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こんなはずじゃなかったのにな(オリヴィエ視点)

 アニエラが書いた物語が宮廷で話題になっていた。

 僕がアニエラに地球で読まれている子ども向けの物語を書かせたのには理由がある。


 一つ目は、放っておくと彼女は心の中のまーちゃんに語りかけてばかりで、現実に戻ってこなくなるからだ。

 二つは、単純に文字の勉強だ。


 アニエラは王女として生まれたが、他国での人質と奴隷生活で人間らしい生活をしたことがないから、教育なんて一つも受けたことがない。


 そのせいで、彼女の知識や教養は前世の日本人だった頃に受けた教育や図書館で読んだ本がベースになっているし、この世界で通用しない日本語しか書けない。


 そんなろくに教育を受けてこなかった奴隷がいきなり、こんな話をしだしたから宮廷の人々は驚いた。


 僕が暮らす王の居住区画の入口には、最近、用もないのに、人が増えた。

 もちろん、アニエラ目当てだ。


 アニエラは王の居住区画から基本的に出ることはないから、彼女を一目見るためには、入口から居住区画内の廊下を歩く姿を見るしかない。


 僕は出入りするたびに、人とすれ違うから苛立った。


 アニエラは見世物じゃないんだよ!


 最初は皆、アニエラのことを併合した国の王女だから、寝首をかかれるぞとか散々な言いようだったのにさ。


 今だと、優れた魔法感知能力で、危険を察知できるし、面白い話で暇つぶしもできる優れた便利グッズのように思われている。


 書いた童話が話題になるところまでは別に良かったんだよ。


 良かったんだけど、面倒なことになってしまっている。


 セリーヌの所に行けば、


「陛下。女奴隷がとても話題ですわ。私の茶会でも話を披露させたいですわ」


 その心中には、


『私はあなたの妻なのだから、当然、お茶会に連れてきてくれるわよね。子どもの一人もロクに作れないんだから、それくらいやってくれるわよね。早く女奴隷を皆に見せびらかしたいわ』


 僕が子どもを作れないのとアニエラは別だろ。


『王は私を愛してるから、一番に私のお茶会に連れてきてくれたのよ。私は王の特別なのよって、皆に堂々と示したい』


 君は僕の愛が欲しいのに、なんで、心の中で僕のことをそんなに罵るんだよ。

 君が僕のことを、君なりに愛してるのは視えてるけれど、君の愛は自分勝手すぎると思うんだ。


 リュシルの所に行っても、

「陛下の女奴隷の書かれたお話がとても評判で。ぜひ私の茶会で話を語らせてくださいませ」


『女奴隷をお茶会に連れてくれば、伯爵様もきっと良い見世物を見れたと喜んでくださるわ』


 彼女は伯爵に一目惚れしたんだ。


『筋肉もなくて、剣術の試合で一勝もできない弱い王とは違って、たくましい筋肉、日焼けした肌。剣術試合でも優勝する強さ。最高だわ。あの方のおそばに一秒でも長くいたい。あの方にお茶会に来てほしい』


 僕が運動音痴で剣術も下手くそで、悪かったね。


 他の貴族と顔を合わせても、

「我が屋敷のパーティにぜひ、陛下の奴隷をお貸しください」


『優れた魔法感知能力だけじゃなくて、頭もそこそこいい娘を手に入れやがって。ルーンブルクの元王女だからと警戒したが、こんなことなら、もっと始めに自分たちで手に入れる算段をつければよかった』


 見せびらかしたい、自慢したい、妬ましい、羨ましい。

 そんな思いが混雑する宮廷はまさにアニエラフィーバーだ。


 僕は執務中でもこのことが脳裏から離れなくて、ため息をついた。


 あー、一度はアニエラをお茶会に連れて行かなきゃいけないんだろうな。

 一番最初はセリーヌで、次がリュシルが妥当か。


 僕はアニエラを、僕の部屋から、一歩たりとも出したくない。

 虐待とか言いたかったら、言えよ。


 僕には、アニエラを本気で誘拐しようと画策している貴族の心中が視えるんだぞ。


 檻で暮らすうさぎが可哀想だからって、狼の群れの中に投げていいのかよ。


 執務が終わって、部屋に戻ると、アニエラが机に向かって、物語を書いている。

 最近、彼女の執筆スペースを部屋の隅に設けたんだ。


 彼女は手を止めて、無表情に言った。

「おかえりなさいませ、陛下」


 リュミエールからそう言うようにと教えられたから言っているだけで、そこに一切の心がこもっていない。


 僕に心を視られていることも、その優れた魔法感知能力でわかっているのに、一切気にしていない。


 彼女の頭の中は今、感知した王都中の魔法の中から、面白そうな魔法を見つけ、それを追うことに夢中だからだ。


 彼女は尾行の魔法を「これは浮気調査かな、まーちゃん?」とかつての友人に語りかけながら、追っている。

 

 彼女が捉える魔法の数は膨大だ。彼女の心が見える僕ではあるけれど、彼女がそれをどのように感じているのかはよくわからない。


 なぜ、彼女がこれほどまでの魔法を感知し続けても平気なのか僕にはちっともわからない。


「ただいま」


 僕は軽く言ってから、椅子に腰掛けて、アニエラの精神世界に向かった。たったの数分でも、毎日、この世界で僕は過ごしている。


 きらちゃんがいつも寝ていたソファで、僕も横になった。

 このソファで、きららちゃんはいつも寝ていたんだ。

 そのソファに、僕も寝ている。


 今、アニエラは自分の精神世界に僕がいることを感じてるんだ。

 感じてるんだよ。


 僕はなぜかワクワクして、胸がドキドキして、ニヤけていた。

 時々、こういうことが起こるんだ。


 まだ、二十歳なのにさ。

 嫌になっちゃうな。


 そうだ、久しぶりに、きららちゃんもこの世界に呼ぼうか。

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