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僕は悪くない(オリヴィエ視点)

 僕はセリーヌの寝室で相変わらず彼女を抱いている。

 もう僕がいくら頑張っても彼女は妊娠しない。


 彼女はそれでも僕の子どもを生む可能性にすがっているわけじゃない。

 僕への怒りと恨みと憎しみの感情だけだ。


『一分一秒でもこの部屋に留まらせたい。自分だけ幸せになるなんて許せない』


 彼女が僕を長く部屋に留まらせるには、僕と寝るしかない。


 行為が終わった後、セリーヌが言った。


「あなた、アニエラが好きなんでしょ」

「そんなことはないよ」

「あなたの態度から、アニエラが好きだって宮廷の皆にバレていますわよ」

「彼女は奴隷だよ。奴隷を好きになるわけないだろ」


 僕は平然とにこやかに嘘をつく。


 セリーヌは、僕が僕の寝室に戻ることを嫌がっているんだ。

 寝室の隅にある小さなベッドでアニエラが寝起きしているから。


 寝室に戻れば、僕の幸せな時間が待っている。それが本当に、彼女には許せないんだ。


 僕は彼女が欲している子どもを授けることはできないとハッキリと告げた。その上で、再婚も勧めた。


 でも、彼女は王妃として、子どもが欲しいと熱望し、それが叶わないと知ると、僕への憎悪に身を焦がしてしまった。


 なぜ、君は自分から幸せになる道を断って、君の望むものを与えることができない僕に執着しているんだろう。


 僕だって自分の血を継いだ子どもは欲しいさ。

 本当に、本当に、本当に、心の底から欲しい。


 でも、僕は子どもを授かることはできないし、子どもを産めない体のアニエラが好きだ。


 僕は王だから、将来を考えたら、養子を得ることもできない。

 君よりも選択肢は狭いんだよ。それにいい加減気づいてくれよ。


 それを口に言っても君には届かないだろうけどさ。

 

 朝になって、セリーヌの部屋を出た後にリュミエールの部屋に行った。

 彼は大きなあくびをして、ベッドから起き上がって、面倒くさそうに、

「なんなんですか、朝っぱらから。この時間に用があるなら、アニエラにでも言ってください。どうせ腹空いたみたいなくだんないことでしょうから」

「違うよ」


 僕は彼の記憶が否が応でも視えてしまう。

 でも、僕は思わず尋ねていた。


「僕が、アニエラのことが好きだって、皆に言いふらした?」


 リュミエールは大爆笑した。

 腹を抱えて笑っている。


 こっちは真剣なんだぞ!


「陛下! 私の記憶視たらいいじゃないですか」

「うん。見た。言いふらしてなかった」

「アハハハハハ」


 すっごく馬鹿にしてる笑われ方してる。


「僕は真剣なんだよ! 皆、僕みたいに僕の心を視えるようになったのかな?」

「そんな力必要ないくらに露骨すぎるんですよ! 誰が見たってわかりますよ!」


 リュミエールの笑いは収まらない。


 僕は不思議に思って尋ねた。


「なんで、そんなに面白がれるの?」

「だって、面白いじゃないですか。陛下が馬鹿みたいで」

「馬鹿じゃないよ」


 リュミエールは笑いながら、

「男と話しただけで、露骨に顔をしかめたり、常に視界で追ってたりしてたら、誰だって好きだってわかりますってば」

「僕、そんなことしてない」

「無意識にしてるんですよ」


 本当に、気づいていなんだけどな。


 それで、リュミエールは、

「メイドがアニエラに探りを入れたみたいですよ」

「知ってる。僕と寝たかって質問でしょ。僕、部屋に戻ったら、暇な時は大抵彼女の記憶視てるから」


 リュミエールは口を閉ざした。

 どうしたんだろう。

 僕は言葉を続ける。


「僕、アニエラに添い寝したことすらないよ。だって、彼女が言うんだ、既婚者は嫌だって」

「既婚者関係なく、普通は、暇な時に記憶視てくる男は嫌がるもんですよ」


「え? そうなの?」

「それが普通ですよ。普通の奴隷や召使いが、陛下は力をコントロールできずに、常に人の記憶や心を視ていると知ったら、ノイローゼになったり恐怖で仕事になりませんよ。最悪、発狂しますよ」


 発狂って。酷くないかな。僕、悪気があるわけじゃないし。


「だから、君とアニエラ以外には僕は力がコントロールできないって知られてないよ。君もノイローゼなの?」

「私はあなたが生まれた時から、母と共にずっとあなたに仕えてきました。そのため、現状、それ以外の生き方はするつもりがないので慣れましたし、あなたに視られるくらい平気です」


「そうか。アニエラはさ、僕がアニエラの全部の気持ちや記憶視ないと気が済まないのを可愛いって言ってくれてる」

「うわ、気持ちわるっ」

「ア、アニエラのことを悪く言うな」

「私が悪く言ったのはあなたですよ」

「え?」


 リュミエールは呆れながら、

「全部の気持ちや記憶視ないと気が済まないって気持ち悪すぎますよ。反省してください」

「アニエラは可愛いって言ってくれてるのに?」


 僕は呆然となった。

 リュミエールはため息をついて、

「普通、そんな行為を可愛いって言いませんよ」

「でも、アニエラは言うよ。しょうがないな、本当に執着心と嫉妬の権化なんだからって」

「良かったですね、アニエラの心が広くて。良かったですね、アニエラが普通のに人間じゃなくて」


 良かったですねをそんなに強調しなくても。

 でも、確かに彼女は普通の人間じゃない。


「う、うん。たしかに、アニエラは魔法感知能力がずば抜けてるし」

「そういう意味じゃないですよ。本当に、反省したほうがいいですよ」

「何を?」

「全部」

「え?」

「ですから、生まれてきたあたりから、今までの人生の全部を反省してください」


 僕が、何を反省するべきなのか戸惑っていると、扉がノックされた。


 アニエラの声で、

「リュミエール様。どうかなさったのですか? 陛下もお部屋にお戻りになりません」


「大分、無駄話してしまいましたね。陛下のせいですよ」

 リュミエールは舌打ちしてから、僕に吐き捨てるように言いやがった。


 それから、リュミエールは扉を開け、

「アニエラ。大丈夫ですよ。陛下は私の部屋にいて、話しこんだだけです。着替えたら、すぐ行きますよ」

「わかりました。陛下もお召替えの時間です」

「あ、すぐ行くよ」


 僕はアニエラの後ろをついて歩く。

 僕は周囲に人がいないのを確認してから、我慢できずに尋ねた。

「あのさ、きららちゃん、僕、何か反省しなきゃいけないことあるのかな。きららちゃんが嫌がること何かした?」


 アニエラも周囲に人がいないのを確認してから、きららちゃんらしいニッカリとした笑顔で、

「なんもないけど? 大丈夫だよ」

 それからすぐに、いつもの無表情なアニエラに戻って言った。

「陛下。まいりましょう」


 良かった。


 彼女の心の中を覗いても、

『何か、私のことでリュミエール様に言われたのかな。困ったな。失礼なことをしてるのは私のほうなんだけどな。オリくん嫌がってたら困るから、反省しないとなー。でも、きららに戻るとはっちゃけちゃうし、困ったオリくんが可愛く見えちゃうんだもん」


 僕、そういうはっちゃける君が好きだよ。君に嫌がることされたことないよ。


 ほら、リュミエール。

 僕全然悪くないじゃんか!

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