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37話私、先生になる

 まーちゃんへ


 昨日、宮廷魔術師の人に追いかけられたからか疲れがまだ残ってる気がする。

 あれから、部屋に戻った後、私はリュミエール様に部屋から出ないようにってキツく言われたんだよね。


 そういうわけで、お部屋警備員になっちゃてるよ。


 そんなことより、オリヴィエ王は朝からとっても不機嫌でさ。実は執務から戻ってきてからなんだよ。


 まあ、午後にも嫌なことが色々あったんだろうね。


 オリヴィエ王は私に向かって、

「あった」


 そっか。


 オリヴィエ王は朝の身支度を終えると、朝ご飯を食べるために、奥さんの所に行ったよ。


 リュミエール様が、

「アニエラ。お前に新しい仕事があります。行きますよ」

「はい」


 私もやっと部屋から出ることができるみたいだよ。


 王の居住区画の入口には、昨日の宮廷魔術師の人が太陽みたいな笑顔で立っていた。


「お師匠様! おはようございます! 自分はカシェといいます! 将来、偉大な魔術師になるすごい魔術師です」


 私はゾッとした。

 え?

 ストーカー?


 いや、私は奴隷だ。とにかく、挨拶を返さなければ。


 私が頭を下げようとしたら、リュミエール様に頭を抑えられた。

「アニエラ。あいつと口を利いてはいけません。馬鹿になりますよ」


 カシェは、私が挨拶しないことも、結構酷いことを言われていることも気にする様子もなく、

「王にこき使われすぎて、非常にお疲れだと伺いました。だから、自分特性滋養強壮ドリンクを作ったので、どうぞ飲んでください」


 リュミエール様が差し出されたドリンクを取って、窓の外に投げた。

「アニエラが疲れたのはお前のせいです。二度と持ってくんな」

「酷いなー! 偉い人はすぐ自分たちのことを棚に上げるんだから」


 お前もだろ。


 リュミエール様は歩きながら、

「アニエラ。昨日、あれから宮廷魔術師たちの一部が、お前の優れた感知能力を自分たちも身につけたい。だから、お前に教授してくれと喚いたのです」


「喚いていませんよ。捏造と歪曲が酷い人だな」

 カシェは唇を尖らせながら言った。


「王は最初は拒否しました。しかし、宮廷魔術師団の強化に繋がるからと説得され、応じざるを得なかったのです。わかりましたか?」


「はい」


 困った。

 教えられるようなものなんてないんだけど。


 いつの間にか護衛の兵士も一人ついてきてる。


 リュミエール様が護衛の兵士に、

「アニエラを頼みましたよ。痴れ者を近づけさせないように」

 そう伝えると、どこかに行っちゃった。


 この兵士はいつも私が出かける時に護衛をしてくれる人だ。


 私は宮廷魔術師団の区画に入って、会議室のような場所に通された。宮廷魔術師団の区画だけあって、魔法を帯びた物品の気配がとっても多いね。

 中には様々な年齢の魔術師たちがたくさん座っている。全員、同じ浅葱色の制服を着ていた。


 宮廷魔術師団長から、改めて、リュミエール様に言われたことと同じことを言われた。


 私は正直に言うことにした。

「私のこの力は生まれつきなので、どのように教えるべきか全くわかりません。ご期待に添えることができず申し訳ありません」


 カシェが、

「コツとか普段、お師匠様が魔法を感知する時に気をつけていることはなんですか?」


「コツはただ魔法と一緒に魔力を感じることです。気をつけているのは、その魔法の本質や使われた目的や意図も感じたり考えること」


「その魔法の本質や目的ですか」


「魔力は私たちの肉体を始め世界のあらゆる場所に、目に見えない形で存在しています。魔法によって様々に変化をします。私はそれを眺めるように感じているだけです」


「では、魔法の本質とはなんですか?」


「魔法の本質とは、私は目的を果たすことだと思っています。どのような目的を果たすために、発動されたかを想像することです。そこまで意識すると、魔法に込められた悪意など感情もわかるようになります」


「悪意……」


「そうです。使い手の感情まで乗るのが魔法です」


「生まれつきそこまでできたんですか?」


「いいえ。魔法を感じていたらできるようになりました」


 カシェは目を輝かせて、

「魔法感知能力が高まったということは、自分も魔法を感知できるようになるかもしれないんですよね」


「それは知りません」


「普段、どのように訓練なさってるんですか?」


 カシェが近づいてきたので、すかさず護衛の兵士が間に割って入った。


「近づくな、痴れ者!」

「違いますよ。僕はお師匠様思いの心優しい上に、熱意と情熱溢れる弟子ですよ! 事実の捏造と湾曲をやめてもらっていいですか?」


 カシェは声を上げるが、宮廷魔術師長に座りなさいと命じられ、椅子に座った。


 普段の訓練法を聞かれたけれど、訓練なんてしていない。

 魔法を感じることができない人たちに、見えない魔法を感じろというのも酷なんじゃないかな。


「皆さんはきっと魔力を感じることはできると思います」


 私は部屋を見回した。

 カシェは立ち上がって、

「何かご入用ですか!?」


「魔法が込められたロウソクとか……」

「持ってきますよ!」


 カシェが持ってきたのは、カラフルな見た目のロウソク。

 これは火が点くと音楽が流れる魔法が発動するパーティ用のロウソクだね。


 私はロウソクを手にとって、

「このロウソクを集中して見続けるだけ。これが訓練法です。ロウソクに意識を集中し続けることで、ロウソクの魔力を感じ、その魔力に与えられた魔法を感じ、無意識に魔法に乗った使い手の感情も感じてください」


 カシェが各自にロウソクを配った。

 私は淡々と、

「私には、このロウソクに、どのような雰囲気の音楽が流れる魔法がかけられているのかまではわかります」


 会議室の中が騒然となった。

 私は続けた。


「皆さんはロウソクの魔力や魔法を感じることができるようになるまで、ロウソクを見つめ続けるといいと思います」


 本当に、それ以外に、訓練法がない。

 多分、ここにいる人たちの多くが、道具を見ただけで、何かの魔法をかけられているところまではわかると思う。


 ただ、私が特別視される理由は人よりも深く魔法を感知できる以外にも遠隔の魔法の発動まで感知できるから。

 このレベルになるにしたって、ただ、魔法を感じ続けただけだし。


 最初は手近なものしか感じることができなかったけど、いつの間にかちょっと遠い場所の魔法もわかるようになったんだよね。

 気がつけば、自分の知らない場所の魔法もわかるようになってただけ。


 私は、

「皆様に教えることはもうありません。部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」


「だったら、師匠! 町をご案内します! ヴァレンヌに来てから一度もセリニア城下を見たことがないでしょう。行きましょう」


 兵士がカシェの前に立ちふさがり、

「この奴隷が城から出ることは許されん! 特に、この奴隷の能力は宝物のように価値が高いのだぞ! わきまえよ!」

「師匠は宝石じゃないですよ! ちょっと町を見せてあげたっていいじゃないですか! 人間なんですよ! 師匠はそれでいいんですか?」


 そうか、私って人間だったんだ……。



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