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運命の魔術師ご到着

 まーちゃんへ


 リュミエール様は夜になっても戻ってこないよ。

 運命の魔術師が来ないようにって、王妃や公妾が何かするのを阻止するためにあーだこーだしないといけないんだって。


 多分、運命の魔術師はそういう妨害が行われることもわかってるんじゃない?

 わかった上で、私に事前に、魔法を送ってきて、自分の存在を知らせてきたんだと思う。


 そんなことよりも、今日、私は晩ご飯が食べられないかもしれない。


 ちょっとがっかりだな。


 ……変なの、少し前まで水以外口に入れることができない日だってあったのに、晩ご飯がないだけでがっかりするなんて。


 私は奴隷なんだから、ご飯がなくてもそれが当たり前なのに。


 寝ようと思って、ベッドに潜ろうとしたら、メイドの人が私にご飯を持ってきてくれた。

 リュミエール様から事前に命令を受けていたんだって。


 私は食事をしてから、眠った。


 そして、夜明けに白い糸の魔法が私に届いて、目を覚ました。

 私は急いで着替えると、リュミエール様の寝室に向かい、彼を起こした。


「なんですか?」

「もうそろそろ城に着きます」

「! 本当に?」


 私は頷いて、

「あらゆる運命を、見通す魔術師です。おそらくこの時間に城に来るのが最もいい時間だと判断したのだと思います」


 リュミエール様も急いで着替えた。

 オリヴィエ王は今はセリーヌ王妃かリュシル夫人の寝室にいるから、知らせにはいけない。


 私たち二人は王専用の居住区画を出て、城の入口へと急いだ。

 夜明けとはいえ、空にはまだ星が瞬いている。


 私たちは城の外に出ると、丁度いいタイミングで彼は来た。


 銀髪に赤い瞳。

 白い服。白い帽子。白いマント。

 年齢は十五歳くらい。


 この世界だと成人したばかりだ。


 私は魔法の感知能力で彼を感知すると、彼が白い糸の魔法の主だ。


 彼は朗らかな声で、

「どうも。高貴な方の正しい運命を見通しに来ました」


 リュミエール様が私に尋ねた。

「アニエラ。お前が感知したのはあの者の魔法ですか?」

「そうです」


 少年は高らかと、

「僕の名前はルキス」


 そして、自慢げに、

「運命を視ることに特化した魔術を使うカイロス族の一員です。聞いたことありませんか? 結構有名なんですけど」


 リュミエール様はルキスとは対象的に険しい表情で、

「知ってますが、とても珍しい一族です。そんな珍しい一族がここに来るとはあまりにも出来すぎています」

「当然です。高貴な方の運命を視る運命を持つ僕が、自分の運命を実行しに来たんですから」


「あなたがカイロス族だという証拠がありません。アニエラの感知能力は高いですが、あなたが滅多にいないカイロス族の一員かどうかこちらではわかりませんね」


 ルキスは銀の腕輪を見せながら、

「これはカイロス族だけが持つ腕輪です。僕ら一族の紋章が書いてます」

 それから、ニッカリと笑って、言葉を続けた。

「あまり高貴な方の命令に背くのは良くないと思いますよ」


「!」

 リュミエール様は驚いた表情をした。


 ルキスは笑みを崩さないまま、

「あなたは王様から、僕が来たら、すぐに通すようにと命令を受けているじゃないですか。それが、昨日のあなたの運命でした」


 私はリュミエール様に念を押すように、

「彼はあらゆる運命を完全に見通します。たとえ、過去でも」


 ルキスも畳み掛けるように、

「僕を信用してもらえるように、あなたの過去と未来の運命をもっと言いましょうか?」


 やっぱりホンモノは違う。


 ルキスはニヤリと笑って、

「そろそろ僕をお城に入れないと、王の奥さんあたりから妨害されて、僕が城に入れなくなりますけど、いいんですか?」


 だから、この時間に来たんだ。


「来なさい」

 リュミエール様は渋々言って、ルキスを城内へと招き入れた。


 ルキスが城に入る前に、私にネックレスを渡した。

