王妃様がなんか言ってる
まーちゃんへ
今日の晩ご飯はパンと臭いチーズと野菜のスープだよ。
どこで食べてるかって言うと、ソファとかが置いてある部屋の隅っこの床。
視る男はソファに座りながら、紙に何かを書いているくさい。
「仕事関係の書類だよ。私室にまで持ってきたんだ。エリート王畜ってやつなのかな、僕って」
まーちゃん、最近、わかったことがあるのね。
一つ目は視る男はどうやら王様らしい。
「そうなんだ、王様なんだ。僕はオリヴィエという名前なんだ。覚えてくれると嬉しいな」
二つ目は私のような常人の目には視えないものに色々と話しかけてるわけではなくて、私に何か言っているらしい。
「そうなんだよ、独り言のように見える時は、大抵君に話しかけてるよ。君は僕と話をしないで、まーちゃんにばかり語りかけてるけど。それと、君ってさ、魔法感知能力が高すぎて、常人ではないからね」
まーちゃん、今日のご飯のチーズは昨日と味が違うよ。なんかすごく臭くて苦い。食べ物なの、これ?
「ほら、またまーちゃんだよ。そのチーズ、あまりおいしくないよね。僕も臭いから嫌いだよ。出されたら、しょうがなく食べるけどさ。だから、君もちゃんと食べるんだよ」
まーちゃんにもこのまずいのを食べさせてあげたいよ。
部屋がノックされた。
私は食べ物を素早く自分の後ろに置いた。
それから、王妃様が入ってきた。
まずいな。今、腹の中に食べ物が入ってる。
殴られたら、吐いちゃうかもな。
次、いつ食べられるかわからないから、腹だけは守らないと。
王妃様は視る男に向かって、
「陛下! 女奴隷を寝室に置くとはどういうことですか! 貴族たちからも女奴隷の部屋をあてがえと言われたはずですわ」
「宮廷の中で彼女を誘拐しようと企む悪い貴族がいるみたいなんだよ。彼女一人だけでヴァレンヌの大部分の魔法を感知できるみたいなんだ。元がルーンブルク王女でもあるから、なんとしてでも誘拐されるわけにはいかないんだよ!」
「私、あなたの妻で王妃なのですわよ! どうして、私の言うことを聞いてくださらないの!」
「わかってるよ。だから、国の安全を考えてるんだよ。僕がキミと一緒に末永く平和にこの国を守りたいんだよ。彼女が流出したら、国の平和が脅かされるんだよ」
こいつらうるせー。
王妃様がひときわ大きな声で、
「私の心の平和はよろしいんですの!?」
「それもとっても大事だけど、戦争のリスクを避けることも大事なんだ。ごめん、セリーヌ。僕は君の期待に応えることができなくて」
「たとえ、優れた魔法感知能力があるとはいえ、相手は女ですよ!」
視る男が私を指差して、
「き、君は何を言ってるんだよ! あ、あんな、骨と皮だけの女の子と、ぼ、僕が、夜を共にするって本気で思ってるのかい!?」
視る男は特殊性癖の変態なんだ。
「だって、リュシルとは床を共にしてるではありませんか!」
「将来の国のために決まってるだろ!」
「まあ、どうだか! あなたは私が一番愛してるっていう割に、全然、私の言うこと聞いてくださらないじゃありませんの!」
「国のために聞けないこともあるんだよ」
二人とも声を張り上げてるんだけど。応援団に向いてそう。
「国のため、国のためってなんですの! 私はあなたのためだけの女として育てられたのですわ」
「それは感謝してるよ。だから、愛してるんだよ」
「それなら、私を愛しているなら、リュシルを遠ざけて、私に甘い言葉をかけて、もっと一緒に長い時間いてくれてもよろしいじゃありませんの!」
昼ドラか。アハハ。
「だから、子どもが生まれるまではそれは無理なんだよ」
「まあ、私が子どもを産めないことをあなたまで責めるんですの!?」
「ち、違う、違うんだよ!」
視る男が宥めるように、
「僕は、夜は君かリュシルの所にしかいないんだから、あの子とどうにかなりようがないよ。これからもそうだよ。それに、今日もこれから君の所に行こうとしていた所なんだよ」
王妃が少し動いた。
私は息を止め、お腹を抑えて防御の姿勢に入った。
見つかると、殴られるかもしれないからじっとするが吉。
「まあ、ほ、本当ですか?」
「本当だよ。子供を設けるのは王と王妃の大事な務めじゃないか」
「そ、そうですわね。私が先ですか? リュシルじゃなくて」
「当然じゃないか。君は僕の妃なんだから。リュシルは単なる公妾だろ」
「そうですわよね。そ、それではお待ちしていますわ」
王妃様が部屋を出ていった。
私の存在に気づかなかったみたいだ。
ラッキー。やったぜ。
視る男が私の所に来て、「あのさ」と声をかけた。
私に命令や用がある時の態度だ。話を聞かないといけない。
「結婚して、五年も経つんだけど、子供ができないんだよ、一人も。頑張ってるんだけどね」
どうでもいい。
「日本で言うところの中学三年生の時からずっと頑張ってきたんだよ」
ナニソレ、ウケる。
「ウケないでよ、僕は本気で頑張ってるんだから、五年も」
五年もだって、キッツー。
「今年で二十歳だから、お酒が飲める年になったんだよ。まあ、こっちの世界に生まれてるから、もっと若い頃から飲んでるんだけどさ」
視る男は腰をさすながら、
「おかげで、王都にいる間はずっと腰が痛くてたまらないんだよ」
女に乗ってもらえばいいじゃんか。
「その手もあったか」
視る男が、
「ちゃんと食べるんだよ。殴らないから。もうちょっと太ったほうが良いよ。その体はやっぱり不健康だよ」
太らないと、締まりが悪いからか。
「君とまでヤる余裕がないよ。こっちはセリーヌとリュシルの顔を立てるために、平等に通って、腰を傷めないといけないんだから」
中年童貞が聞いたら、刺されるよ、それ。
「大丈夫、僕には常に護衛官がいるからね」
自慢か。
「それに、君は本当はセックスが嫌いじゃないか。僕もセックスは本当は好きじゃないよ。今日こそ、子どもが孕みますようにっていうプレッシャーをすごく感じるからさ」
早く食べるの再開したいんだけど。まだ、話終わんないのかな。
「そんなプレッシャーを感じながらも勃起と射精ができる僕ってすごいと思わない」




