ルーンブルクに行ってみた
まーちゃんへ
ヴァレンヌにルーンブルクの残党が入りこんで、なんかしようとしてるらしいよ。
おさらいすると、ヴァレンヌはオリヴィエ王が治めてて、私が暮らしてる国ね。
ルーンブルクは私が転生した国ね。
こっちの世界で何年生きてきたかわかんないけど、本当にざまあもチートも全然ないよ。せっかく転生したのに。
オリヴィエ王が私を見つめながら、
「君は大体、十七か十八くらいじゃないかな。君はチートではあるんだよ。僕もだけど。でもさ、お互いオレツエーみたいな無双ができてないってだけだよ」
放送五分で打ち切り確定だな。
そんなことよりも、亡国の残党……か……。
独立とか企ててたら、嫌だな。
だって、そうなったら、オリヴィエ王が大変じゃんか。
地球だと、こじれて、国が滅亡しちゃったり、王が死んじゃった例もあるし。
「僕の心配してくれてありがとう。僕は君が心配だよ」
オリヴィエ王が困ったように言った。
だろうな。
私はルーンブルクの元王女だから、私を擁立して、王国復興を目指すことだってできるんだよね。
「僕はそういう意味で心配してるわけじゃないんだよ」
じゃあ、なんなのだろう。
まあ、私は警備が厳重な王専用の居住区画で暮らしてるから、残党が私に接触することはほぼないだろうけど。
「あったら、困るんだよ」
そうだよね。
私も困るよ。
ルーンブルクは私が生まれた国で、オリヴィエ王に併合された国という世界史の教科書に一行だけでてくる古代の国並の浅い知識しかない。
まあ、ちょっとはどういう国なのか知りたい気持ちもなくはない。
どうして併合されたのかなとか。
自分の故郷だからという理由じゃなくて、図書館で読んだ歴史物語を実写で楽しむような気分で、だけど。
オリヴィエ王が、
「僕の記憶で良ければ、ルーンブルクを見せてあげるよ。でも、歴史物語を実写にしたところで面白いものじゃないよ」
そう言いつつも、彼は自分の記憶を元に精神世界を作り出した。
そこには、広い草原の中に、ちょっと遠くに壊された壁が広がっていた。
私は精神世界だから、きららの姿になっていた。正直、ミニスカの日本人は草原のど真ん中とはいえ、かなり浮いている。
「ここはルーンブルクの王都ルーフェンの近くだよ」
「ありがとう。えっと、オリヴィエ王」
「いいよ、オリくんで。ここは精神世界だから」
「ありがと。じゃ、いつも通りね」
私はそう言ってから、壁の周囲にいくつも置かれている攻城兵器から、目を離せなくなった。
「うわー、 うわー、歴史小説みたい!」
思わず感激しちゃった。
「君が転生したのは歴史小説じゃなくて、ファンタジー世界だけどね」
知ってる。
でも、歴史にロマンをはせてしまうんだよ。
私は興味本位から、尋ねていた。
「魔法で派手に壊したりはしないの? それとも攻城兵器が実は魔法的な何かとか?」
「いや、普通の攻城兵器。君の世界で使われていたものと構造は一緒じゃないかな」
「あ、そうなの」
「戦いは野戦と攻城戦の二回あったんだ。僕は野戦の時は最初からいたんだけど、王だから、後ろの本陣にいただけだよ。で、野戦のあと、攻城戦になるってわかってから、一旦拠点の都市に戻ったんだ」
「攻城戦だから、時間かかった?」
「ううん、びっくりするくらいすぐ終わった。僕が到着した頃にはこの有り様だったよ」
だから、破壊された状態での再現なんだ。
私が感心していると、オリくんが歩き出した。
「そろそろ町に入ろうよ。兵器なんて見ても僕は楽しくないよ」
町を歩いてる姿もつまらなそうだけど。
「うん、実際、つまんないよ。だって、僕が城に向かっている時は、馬の上から町の人たちの恨めしい顔と心の中がよく見えて困ったよ」
私は彼の少し前を歩く。
オリくんは常に視界の中に私を入れたいから。じゃないと、私の心を覗けないんだよね。
普通の人なら嫌がるのはわかるけど、私はもう、視られて困ることは何もないから別になんとも。
町の中も一部が破壊されている。建物が崩れていたり、焼け跡が生々しくて、血の跡も見える。
人の姿はないけれど、きっと破壊や略奪、強姦が行われたんだろうな。
「あとあとの統治のこともあるから、そういうのは厳禁にしたよ。まあ、完全には防げなかったけど」
「あ、そうなんだ。優しいんだね」
地球だと、住民全員皆殺しにしたりするるし。
「そういうのって、極端なケースだと思うよ」
町の中はテレビで見たことがあるヨーロッパの町並みみたいな風景が広がっていた。なんか全部の建物の屋根が赤いな。
屋根が赤い国。これがルーンブルクなんだ。
オリくんが、
「屋根が赤いだけじゃないよ。ルーンブルクは王都と貿易都市が一つあるだけの小さな国でさ。日本でたとえたら、県庁所在地と田舎な市が一つあるくらいかな」
「そういえば、ヴァレンヌは?」
「王都に栄えた交易都市が二つあるよ。町の数は変わらないと思うだろうけれど、人口はヴァレンヌのほうが多いんだ。これくらいの規模で、そこそこ大きな国ってところかな」
「へー。そんな大きな国がどうして小国攻めたの?」
「カリシュタにそそのかされて、一緒になって、ヴァレンヌを攻めようとしたからだよ」
「じゃあ、しょうがないね」
「あっさりしてるな」
「だって、攻められたら大変じゃんか。だったら、傷が浅いうちに潰すのが得じゃない? わかんないけど」
私たちは丘を登って、城の前に来て、城の中を歩いた。
普段、私が暮らすお城よりもすっごく小さい。
よくこんな規模で、ヴァレンヌと戦おうとしたなーって感心しちゃった。
「僕もそう思うよ。カリシュタは言葉がうまいんだろうね」
大国に利用される前に、潰された。
たったそれだけだったね。
オリくんは静かに言った。
「それから、城内にこもっていた王族を捕まえて、処刑した」
処刑。
私もカリシュタで処刑を視たことがある。
王族の処刑だから、何か特別な感じだったのかな。
「ううん。普通に市民の前で、斧で首を落としたよ。僕もそれを見ていたけれど、君には絶対見せないよ」
「うん。私も親と兄弟かもしれないけれど、知らない人たちの処刑なんて見たくない」
私はカリシュタにいた頃、処刑された死体や刑場の掃除を何回もした。
きれいにしたからと言って、気持ちがよくなるわけじゃない。きれいになっても後味が悪いもんだよ。
オリくんが言った。
「帰ろうか。もう見るものないだろ」
「うん。もう何も見る必要ない。観光旅行みたいで楽しかった」
私たちは元の王の部屋へと戻った。
そこにはいつもの光景が広がっていて、窓の外に広が町も平和そのものだった。




