「私はいつまでもオリヴィエ王にお仕えいたします」


 周囲の貴族たちから拍手が起こった。


 これなら、カリシュタもつけこめないんじゃないかな。


 カリシュタで使い潰されるより、友達の役に立ったほうが私的には最高なんだよ。

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