第89話 カレナの世界からの襲撃
◇リアルリバティアス◇
「さて、ナレカ、カレナ、何か掴んだのか?」
馬車の中で王妃は先ほどの戦闘について聞いてきた。
線虫が見えたのは、そういうことなんだろうか?
「はい。まだ完全ではないですけど。
修行は行き詰まっていたので、後は実践あるのみだろうなとは思ってました」
アタシは率直な感想を述べた。
「うぬ等のは妾達の様な先天性のものではない。それは何か新しい力であろう。
そうだな……。女神バティは心眼を用いて真実を見通したと言われておる。
さしずめ、女神眼というところか」
「お、分かってますね~。王妃様も以外と男の子ですね」
「よく分からぬが、馬鹿にしておるだろ」
「アンタちょっとフランクすぎるよ!」
アタシは隣のカレナに肘打ちを数回食らわせた。
カレナは「ちぇっ」と言いながら外を見始めた。
町が見えてきたが、何か様子が騒がしかった。
嫌な予感がする。すると――
キシャァァァァァァッ!
馬車の前に魔蟲が立ちはだかった。
「ちぃっ、彼奴め、すでに準備しておったか」
王妃は悔しそうにその状況を見ていた。
既に町の中に蟲が入り込んでおり、彼方此方で兵士達が戦闘している。
「王妃!町に結界とか張れないのですか?」
アタシは王妃に聞いた。結界を張れば、多少は食い止められるだろう。
「分かっておる。宮殿に戻れば可能だ。急かすな!」
「無駄じゃ。止めておけ。民を蟲の餌にする気か?」
なぜかエルフの長が町の中にいた。
「姉上、居るのだったら何故結界を張らぬ?」
「じゃから、民を蟲の餌にする気か愚妹が。よく見るのじゃ」
ちょっと、こんなところで姉妹喧嘩とかしないでほしいんだけど。
エルフの長は何故か宮殿の方を指さした。宮殿の方を見ると蟲が大量に湧いている。
「馬鹿な。宮殿から蟲が湧いておるのか」
「まさか、宰相が……?」
クラウドはそう呟いて宰相を捜した。そりゃまぁ、最初に疑われるよね。
「隊長!戻られましたか」
町に常駐していた帝国軍がこちらに駆け寄ってきた。
どうやら宰相も一緒にいる様だ。
「アンタ!この状況を説明しなさいよ!」
リマが掴みかかりそうな勢いで宰相に怒鳴っている。
「残念ながら私ではない。以前も奴が私に構わず蟲を送り込んでいたのは貴方も見ただろう?」
宰相は疑われるであろうことを予想していたのか、落ち着いて応答している。
嘘をついている様には見えない。
「宰相、何故、宮殿に蟲が大量にいるのか原因について心当たりはないか?」
「宮殿から蟲が湧いている様に見えます。あの数です。
元々潜伏していたというより、文字通りどこかから湧いているのでしょう。
ただ、私の魔法陣は蟲を召還するものではありませんし、そもそも効力は切れております。他の原因でしょう」
他に宮殿から蟲が湧いてくるなんてことはあり得るのだろうか?
「あれ、地下から出てきてますかね? だとすると一つしかないと思いますが」
カレナ蟲達の状況を見ながら答えた。
アタシは宮殿を透視した。上層階は扉を閉め切って、蟲の進入を防いでいるようだ。
確かに地下から出てきている可能性が高い。だとすると……。
「まさか、リバティアスダイヴから!?」
カレナは数回静かに頷いた。
「おいおいおい疫病神! アンタが伯爵と通じてたってわけ?」
リマと帝国軍はカレナを拘束しようと囲み始めた。
「おいおい、仲間割れしてる場合じゃねーだろ!」
ジンギとキズミは剣を構えて帝国軍に対峙した。
「止めなさい、彼女ではありませんよ。君達は短絡思考も大概にしなさい。
元々蟲の被害を訴えてきたのは彼女の方ではありませんか。
今は一匹でも多く蟲を片づけることが先決です。ほら散った散った」
クラウドは場を納めると、こちらに向き直った。
元々はリアルリバティアスからリバティアスダイヴに蟲が来てるって話だったのに、今度はその逆なのね。もう訳分かんない。
「さて、カレナさん、ナレカ君、リバティアスダイヴの状況を見に行った方がよいでしょう」
カレナは言われなくてもそうするつもりだろう。
「くふふふふ、そう急がずともゆっくりなさってはいかがですか?」
付近の蟲が集まって人型を形成し、ベラカス伯爵が現れた。
「テメェ!」
ジンギはすかさずベラカスに切りかかるが分裂して交わされた。
「これが狙いだったんですか?」
「念入りに準備をしたのですが、それでもヌシを退けたのはさすがと言っておきましょう。
私の一部を切り出した線虫は外部から捕捉されない様に結界で覆っていたはずなのですが、どうやって見つけ出したのでしょうね? 聖獣を操るのも簡単ではないというのに……。
ですが、時間をかけすぎましたね。あらゆる世界を侵略する準備が整いました。”詰み”です」
カレナの問いにベラカスは回答した。
ヌシを操っていたことも隠すつもりはないようだ。
「あらゆる世界?」
アタシはベラカスの言ってることに違和感を覚えた。
こことリバティアスダイヴを一緒にと言う意味だろうか。
「……”向こうの現実世界”も、ですか? プレイヤーを暴走させる方法模索してましたよね」
「ご明察。私の一部を切り出す方法ではヌシを操るので精一杯でしたが、スカラベと言う万能ツールが向こうには存在してますからね」
何のことか分からないが、”向こう”、つまりカレナの世界にも危険が及んでいるようだ。
「貴様! 性懲りもなくノコノコと!」
バシュッ、バシュッ!
