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お花畑の向こう側

「まーちゃん!」

 私は声を上げると、一目散に彼女の元へと走り出した。

 まーちゃんも満面の笑みで叫ぶ。

「きららーん!」

 お花畑の中、私たちは抱きしめあった。


 まーちゃんは泣きながら、

「ビルから突き落としてごめん」

「いいんだよ、そんな細かいことはさ!」

「マジで!? あんた、心広すぎっしょ!」

「まーちゃんに突き落とされて嬉しかったもん」

「あんた、頭おかしくなった?」

 まーちゃんは驚きながら言った。


 しょうがないじゃん、本心だもん。


 それから、私たちは色々なことを話した。笑ったり、泣いたり、怒ったり。

 私たちの感情はカラフルで万華鏡のようにくるくると移り変わっていく。


 どれだけ長い時間話しても、空はずっと青いままで雲一つない。


 ここが――天国なのかな。


 まーちゃんが笑い飛ばしながら、

「結局、ウチ生まれ変わったんだけど、そこでもウチらしく生きることができなくてさ」

「私もなんか周りの人から殴られながら育った」

 私も笑い飛ばす。

「それで、ついさっき、死んじゃって」

「私も! 塔から落ちちゃった!」

「うちも塔から落ちた!」


 こんな時間が永遠に続けばいいのにな。


 私はふと、

「まーちゃん、私、まーちゃんのこと大好きだよ」

「ウチもだよ!」

「私ね、女として好きなんだ」

 今、言わなきゃもう永遠に言えない気がして言ってしまった。

 本当はまーちゃんの負担になりたくないから、絶対言わないって決めたのに。


 まーちゃんはびっくりしたけれど、すぐに大きな口を開けて豪快に笑いながら、

「ごめーん! ウチ、男が好きだからさ。でも、きららとは永遠に一番の親友だから!」

「知ってる。でも、言いたかったんだ。私の気持ち」

 私は苦笑いをして答える。


 まーちゃんがふわりと、

「でもさ、きららんとだったら、結婚できる」

「え?」

「友情結婚だけど。そうだ、ウチら、次、生まれ変わったら、一度だけ友情で結婚しよう」

「え? いいの? 突き落としたお詫びとかだったらさ、別にいらないよ。幸せだったし」


 好きな人に突き落とされて、好きな人が私を追いかけてくれて、その様子をまぶたに焼き付けながら生涯を終えることができたんだもん。

 最高にハッピーでしょ?


