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私とまーちゃんは最強なんだよ、気持ちだけは

 まーちゃんへ


 商人さんが持ってきたお人形遊びを終えた私はオリヴィエ王の命令で、一緒にソファに座っているよ。これって、畏れ多いことなんだよ。


 オリヴィエ王はお茶を、私は水を飲んでる。


 特に、言葉を交わすことはない。


 今の私の頭の中はまーちゃんとの思い出が駆け巡ってる。

 そして、オリヴィエ王はそんな私の頭の中をじっと視ているよ。日常茶飯事だから、平常運転だね。


 あのさ、まーちゃん。

 大変だったよね。


 私は今でもあの時の会話もまーちゃんのくしゃくしゃな泣き顔も鮮明に思い出せるよ。


『聞いてよ、きららん。彼氏さ、女とどっか行ったって言ったじゃん』

『うん。あれでしょ、まーちゃんの持ち金全部持って逃げたやつ。見つかった? 取り返しに行こう!』


 私は立ち上がったけれど、まーちゃんが不機嫌そうに、

『捕まってた』

『え? まーちゃんのお金盗んだから?』

『ううん。詐欺と暴行だって』

『えー。犯罪者みたいじゃん』


 まーちゃんはその場にしゃがみこみ泣きながら、

『よりによって、彼氏と逃げた女と一緒になってやったんだって』

『最悪』

『マジ最悪』


 まーちゃんにとって、この最悪なクズ男が人生始めての彼氏だったんだ。

 それから、ショックで毎日、大きなハンバーガーを3個くらい食べて五キロくらい太っていた。


 まーちゃんはそれにもショックを受けた。


 でも、それだけなら、まだ良かったと思うんだ。


 あの日の夜。

 一緒にアパートにいたら、まーちゃんの親や兄弟が来たでしょ。で、まーちゃんを無理やり家に連れて行こうとしたよね。


 まーちゃんの家族は罵詈雑言みたいなこと言っておきながら、力ずくで連れて行こうとしたじゃん。

 まーちゃんは自分を全否定されたショックで泣き叫んで、暴れて修羅場だったよね。


 私は怖くなって、ううん、正確には母親に殴られた幼い頃の記憶を思い出して、動けなくなっていた。


 まーちゃんはそんな怯える私を見て、馬鹿力を発揮して、家族を吹き飛ばして、私の右手を握って逃げてくれたの嬉しかったよ。


 逃げ出した私たちは叫ばれながら、追いかけられたけど、なんとか逃げ切ったね。


 それから、辿り着いたビルの上で、まーちゃんは叫んだでしょ。

『一緒に死んで!』って。


 私はやめようって言ったの覚えてるかな。

 だって、飛び降りたら、体がぐちゃぐちゃになるでしょ。


 まーちゃんのきれいな体がぐちゃぐちゃになるのが嫌だったから。

 でも、理由を言う前に、突き落とされちゃった。


 今でもまーちゃんの突き落とした手のひらの感触を、覚えてる。


 もっときれいな死に方があるって思っただけなのに。


「そんな死に方あるわけないだろ。そんな簡単に死のうとするなよ。こっちの世界で生きてる間は絶対死なないでくれよ」

 オリヴィエ王は嫌悪感を露わに言った。


 そんなに嫌なら、私の記憶を視なきゃよかったのに。


 あの時のまーちゃんは、本当に心がズタボロだった。

 あれから、どうなったんだろう。


 今、どうしてるのか純粋に知りたいんだよね。


 それで、元気に、幸せに暮らしてる姿を見て、良かったって安心したいんだ。


 もう日本だってかなりの月日が経ったと思うんだけど、私は今でも、まーちゃんのことが心配なんだ。


 オリヴィエ王はうつむいた。自分の両手を重ねるように握った。まるで、何かを押し殺しているように見えた。


「どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもないよ」


 でも、あげられた顔はどこか悲しそうで、切なげだった。

 立ち上がり、

「僕は仕事に戻るよ」


 そう言いつつも、精神世界を作り出した。

 日本の住宅街が広がる。


 オリヴィエ王はオリくんの姿で、

「きららちゃん。今日、僕の部屋で一緒に晩ご飯食べよう」

「嫌だよ。精神世界ならともかく、王と奴隷が一緒にご飯食べちゃだめだよ。私も周りの人から奴隷の分際で、えこひいきされてるとか文句言われて、肩身狭い思いしたくないし」


 オリくんは強い口調で、

「いいんだよ。僕の部屋なんだから。だから、僕が帰るの絶対待っててよ。約束ね。死なないでよ。君がいなくなるの絶対嫌だからね」

「そんな急に死なないよ。だって、自分で、死ぬの、怖いもん」


 そして、私はポツリと言った。

「だから、この世界で、仕方なく生きてる」


 だから、この世界で殴られる度に、心の奥底で、痛いのは嫌だけど、もっと殴ってくんないかな。そうしたら、きっと地球に戻れるからって思う自分がいた。


「その君の本音、僕知ってたよ。でも、君の口から聞きたくなかった」


 日本という精神世界は閉じられ、目の前に異世界という現実が広がった。


 オリヴィエ王は、

「約束だから」

 そう言って、無理やり私と指切りをして、部屋を出た。


 夕食の時間に、本当に彼は戻ってきた。そして、テーブルに乗り切れないくらいの夕食が置かれる。


 なんか日本にいた頃にテレビで見た高級フレンチ料理みたいなもの食べてるのかなって思ったら違った。


 ……えっと、金持ちの飯だけど、肉焼いただけとか野菜焼いただけみたいな感じ。


 リュミエール様が私の食事と自分の食事を持ってきた。

「アニエラ。今日の王は、きまぐれにより私たちと一緒に食事をしますよ」

「はい」

「王がいるから、気を抜いて、たるんでだらっとしながら食事を取れなくなりましたね」

 私は何も答えなかった。

 ちなみに、 私は床に座って食べるよ。奴隷だからね。いつも通りだよ。


 私の晩ご飯は団子みたいなものに、粉チーズが降られているものと野菜スープね。


 ちなみに、家宰の人も同じモノで、この人は椅子に座って食べるよ。


 オリヴィエ王は私たちの食事を見て、

「ねえ、それ何。味見させてよ。僕のも何か食べさせてあげるから」


 リュミエール様が、

「陛下。それは無理です。こういう食べ物は陛下が食べて良いものではありませんし、陛下の食べ物も私たちが食べていいものではありません」

「酷いよね、君ってさ」


 そう言ったけど、食後、私の精神世界の中で、しっかりと再現して食べていた。


 私もオリヴィエ王の夕食を、精神世界の中で食べている。うん、普通。

 やっぱ、白タキシードおじきチキンのほうがうめえ。

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