「そのネックレスをいつも肌見放さず持っていてください。僕の一族がこさえたお守りです。あなたの身を守ってくれますよ」


「ありがとうございます」

 私は受け取ったけど、後で取り上げられそう。


 加護にまつわるとても強力な魔法が込められていて、奴隷の私が持っていい代物でもないし。


 夜明け後、オリヴィエ王は緊急にルキスに面会し、そのまま運命を視てもらった。

 私はその場に立ち会わなかったから、何を話したかは全然知らない。


 でも、これで、オリヴィエ王は自分が、自分の血を引いた子どもを得ることができるのか、できないのかはわかった。


 ルキスは半日ほど、城内の人々に乞われて、運命を視たあと城を去った。


 私や宮廷の人々に、王とルキスが話した内容は伏せられている。


 オリヴィエ王は普段と何ら変わらず、笑っている。


 そして、結局、ネックレスも取り上げなかったけれど、二人っきりになった時、

「そのネックレスをずっとつけててよ。でも、僕の目に入らないようにしてよね」


 乙女みたいにプンプンしていた。


 ネックレスを取り上げられなかったし、常に身につけていろということは、将来、私の身に何か起こるんだ。


 私の心を視たオリヴィエ王はさらに不機嫌になって、

「知らないよ、そんなこと。僕は、もう君を、僕の部屋から出さない! それで、入口の警備の兵も増やす!」


 オリヴィエ王はルキスの心を視た時、私に避けられない危機的な運命が振りかかることを受け入れるしかなかったんだろうな。


 私はそんな自分の運命に煩わしさを感じるよ。


 ねえ、まーちゃん。


 私がすごい魔法感知能力を持っているのは確かで、私を誘拐したり、自分のものにしたい貴族が多いのも本当みたい。


 でもね。正直、私なんていなくても問題はないんだよ。


 オリヴィエ王が驚いたように目を見開いた。


 それはたとえ、私が奴隷以外の身分でも変わらない。


 彼は私と私の心を、深くまで見通そうと集中している。私の心の奥、私自身ですら、感じることができない部分まで視始めた。


 視界が揺れた。


 現実と、オリヴィエ王が作り出した精神世界が混ざる不思議な空間が現出した。


 今まで見たことがなかったから、最近、できるようになったのかな。


 オリヴィエ王は申し訳なさそうに、

「ごめん。最近、できるようになった力じゃないんだ。急にこうなっちゃった」


 まるで、水中にいるような不思議な感覚がある。この力が磨かれれば、この感覚は消えて、もっとクリアに現実と精神世界が混ざり合うんじゃないかな。


 私はオリヴィエ王を見た。

 オリヴィエ王と精神世界で過ごす彼の姿であるオリくんが重なって見える。

 不思議な感じだ。


「僕はいつもこんな感じに君が見えてるよ」

「そうでしたか」

「あ、でも、ちゃんと集中すると、アニエラだけ見ることができるよ」


 私はアニエラときららのどっちで彼に接するべきか困った。まあ、アニエラか。


「きららちゃんがいい。僕も、オリくんで過ごすから」


 わかったよ。


 突然、幼い頃の私の風景が、現れた。


 地球時代の私の母が幼い私にヒステリックに叫んだ。

『あんたなんて、いないほうがよかった! 産まなきゃよかった!』


 オリくんは動揺しながら、

「ごめん。こんな記憶を再現したいわけじゃない。勝手にされちゃうんだ。僕が力を操れない時は収まるまで待つしかないんだ」


 大丈夫。単なる過去だから。


 今、周りの人たちは君も含めて、皆優しい。でも、私は君たちが併合した国の元王族として生まれたでしょ。


 いつか迷惑をかける前に、私を殺しちゃってもいいんだよ。


 私はニッコリと微笑みかけた。


 オリくんもオリヴィエ王も心底から嫌な顔をした。


 ちょっとだけ、可愛い。だから、君の命令やお願いで死ぬのなら、まあ、いいよ。


「可愛くないよ。良くないよ。そんな命令もお願いもしたくないよ」


 顔を赤らめながら言った。でも、嬉しそうだね。

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