第9話 カレナとリアリティ
「アタシ、別にデモンオーガの生態を研究してる訳じゃないんだけどね……」
ナレカはげんなりしていた。
「生体構造の更新ですから、デモンオーガ以外の魔獣や野獣にも適用してますよ。
これからは野獣を狩っても血が出ますし、弱ったり興奮したりすると動きが変わるはずですよ」
これで次からはより生物として洗練された野獣も出てくるだろう。
「いや、そこじゃなくて……」
ナレカは余計にげんなりしていた。
バックのエンジニア達も若干引いていたようだ。
「なんでチーフそんなウキウキなんですか……?」
「普通だよ!」
必要だからやってんのに何なんだよみんなして!
「そうだ、残りのデモンリザードとデモンワイバーンについても現状で分かってる範囲でいいので、情報をいただけますか?
今今は脅威ではないのかもしれませんが、コイツ等ともいずれ戦うことになると思いますので」
この弄られてる状況でさらに魔物を増やす提案をする。
必要なことだから仕方ないよね。
「現状で分かってる範囲ね。デモンリザードは少数を相手にした経験がある。コイツ等の問題は数なんだけど。
デモンワイバーンは王都の人たちはほとんど交戦経験がない。この辺にはいないんだよね」
デモンリザートとデモンワイバーンの情報をリバティに読み込ませて顕現させる。
デモンリザードは交戦記録が万能鏡に記録されていたため、それを元にそこそこの再現はできたが、デモンワイバーンについては遠くで飛んでる記録しかなく、姿形しか再現できなかった。
「まぁ仕方ありません。いったんはこれでいいでしょう。
ガワだけでもあるのとないのとでは違いますし」
「フーン、そういうもの」
プレイヤーと魔物のアップデートは一通り終わった。
プレイヤーはやや弱体化して、魔物はやや面倒になったイメージなので、
トータルでまた難易度が上がったことだろう。
そろそろ救済措置についても考えた方がいいかな。
それがそのままリアルリバティアスでの生き残る術になるのかもしれない。
「では、改めて残りのデモンオーガについても順次配置しましょう」
王都周辺には、まだあと5体のデモンオーガが生息している。
森、平原、川辺、岩山、洞窟など様々なところに住み着いているようだ。野獣を食べてるらしい。
人間は食さずに叩いて吹っ飛ばすらしい。どうやら奴らにとって人間は虫の様な存在の様だ。
ナレカにデモンオーガの生息域を順番に透視投影してもらい、リバティに指示してゲーム内に顕現させる。デモンオーガが住み着くよう周辺に野獣も一緒に配置する。
「中々リアルに仕上がりましたね」
息遣いが映像からでも伝わってきそうだ。
「勘弁してほしいけどね」
ナレカは気持ち悪がっていた。
配置したデモンオーガ討伐クエストを順次発行する。
「大丈夫ですナレカさん。もう少しの辛抱ですよ。
これから数々のプレイヤー達が残りのデモンオーガを討伐していきます。
そうすればリアルの王都周辺からいなくなってもらうこともできるでしょう。
全エリアの攻略動画を準備しますので、1か月後ぐらいにまたいらしてください」
「確かに1カ月で奴等を一掃出来たら流れが変わるかもね。
分かった。取り合えず戻るね。ただ、さっきも言ったけど――」
「分かってます。異界交信でより良い力が手に入ったらそっちを使う、ですね」
ナレカは頷いてから、軽く手を振って転移魔法陣へ向かう。
「ところで、この転移魔法陣どうなるんです?」
ふと気になった。消えるのだろうか?
「このままにしておく。一度閉じるとまた異界交信でアナタと繋がないといけないから。
もう一度交信が成功する保証はないし」
そう言ってナレカの意識体はリアルリバティアスに帰っていった。
転移魔法陣は開きっぱなしだし、またここに来ると期待してよいのだろうか?
さすがにこちらから転移魔法陣を通る勇気はない。
これから続々とプレイヤーのデモンオーガ討伐の動画が上げられることだろう。
仮に新しい力が手に入ったとしても、それらは無駄にはならないはずだ。
挨拶にでも来てくれれば、渡そうと思っているが……
私は悶々としていた。
「しばらくはゲームも安定稼働するでしょうね」
バックのエンジニアが答える。
「そうだね。それで、頼みがあるんだけど」
「分かってます。ナレカさんについてですね」
こちらに損害を与えるような目的はなさそうだったし、ゲームのネタもくれた。
悪い人ではないのは分かったが、やはり素性を明らかにしたい。
産業スパイやハッカーの可能性も否定できない。
しかし、このゲームには存在しない高度な術を使っていたため、
この場に意識体がいる間は下手に動かない方がよいと判断していた。
リアルリバティアスに帰っている今の内に徹底的に調査をしておかないと。
◇リアルリバティアス◇
賢者会に廃村デモンオーガ討伐の報告が入ったのは討伐から数日後のことだった。
「ど、ば、そんなばかな」
サールテ大臣が驚きの声を上げて、よく分からないことを言っている。
「傭兵ジンギ率いる8人のパーティが見事に廃村のデモンオーガを打倒したようです。
早速ですが、この戦術で残りのデモンオーガどもの討伐を。我々からも数人の魔術師は出せましょう」
賢者長キーユが提案する。
「お、お待ちくだされ! 奴らを下手に刺激しては、手痛い反撃を食らってしまいますぞ!
デモンリザードやデモンワイバーンが来たらどうするのです?」
サールテはビビってやめさせようとしてきた。
こいつはこのまま魔獣に蹂躙されろと言ってるのだろうか?
「では我らが騎士団が残りの連中を討伐しようではないか!傭兵共に後れを取るわけにはいかん!」
騎士団長ガウロはすぐにでも出陣しようと息巻いている。
しかしマーズ王が静止する。
「待てガウロ。お主は城の警護が仕事であろう。魔獣討伐だけが仕事なのではないぞ!
それに聞けば此度の作戦、廃村という地形を利用したのがたまたまうまく行っただけなのだろう。
その状況ではまだ攻略法が分かったとは言えん」
マーズ王はカレナ並に慎重派だった。アタシもまぁ同じ意見だ。
今回の討伐作戦で傭兵達は深手を負っている。次の討伐メンバーも集められてせいぜい数人だろう。
それに野獣の討伐もあるし、国内の荒事を収める必要もある。騎士団や傭兵は意外と忙しいはずだ。
たった1体デモンオーガを討伐したぐらいでは、やはり上層部は動いてくれそうにない。
まだ何かが足りない……。
この日の会議も何も成果が出ず終了した。
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