2年です、先輩
「先輩、ご卒業おめでとうございます。今まで本当にお世話になりました」
涙を堪えるのもなんだか馬鹿らしくて、私は潤んだ目のままそう言った。
「こちらこそだよ、ありがとう」
雪国かと思った。桜が白くて、綺麗だったから。
神様が居るのかと思った。先輩が今までで1番カッコよかったから。
「ずっと、ずっと、大好きな先輩でした。卒業してもまた会えますか?」
告白?をしたつもり。でも、ただの後輩に見えただろうか。曖昧すぎるって自分でも思うけど、そうでもなきゃ何も言えない気がした。
言いたいことなんて山ほどあって、脳からはいくらでも出てる信号が、私の喉には届かなかった。
これコンセント抜けてるんじゃないかって。
「………どうだろう、今はまだ分からない」
そうですか、と思った。
「先輩、最後に一つだけお願いしてもいいですか?」
先輩は変な人だし多分「お願いによる」とか言うから、返事も聞かずに続けた。
「私、先輩の服が着てみたいです」
「…………いいよ。少しだけね」
何の間だよと思った。少しだけが1番嬉しいとも思った。
先輩はブレザーを脱いで、私の後ろに回った。
先輩が私の肩に服をかける時、ちょっと背伸びしてやった。
昨日トリートメントした髪からいい匂いしろって。
あわよくば先輩に私の頭当たれって。
先輩の匂いに包まれて、先輩の温もりを分けてもらって。なんて幸せなんだろう。
こういう込み上げてどうにもならない気持ちの時って空見るに限るよなと思った。上見たら先輩が居た。
鼻血出るってと思って一瞬で下を見た。
桜って散ってからも綺麗なんだな。
寂しくてわんわん泣いてた昨日の自分には想像もできなかった。この幸せな時間が、一生続くのかな。
一生は続かねえよ、脳内の私が言う。
こんな時まで私、オタク女子すぎるってマジで。
幸せを噛み締める私からブレザーを取り上げて、焦ったように先輩が言った。
「ごめん行かなきゃ、3年間ありがとう」
「え、あ、こちらこそ、3年間ありがとうございました」
別れって突然だよっておばあちゃんが言ってたな。もしかしてこれのこと?
走りながら着ようとするから、2回くらいブレザーに腕通ってなかったよ先輩。焦っちゃって、可愛いね。
先輩が見えなくなっても私、手を振るのやめなかった。愛が深いなら、やめちゃダメだって思った。
先輩、私は先輩の事2年しか知らないです。
私の知らない1年に、どんな先輩が居たんだろうか。今よりもっと生意気で、そんな所も可愛かったらいいな。
もう二度と会える気はしないけど。
私が居たから逃した電車が、1本でも多くありますように。
先輩のイヤホンをつけたのが、先輩と、私だけでありますように。
言わなかったけど私、先輩の服を着てうつむいた時、ブレザーのボタンが1つ足りないのが見えたんだ。
私先輩のことよく知ってるから、こう思った。
もう、おっちょこちょいだなあって。