ワイマール侯爵のお屋敷
マナー違反な馬車から勢いよく降りてきたのは、王弟の離宮に乱入してきた侯爵だ。
彼は威勢のいい、傲慢さを感じさせる声で叫んだ。
「そこの女奴隷!」
わっ、こんなところで会うなんて思わなかった。
リュミエール様がさっと私の前に立った。
「これはワイマール侯爵閣下。お目にかかれて光栄です」
ワイマール侯爵閣下は聞いていなくて、ただひたすらに突進してくるのを、護衛の兵士に遮られた。
「邪魔だぞ、貴様ら!」
リュミエールが、
「閣下、いかがされたのですか?」
「そこの奴隷に我が屋敷に来て、悪しき魔法を感知してもらうぞ!」
「閣下。それならば、王の許可をお取りください!」
「あんな、若造の許可などいるか!」
若造でも王だよ。
侯爵は街の人に向かって、
「皆のもの、よく聞け! 王は敵国だったルーンブルクの元王女を奴隷として囲っているんだぞ!」
「わかりました! 行きましょう!」
タジタジの様子で、リュミエール様は兵士の一人に命じて、城へと知らせに行くようにと言った。
兵士の人は走って、城へと向かう。
私たちは侯爵の馬車に乗りこんだ。
侯爵は馬車の中で、ワイマール家の歴史やいかに自分がすごい人間かをとうとうと語った。
完全に自分に酔ってる人だ。
お酒を飲んで自分語りする人いるじゃん。
この人、シラフでこれだよ。
お酒入ったらどうなるんだろ。
屋敷に着くと、変なオブジェがところ狭しと並んでる。
黒光りしてたり、赤い布をぐるぐる巻きにされた仮面とか。
「この置物は魔除けでとても高かったのだ。だが、我が領地には鉱山があり、いくらでも買えるのだ」
……良かったね。
あの……オブジェの一部がち◯こにしか見えないけど。
エッチな店かラブホみたいな家になってんじゃん。
私たちを出迎えた使用人の人の顔はすごく暗い。
「我輩は素晴らしい人間だと言うのに、妻たちはことごとく実家に戻ったり修道院に入ったりするばかりだ!」
私たちは黙って話を聞いている。
侯爵はさらに続けた。
「領主になってからも取引を打ち切る商会は後を絶たず。五人目の妻も最近実家に戻り、使用人の多くは去った。これは全て悪しき魔法の影響に違いない」
そうかな。
侯爵は私に詰め寄るように、
「しっかりと悪しき魔法を感知するのだぞ!」
「は、はい……」
感知してみましたよ。
私は屋敷中に意識を集中し、屋敷中を歩き回る。
始終、侯爵の家宰さんがリュミエール様に謝罪してるよ。この人はまともなんだな。
私は侯爵に言いづらそうに、
「本当に、悪しき魔法は何もないのです」
「ふざけるな! そうか! 我輩の領地だな! そこにあるのだな! 女奴隷よ、すぐに我が領地に!」
「閣下。たとえ、閣下といえども、陛下はそれだけは何があっても許しません!」
リュミエール様は強い口調で言って、続けた。
「こちらで、アニエラと同等とまではいえませんが、魔法感知能力のある腕のいい魔術師を手配し、派遣いたします」
リュミエール様と侯爵が押し問答を繰り返していると、城からの迎えがやって来た。
私たちは逃げるように屋敷を出て、無事に城へと戻ることができた。
帰る時の侯爵の悔しそうな顔が忘れられない。




