まーちゃん、これからプリン作るね
まーちゃんへ
私は今、馬車に乗って、貴族たちのお屋敷が集まる高級そうな区画を通ったばかり。
辿り着いたのは、護衛の人がたくさんいるお屋敷。
あー、偉そうな人がいるんだろうな。
「今日の舞台だよ。護衛がいるのは僕の護衛をするためだよ」
私がここにいるってことは、性接待かサンドバッグ要員か。
「性接待するなら、痩せっぽちの君よりも性欲刺激してくれるような女の人を用意するよ。サンドバッグ要員なんか用意しないよ。僕の国はね、たとえ、変態が相手だとしても変な接待はしないんだよ」
視る王が馬車から降りた。
「アニエラもおいで。大丈夫だよ」
視る王に命令されたから、私も降りた。
「最近、やっとアニエラって呼ぶときちんと命令を聞くようになったり、話を聞くようになって、少し話をするのが楽になりましたね」
「そうだね。リュミエール、厨房はどこだい?」
「こちらです。アニエラ、しっかりついて来なさい。王様が気晴らしに、柄にもないことをするんですよ。従僕である私や奴隷であるお前は嫌々ながら付き合わないといけません」
「それが、君の仕事じゃないか」
「御意」
「便利な言葉だね、御意って」
廊下を歩いて、食堂を抜けて、厨房に到着。人とは誰も合わなかった。
食堂はRPGに出てくるファンタジーな感じで、異常に長いテーブルが一個あって、椅子が横に並んでる。
建物の外には人がいるけど、中にはいない。だから、洋館を舞台にしたホラーゲーム感ある。
視る王が私を見て、笑った。
馬鹿にしてる?
「違うよ。君が食堂がどういう感じになっていて、僕がどういう表情をしているのかを感じれるようになって嬉しいんだよ」
ふーん。
厨房には、卵と黄色い液体と白い液体があった。
「蜂蜜と牛乳だよ」
?
バーモ◯トカレーでも作るの?
「それは、林檎と蜂蜜でしょ」
視る王は得意げな顔をして、
「今日はプリンを作るんだよ!」
プリン?
プリンが完成したのは、一八世紀だから、この世界観的に……。ただ、技術的には問題はないか。
でも、未開人の視る王に作れるとは思えないな。
「ハハハ。そうだね。アニエラ。本当だったら、異世界転生した君が、プリンを作って僕たちをあっと言わせるのが正しい展開なんだよ」
そんなん、作れんし。
「陛下。アニエラと何を話してるんですか? ついていけないんですけど」
「いいんだ。放っておいてくれ」
「他所で今みたいに、声に出さないアニエラとの会話はしないでくださいね。意味不明なことも言わないでくださいね。しっかりとアニエラに口で言わせてください」
「僕にとっては二度手間なんだよな、それって」
「お願いしますよ」
「アニエラは奴隷なので、勝手に心を視ているとか言えば、問題ないだろ」
「まあ、そうですけど」
視る王は私に向き直った。
「アニエラ。ここで、問題だよ。プリンの作り方は?」
「卵と牛乳と砂糖を混ぜて」
まーちゃんと作った時は、鍋に入れたら、うまくいかなかったんだよね。
「……おひさまに、……当てる?」
「なんだよ、それ。ネアンデルタール人だって、そんな作り方しないよ。縄文人よりも退化してるのなんでなんだよ」
それは、わかんない。
「まずは牛乳と蜂蜜を鍋に入れて、人肌になるまで温めるんだ」
視る王はそう言って、牛乳と蜂蜜を鍋に入れた。
「リュミエール。かまどに火をつけてくれ」
家宰の人がかまどに火をつけた。
かまどの中には薪とかはない。
「魔法で温めるんだよ。僕や君は特殊な体質だから、こういう普通の人が使える魔法は使えないけどね」
特殊な体質?
「君の感知能力のことだよ。変わった魔法的体質を持って生まれると、普通の魔法が使えないんだ」
へー。
空飛んで、変身したかったな。
「そういう魔法はかなり高度で、覚えるのは大変らしいよ」
次は、視る王は卵を持った。
「卵を割るのは初めてだな」
割れろ。
失敗しろ。
視る王は緊張気味にしながらも、卵をボウルに割り入れた。
チェ、つまんね。
「初めてなのに、お上手ですね」
「リュミエール。君もアニエラみたいに僕の失敗を望んだ気がするんだよ」
「望んでいましたけど、何か?」
「いや、別に」
視る王は私に、
「アニエラ、君も割ってごらん」
卵を一つ手渡してきた。
前世で、卵は何個も割ったから余裕。
卵かけご飯に、カップラーメンに、目玉焼き。
のぞみさんのアパートに転がり込んでからは、卵を割ってばかりの人生だった。
私は言われたとおりに、卵を割るために、割れ目を入れようとテーブルの上にコンコンとした。
卵は盛大に割れ、卵黄も白身も流れ出て、テーブルの上に広まった。
「ヒッ」
視る王が笑った。
家宰の人が淡々と、テーブルの上を拭いて、
「酷い人ですね。卵を初めて割って失敗しただけなのに、笑うなんて」
「すまなかったね、アニエラ。ヘヘ」
前世の卵と違った卵だから、しょうがない。
視る王はまだ笑っている。
家宰の人が私の顔を見て、驚いたように、
「陛下。アニエラが初めて、笑ってますよ」
「僕に釣られたのかな。だとしても、嬉しいな」
視る王は卵と牛乳を合わせて、器にこし入れた。
「あとは、鍋で蒸して、冷やすだけだ。リュミエール、火加減とか魔法でコントロールしてよ」
「了解いたしました」
「アニエラ。僕たちは休憩しよう」
私は広間に連れて行かれ、いつの間にか眠っていた。
家宰の人に起こされて、
「アニエラ。プリンができたので、厨房に戻りますよ」
厨房では視る王が得意げにしていて、
「アニエラ。見てごらん」
そう言って、鍋の蓋を開けた。
中には、プルンプルンの黄色い塊が3つの器に入って並んでいた。
まーちゃん、わあ。茶碗蒸しがお洒落な器に入ってる! 具がないから高級なタイプのやつだ。
「アニエラ。僕が今日作ったのはプリンだよ。まだ寝ぼけてるみたいだな」
「王。これを冷やせばよろしいのですね」
「頼んだよ」
プリンも家宰の人が魔法で冷やした。
プリンを冷やし終わったら、実食タイムとなった。
私と家宰の人は、視る王が食べるのを待っている。
「うわあ。これは甘くておいしいな。アニエラ、君も早く食べてごらん」
「陛下。私も食べたいですが?」
「もちろんだよ。君も食べてくれよ」
甘くておいしい、硬めのプリンでプルプルだ。
平安貴族の小僧も絶賛する味してる。
視る王が、
「アニエラ。このプリンさ、トパーズみたいに輝いてるだろ」
「それはないです。大げさですよ」
家宰の人が即答した。
視る王はプリプリしながら、
「僕はアニエラに訊いてるんだ! ほら、アニエラ、このプリンもトパーズみたいに輝いてるだろ!」
「いいえ、違います。それはプリンです」
「ほら。やっぱり大げさなんですよ、陛下は」
私はプリンをもうひとくち食べた。
おいしいな。
まーちゃん。
地球に戻ったら、一緒にプリンを、コンビニに買いに行こう。
「なんでだよ!?」
思ったよりも作るのが面倒くさかったから。