帝国軍は女神銃でベラカスを攻撃しているが対して効果がない。
「厄介ですね。カレナさん、向こうではどのように対処したのですか?」
クラウドは、ベラカスが分裂して、再結合後のタイミングを見て攻撃しているが、やはりあまり効果が出ているように見えない。
「簡単ですよ。分裂体をまとめて蒸発させただけです」
簡単とは言うけど、要するに上級女神術でまとめて片づけたということか。
「その通り! 小生のような敵を倒すときは広範囲攻撃がセオリー」
そう言うと、ベラカスは5体に分裂した後、付近にいた魔蟲を取り込んで、強化した。
「――なので、小生も対策いたしましょう」
さらに5体のベラカスはお互いに上級女神術の範囲に入らない様に距離を取った。
「実に素晴らしい。凛堂カレナ、貴方からは学ぶことが多いですよ」
「うるせーよ、勉強会なんかやってねーよ!」
カレナは嫌そうな態度で返答した。
「くっ、1体ずつ処理していきますよ。まずは近くの敵からです」
クラウドの指揮の元、反撃をするがとにかく数が多くてキリがない。
「ねぇ、あの魔法陣は意識体しか通れないはずなんだけど」
アタシは疑問をカレナにぶつけた。湧いている蟲には実体がある。
「だから、ここに来たタイミングでベラカスが実体化させてるんでしょ。
詳しい仕組みは知りませんよ。大量の魔力供給とかじゃないですか?」
ということは、付近の蟲共は、ほぼ魔力の塊ということか。
「おや、小生の力に興味がおありですか。概ねおっしゃる通りですよ。
蟲の本体はそこら辺にいる小さな虫でよいのです。それと魔蟲を融合する。
なにしろ、バシュッ!、この大量の、バシュッ!、魔力供給と言うのが、バシュッ!、肝、バシュッ!、でしてね」
分裂と再構築を繰り返して台詞が飛び飛びになっている。
そこら辺にいる虫とリバティアスダイヴで生成した魔蟲を融合して強化し、大量の魔力によって巨大化させると言ったところか。
しかし、いくらなんでも無限に魔力を供給できるはずがない。
「おやおや、焦りが見えますねぇ。これですよ、絶望こそが邪神の糧となる」
「全く良く喋る。邪神復活とか目論んでるようですけど、可能なんです?」
カレナはベラカスと対峙しながら、顔だけクラウドの方を向いて問いかけた。
「分かりません。こんな微々たる負の力で復活はしないと思いますが」
たしかに逆境ではあるが、絶望する程ではない。
「えぇい、鬱陶しい。とにかくカレナ達をまず向こうへ届けることが最優先だ。
よいか?隙を作るぞ!。――女神の昇天」
「威勢がよいですね。その様に簡単に小生が隙を見せると――はっ!? ぐふっ!」
王妃は短縮詠唱を使い、奥にいるベラカス一帯の脳天をハイライトで貫通して見せた。
一時的に蟲全体の動きが鈍くなった気がした。
「?? 何だか知らないけどチャンスだ。ジンギ、キズミ手伝って」
アタシはすぐに仲間に声をかけた。
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