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堕・落

 まーちゃんへ


 大聖堂の鐘塔から、私は城を静かに見つめている。

 城からセリーヌ元王妃が飛び立ったのが見えた。


 私は、「あぁ、やっぱりな」と思うだけ。

 普通なら、もうちょっと何か思うものもあったのかもしれない。でも、私はもう色々な感情が麻痺してるか壊れてるんだろう。


 前世でも今世でも殴られたり暴言吐かれながら育ったんだもん。壊れたっていいじゃんか。


 横にいるカオリヤが、

「ルーンブルク神殿の秘儀に、人を怪物にする呪いがあるっていうがそれか」

「だと思います」

「あれが、あんたの所に来るのか?」

「そのはずです」


 だって、オリヴィエ王の心を奪った私のこと憎いでしょ?

 その憎い私を殺したくてしょうがないでしょう?

 もう殺しちゃ駄目っていう至ってまともな判断ができるほどの理性はあなたにはないはずだから。


 私だって、奪いたくて奪ったわけじゃない。

 彼が勝手に私のことを好きになってしまったんだ。


 でもさ、心の中で一応言っておくよ。

 ごめんね。


 あなたが愛した人に、好かれちゃってさ。


 セリーヌが私を見つけたらしく、一目散に何事かを叫びながら、こちらに向かってくる。


 カオリヤが魔法で作り出した鞭を右手に構え、左手には赤い炎を発生させた。


「カオリヤさん、逃げても大丈夫ですよ」

 身構える彼女に私が言うと、鼻で笑ってから、

「ルーンブルク王女として生まれたあんたを置いて逃げるわけないだろ」

「でも、きっとあなたでは……」

「承知の上さ。あんたはあいつに抱きついて、こっから落ちちまおうっていう算段だろう。あんたにはそれしかできないからな」

「そうです。あの人がああなったのは私のにも責任の一端があるので」


 私の言葉に、彼女は顔を歪め、

「化物になったのは弱さをつけ込まれたからさ。それを自分の弱さだと自覚できればあんなもんにはならなかった」

「あなたも深手を負いますよ」


 カオリヤはハハッと乾いた笑いを発し、

「あたしは元々、あんたを誘拐したんだぞ。生きていてもヴァレンヌに処刑されるだけだ。だったら、この命を最後まであんたのために使うのが、あたしの本望だよ」

「ありがとう」


 セリーヌは頭から角が生え、鋭い八重歯が見える。まるで鬼だ。

 オリヴィエ王はこの姿を見て、ぞっとしただろうな。


 私?

 魔法感知である程度は予想してたから、別に。


 私はセリーヌを改めて見た。

 彼女の胸元には、黒く輝く宝石が皮膚に張りついている。

 あれさえ壊せば……。


 私の前に立つカオリヤが炎で牽制するが、そんなのが通用する相手じゃない。

 炎が効かないとみるや、すぐに鞭でセリーヌに攻撃をし、怯ませる。


「痛みは感じるみたいだな」

 カオリヤは休みなく鞭をふるいながら言った。

 なんとか黒い宝石を壊そうとしているが、セリーヌは常人を超えた身体能力を発揮し、鞭をかわす。


 カオリヤを弾き飛ばし、私の元へと目指してくる。

 このタイミングだ。


 私はセリーヌに飛びつこうとした瞬間、彼女の頬に一閃の剣が浴びせられ、薄くではあるが血が流れた。


 横を向くと、オリヴィエ王が半分恐怖に引きつりながら、血がわずかについた剣を持っている。


 さすがに、私も驚いた。


 セリーヌは悲しそうに絶叫し、隙をついて私を突き落とした。


 それから、オリヴィエ王が飛びこんでくる。

「きららちゃん!」

 そう叫んで、私を強く抱きしめた。


 風の音を聞きながら、私の頭の奥から記憶が蕾のように開いた。


 ああ、思い出した。


『まさゆき! いつまで女の格好をしてるんだ!』

『いいじゃんか、これがウチの生き方だし!』


 まーちゃんの家族とまーちゃんは揉み合いになった。

 まーちゃんは恐怖に震える私の手を握って、アパートを飛び出した。


 ビルの上に辿り着いた私たち。風が冷たくて、頬を撫でていく。


 まーちゃんが、

『きららん! 家に連れ戻されたら、あたし生きてられない! だから、一緒に死んで』


 まーちゃんに私は突き落とされて、まーちゃんは叫んだ。

『ウチら、最高最強の友達だから!』


 それから、まーちゃんも飛び降りるのが見えた。


 ああ、だから、オリくんは私の記憶を封印したのか。

 私は封印されても仕方ないと思った。


 だって、まーちゃんも死んじゃっているのなら、私が生きる動機がないから。


 ああ、でも、幸せ。


 だって、前世の人生の最期の瞬間まで、一番好きな人が視界に入ってるんだよ。


 私は呟いた。

「ごめんね、オリくん。巻きこんじゃって」

「僕、諦めてないから」

 その声はとても震えていた。強がらなくていいんだよ。


 ルキスからもらった加護のネックレスが光りだす。


 私の意識が流転する。

 私はいつの間にか菜の花やチューリップが咲き誇る花畑にいた。


 そして、その花畑の真中にまーちゃんが立っていた。

 

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