「ウチさ、きららんとだったら生涯一緒に楽しく暮らせる自身あるんよ」

「私もだよ!」

「じゃあ、決まりだ! 今度こそ幸せな子どもに生まれ変わろう」

「OK!」


 私たちは未来へ進もうと立ち上がった時、背後からオリヴィエ王の叫ぶ声が聞こえた。

「駄目だよ!」


 私が振り返ると、オリヴィエ王は決意に満ちた表情でこちらに向かってくる。

 そして、意を決したようにまーちゃんに、

「きららちゃんは僕と一緒に帰るんだよ!」

「誰、こいつ?」

「王様。私、この人の奴隷なの」


 まーちゃんはオリヴィエ王を睨み返して、怒鳴った。

「何、あんた、ウチのきららんのこと奴隷にしてんのか!?」

「ヒィッ」

 あまりの迫力に王は体が縮こまった。

 でも、負けじと叫んだ。


「で、でも、僕、きららちゃんの非公認非公式の彼氏だもんっ! きららちゃんが僕を置いてどこかに行くなんて絶対嫌だ!」

「じゃあ、一緒に来る?」

「駄目だよ! 僕、王様だもん。国を捨てていけないよ!」

 オリヴィエ王は泣き出した。


 泣きながらも、私の手を掴みながら、

「ねえ、きららちゃん! 一緒に僕と帰ろうよ! 僕、きららちゃんいないと、服着れない! お風呂は入れない!」

「着てるじゃん。私以外のお世話役の人にお世話ちゃんとしてもらってるでしょ」私は思わず言っていた。


 まーちゃんは笑いながら、言った。

「情けねー!」


 私はフォローするように、

「でも、オリくんは、あ、オリくんってあだ名ね。ヴァレンヌっていう立派な国の王様なんだよ」

「そうだよ。僕、結構いい国の王様なんだよ。僕、一国を戦争して滅ぼすくらい、本当は怖い王様なんだよ。だから、きららちゃんは置いていってよ」

 オリヴィエ王は涙を流しながら、主張し、最後に付け加えた。

「金と権力で君の顔をはっ倒すぞ」

「その前にまーちゃんに腕力ではっ倒されておりだよ」

 私はハッキリと言ってしまった。


 まーちゃんが、

「きららん。あんた、もしかしてルーンブルクの王女として生まれた?」

「うん、そうだよ。なんで知ってんの?」

「ウチ、カリシュタの隣の国の王子として生まれたのさ」

「えー、嘘ー」

「あんた、カリシュタでひどい扱い受けたでしょ!? うちの国にも届いてんだよ、酷いって」

「そうなんだー!」


 同じ世界に生まれ変わってたんだー。

 まーちゃんが、

「ヴァレンヌ王の女奴隷の噂と書いた本もうちの国に届いてるし」

「え? 私の書いたのって国越えてるの!?」

「ウチは読んでないけどね」

「別にいいよ。まーちゃん、漫画ですら読むのダルい人じゃん」


 まーちゃんが凶悪そうな笑みを浮かべ、

「っしゃあ! カリシュタ滅ぼすべ! きららんの復讐だー」

「だ、駄目だよ! やめてよ! 復讐なら別の方法とるから、国として困るよ」

 オリヴィエ王は困ったように声を上げた。


 まーちゃんは面倒くさそうに舌打ちをして、

「ウルセェッ! 指図すんな、チン毛ヘア」

「くせ毛だもん!」

 オリヴィエ王は私を盾にして、私の後ろから叫んだ。


「お前さあ、好きな女盾にするってどうなわけ? そんな情けない男にきららんを渡せるか!」

「ヒィッ! でも、でも、僕、きららちゃんのこと大好きだもん!」


 まーちゃんが私に尋ねた。

「きららん、こいつ、お前のこと殴ったり怒鳴ったりした?」

「一度もしてない。すごく可愛い犬みたいな感じで可愛いよ」

「じゃあ、良かった」

 まーちゃんは満面の笑みを浮かべた。


 それから、オリヴィエ王の顔を一発拳で殴った。

 いともあっさりと花畑の上に転がる。


 私は彼が起き上がるのを助けながら、

「大丈夫? オリくん」

「うん、大丈夫。でも、痛い」

 オリくんは私に抱きついている。

 私は彼の頭を優しくさすった。


 まーちゃんは叫んだ。

「ったりめーだろ! お前、絶対、きららんのこと殴るなよ! 泣かせるなよ! 怒鳴るなよ!」

「はい、絶対、殴りません。泣かせません。怒鳴りません」


「最後に、絶対幸せにしろよ」

「はい、幸せにします」


 私はふと、

「幸せにしますって言われても、塔から落ちちゃったし。生きることができるとは思えないなー」

「僕、諦めないよ。だって、僕、きららちゃんの彼氏だもん」


 その瞬間、私とまーちゃんの胸元が光った。

 見ると、ルキスからもらったネックレスだ。


 まーちゃんも胸元からネックレスを取り出す。私と同じデザインだ。


 ルキスの仕込みすごいな。


「きららん。ウチら、まだファンタジー異世界人できるんじゃない?」

「そうだね。まだ生きることができそう」


 私たちの前に扉が現れた。

 その扉を見た時、直感した。


 あぁ、私はアニエラとして戻るんだ。


 私はオリヴィエ王の手を引いて、まーちゃんとも手を繋いだ。

「それじゃあ、帰ろうか。オリくん、まーちゃん」

「っしゃあ!」

「うん、帰る」


 扉の向こうにあるのが、たとえ、冷たい石畳の地面との全身キスだったとしても後悔しない。


 私たちは扉をくぐった。


 扉をくぐった私とオリヴィエ王は、王の家臣の風の魔法によって地面との冷たいキスは避けられた。


 おそらくネックレスが光っても、私とまーちゃんの決断次第ではこの場で命が終わっていたのだろう。


 家臣団が王の元へとやって来て、安否を確認する。


 セリーヌはいずこかへ消えたという。


 私は隙を見て、彼の耳元で囁いた。

「――気持ちよくしてあげようか」

「うん」

 彼はうっとりするような表情で頷いた。

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